2016
08/23
火
1: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 22:52:05.42 ID:v/lcqjxK0
キミはさ、あたしと死んでみる気、ある?
一ノ瀬は不敵に口角を上げた。差し出してきた右手には、透明な液体のゆらゆら揺れる試験管。
応えを求めるように、彼女は首を傾げた。見透かされている気がする。
ならば言葉は不要だ。
きっと、どんな言葉も空虚になるから。
無言で試験管を受け取り、一息に呷る。無味無臭。
なんともない。いつもの冗談か。そう断定しようとして、次第に意識が重くなる実感を持つ。
落ちていく瞼。思考がもたつく。硬い床に腰を下ろす。座っていられない。横たわる。
意識が途絶える間近、捉えたのは俺を見下ろす一ノ瀬の顔。
彼女の穏やかな表情に安堵する。ああ、こんな俺でも期待に応えられたのならいいや。
不思議と、とても幸せな気分だった。
◇
一ノ瀬は不敵に口角を上げた。差し出してきた右手には、透明な液体のゆらゆら揺れる試験管。
応えを求めるように、彼女は首を傾げた。見透かされている気がする。
ならば言葉は不要だ。
きっと、どんな言葉も空虚になるから。
無言で試験管を受け取り、一息に呷る。無味無臭。
なんともない。いつもの冗談か。そう断定しようとして、次第に意識が重くなる実感を持つ。
落ちていく瞼。思考がもたつく。硬い床に腰を下ろす。座っていられない。横たわる。
意識が途絶える間近、捉えたのは俺を見下ろす一ノ瀬の顔。
彼女の穏やかな表情に安堵する。ああ、こんな俺でも期待に応えられたのならいいや。
不思議と、とても幸せな気分だった。
◇
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2: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 22:54:01.06 ID:v/lcqjxK0
寒さに目を覚ました。
頭が重い。身体も重い。
視界に広がるのは退廃的な部屋。薄暗い。ゴミがそこらに転がっていて、その大半はピザの空き箱。一ノ瀬の部屋だ。
記憶があやふやだった。どうして俺はこの部屋で寝ているのだろうか。
昨日(たぶん)はプロデューサーとしての最後の仕事だった。一ノ瀬を送り届けて、すべての業務を終えたはず。
そのあと、一ノ瀬に部屋へ上がるよう促されて……。
……ああ、思い出した。得体の知れない液体を飲み干して。そうか、俺は死ななかったのか。寒さに生への実感を覚える。
落胆と安堵。そして疑問。昨日、どうして一ノ瀬はあんなことをした?
見透かされていたのかもしれない。あり得る話だ。面倒になりそうだったので辞めることは伝えていなかった。
気づいてる素振りなんて見せなかったが、俺が思う以上にあいつは演技派らしい。
元プロデューサーとしては喜ばしい限り。
今となっては厄介極まるが。
と、違和感。
胸元まで掛けられた毛布。どう見ても、ひとり分膨らんでいる。それに、よく見ると俺は上半身裸。
気づくと敏感になる。胸にかかる微かな吐息。背中に回された手。
頭が重い。身体も重い。
視界に広がるのは退廃的な部屋。薄暗い。ゴミがそこらに転がっていて、その大半はピザの空き箱。一ノ瀬の部屋だ。
記憶があやふやだった。どうして俺はこの部屋で寝ているのだろうか。
昨日(たぶん)はプロデューサーとしての最後の仕事だった。一ノ瀬を送り届けて、すべての業務を終えたはず。
そのあと、一ノ瀬に部屋へ上がるよう促されて……。
……ああ、思い出した。得体の知れない液体を飲み干して。そうか、俺は死ななかったのか。寒さに生への実感を覚える。
落胆と安堵。そして疑問。昨日、どうして一ノ瀬はあんなことをした?
見透かされていたのかもしれない。あり得る話だ。面倒になりそうだったので辞めることは伝えていなかった。
気づいてる素振りなんて見せなかったが、俺が思う以上にあいつは演技派らしい。
元プロデューサーとしては喜ばしい限り。
今となっては厄介極まるが。
と、違和感。
胸元まで掛けられた毛布。どう見ても、ひとり分膨らんでいる。それに、よく見ると俺は上半身裸。
気づくと敏感になる。胸にかかる微かな吐息。背中に回された手。
3: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 22:55:44.27 ID:v/lcqjxK0
嫌な想像が過る。俺はなにを盛られた?
「すやぁ」
「おい、お前起きてるだろ」
毛布をめくる。一ノ瀬は胸のなかでにやっと悪意的な笑みを浮かべた。幸いに、彼女は緑のタンクトップを着ていた。
「にゃははー、バレたかー。んん、いい香り。おやすみー」
「まてまて寝るな、説明しろ」
「説明するのは、キミだと思うけどな」
真っ直ぐ向けられた瞳。吸い込まれる錯覚。彼女の寝癖で波打った髪が素肌にくすぐったい。女性特有の柔らかい香りに脳が痺れる。
抵抗する気力は起きなかった。疲れているのかもしれない。
「……プロダクションを辞めた。もういいだろ、退いてくれ」
「それは無理な相談なのだー。むーりー。勝手にいなくなるな、キミは言ったよね。だからあたしも、キミがいなくなるのを赦さなーい」
「馬鹿を言うなよ。俺とお前はもう他人なんだ。束縛される理由もする理由もない」
悪意的な言葉。自分でも嫌になる。一ノ瀬は意に介さず、楽しそうに頬を俺の胸に擦り付けていた。
矮小さを浮き彫りにされている気がして自己嫌悪。
「どうやらキミという存在は、あたしにとっての触媒みたい!」
「すやぁ」
「おい、お前起きてるだろ」
毛布をめくる。一ノ瀬は胸のなかでにやっと悪意的な笑みを浮かべた。幸いに、彼女は緑のタンクトップを着ていた。
「にゃははー、バレたかー。んん、いい香り。おやすみー」
「まてまて寝るな、説明しろ」
「説明するのは、キミだと思うけどな」
真っ直ぐ向けられた瞳。吸い込まれる錯覚。彼女の寝癖で波打った髪が素肌にくすぐったい。女性特有の柔らかい香りに脳が痺れる。
抵抗する気力は起きなかった。疲れているのかもしれない。
「……プロダクションを辞めた。もういいだろ、退いてくれ」
「それは無理な相談なのだー。むーりー。勝手にいなくなるな、キミは言ったよね。だからあたしも、キミがいなくなるのを赦さなーい」
「馬鹿を言うなよ。俺とお前はもう他人なんだ。束縛される理由もする理由もない」
悪意的な言葉。自分でも嫌になる。一ノ瀬は意に介さず、楽しそうに頬を俺の胸に擦り付けていた。
矮小さを浮き彫りにされている気がして自己嫌悪。
「どうやらキミという存在は、あたしにとっての触媒みたい!」
4: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 22:58:19.29 ID:v/lcqjxK0
「知らねえよ。……なあ、帰してくれよ。もう疲れたんだよ」
才能を見せつけられることも。自分の無力さを実感することも。醜い感情と向き合うことも。
俺の気なんて知らない一ノ瀬は、あっけらかんと言う。
「あたしはまだアイドル辞める気ないんだよねー。だから、触媒のキミにいなくなられると困るってゆー」
「あのな、俺はもう一般人なんだよ。辞めたの……後の祭りだ。悪いけどどうしようもない」
「先のこと決まってるの?」
「……いや、まだだけど」
「じゃあ、あたしが養ってあげよー! 雇ってあげよー!」
馬乗りになられる俺。見上げる光景はとても卑猥。一ノ瀬はぺちぺちと俺の胸を叩いた。
「キミは飲んだよね。あたしと一緒に死ぬ気あるんでしょ? だったらキミを貰ってもよくない?」
暴論だ。脈絡がない。それなのに思考は、それでもいいかな、なんて結論を出そうとしやがる。
どうにも浮ついて、頭はうまく回らない。
「キミはここで暮らしながらあたしをプロデュースする。あたしはキミのお世話をする。ギブアンドテイク。完璧だね!」
俺は仕事が嫌になったわけではない。一ノ瀬から離れたくなったのだ。つまり、前提からして間違えている。
もちろん、この才女はその可能性にも行き当たっているようで。
「ちなみにー、拒否すると、コレ」
床に転がっていたスマートフォンをちょろっと操作し、こちらに画面を向けてくる。半裸の男女が同じ毛布に包まれていた。
耄碌していなければ、それは俺と一ノ瀬だった。
才能を見せつけられることも。自分の無力さを実感することも。醜い感情と向き合うことも。
俺の気なんて知らない一ノ瀬は、あっけらかんと言う。
「あたしはまだアイドル辞める気ないんだよねー。だから、触媒のキミにいなくなられると困るってゆー」
「あのな、俺はもう一般人なんだよ。辞めたの……後の祭りだ。悪いけどどうしようもない」
「先のこと決まってるの?」
「……いや、まだだけど」
「じゃあ、あたしが養ってあげよー! 雇ってあげよー!」
馬乗りになられる俺。見上げる光景はとても卑猥。一ノ瀬はぺちぺちと俺の胸を叩いた。
「キミは飲んだよね。あたしと一緒に死ぬ気あるんでしょ? だったらキミを貰ってもよくない?」
暴論だ。脈絡がない。それなのに思考は、それでもいいかな、なんて結論を出そうとしやがる。
どうにも浮ついて、頭はうまく回らない。
「キミはここで暮らしながらあたしをプロデュースする。あたしはキミのお世話をする。ギブアンドテイク。完璧だね!」
俺は仕事が嫌になったわけではない。一ノ瀬から離れたくなったのだ。つまり、前提からして間違えている。
もちろん、この才女はその可能性にも行き当たっているようで。
「ちなみにー、拒否すると、コレ」
床に転がっていたスマートフォンをちょろっと操作し、こちらに画面を向けてくる。半裸の男女が同じ毛布に包まれていた。
耄碌していなければ、それは俺と一ノ瀬だった。
5: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 22:59:37.69 ID:v/lcqjxK0
「キミの住所と共に各所へ飛びます」
完璧だ。完璧な脅しだ。ここに「パワハラで……」なんてスパイスを加えれば、死んだほうがマシな展開を迎えるだろう。
「…………」
選択肢も拒否権もなかった。
沈黙はときに肯定を示す。
一ノ瀬はにゃははー! と満足そうに笑った。
「キミはなーんにも心配しなくていいよ? あたしといればノープロブレム。怠惰と退廃の日々は甘美な響きを持つー。まあ、泥舟だけどね」
ふたりで沈むのも悪くないよねー。そう言って再び俺の胸に顔を埋める一ノ瀬。俺は抵抗せず、されるがまま。
こいつは俺の扱いを心得ている。無理をしてまで抵抗しないことを知っている。
すぐに諦めてしまうことも。
そして、そんな日々を楽しんできたことを、一ノ瀬は知っているのだ。
問題はすべて俺の裡にある。罪悪感とか劣等感とか、無力感や悪感情。全部、全部。一方的な心の反応。
いつしか楽しめなくなった日々を、一ノ瀬は取り戻そうとしているのかもしれない。
誰のために?
俺のために。
一ノ瀬のために。
凡人の俺に、彼女の思考は掴めない。初めから造りが違うから。
だから考えるだけ無駄なのだ。そう思い込むことにした。
こうして、奇妙な共同生活は始まった。
◇
完璧だ。完璧な脅しだ。ここに「パワハラで……」なんてスパイスを加えれば、死んだほうがマシな展開を迎えるだろう。
「…………」
選択肢も拒否権もなかった。
沈黙はときに肯定を示す。
一ノ瀬はにゃははー! と満足そうに笑った。
「キミはなーんにも心配しなくていいよ? あたしといればノープロブレム。怠惰と退廃の日々は甘美な響きを持つー。まあ、泥舟だけどね」
ふたりで沈むのも悪くないよねー。そう言って再び俺の胸に顔を埋める一ノ瀬。俺は抵抗せず、されるがまま。
こいつは俺の扱いを心得ている。無理をしてまで抵抗しないことを知っている。
すぐに諦めてしまうことも。
そして、そんな日々を楽しんできたことを、一ノ瀬は知っているのだ。
問題はすべて俺の裡にある。罪悪感とか劣等感とか、無力感や悪感情。全部、全部。一方的な心の反応。
いつしか楽しめなくなった日々を、一ノ瀬は取り戻そうとしているのかもしれない。
誰のために?
俺のために。
一ノ瀬のために。
凡人の俺に、彼女の思考は掴めない。初めから造りが違うから。
だから考えるだけ無駄なのだ。そう思い込むことにした。
こうして、奇妙な共同生活は始まった。
◇
6: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:01:22.50 ID:v/lcqjxK0
「あたしにもデキると思うな!」
夢を見た。あるいは走馬灯。
いずれにしても、追憶に居座る一ノ瀬志希の記録。
一ノ瀬との出会いは一年前、ロケ先での出来事だった。話題のスイーツを紹介していく番組の収録中、彼女はふらっとカメラへ映り込もうとした。
あまりに自然な足取りだったから、誰も一ノ瀬がなにをしているのか気づかない様子で。当時、研修最終日だった俺は慌てて彼女の肩を掴んだ。
「キミ、面白い匂いだねー! いい人の香りがするー」
すると彼女ははすはすと鼻を鳴らし、俺の匂いを嗅ぐ。それから質問責め。この収録はなにをしているのか、俺は何者なのか。とか。
そんな様子を眺めていた先輩は、悪戯な笑みをたたえて一ノ瀬をスカウトした。なにぶん容姿は良かったから、冗談と本心半々といったところだったのだろう。
こうして一ノ瀬はアイドルとなった。そして、同時に俺は研修を終えて、プロデューサーに。
どうやら一ノ瀬が俺を指名したらしい。普通、こんな意見は通るわけないのだが、タイミングの合致により認められた。
悪夢の始まりだった。
「あたしはギフテッドなんだってー。ギフテッド、つまりはジーニアス。アイドルの才能もあるのかもねー」
夢を見た。あるいは走馬灯。
いずれにしても、追憶に居座る一ノ瀬志希の記録。
一ノ瀬との出会いは一年前、ロケ先での出来事だった。話題のスイーツを紹介していく番組の収録中、彼女はふらっとカメラへ映り込もうとした。
あまりに自然な足取りだったから、誰も一ノ瀬がなにをしているのか気づかない様子で。当時、研修最終日だった俺は慌てて彼女の肩を掴んだ。
「キミ、面白い匂いだねー! いい人の香りがするー」
すると彼女ははすはすと鼻を鳴らし、俺の匂いを嗅ぐ。それから質問責め。この収録はなにをしているのか、俺は何者なのか。とか。
そんな様子を眺めていた先輩は、悪戯な笑みをたたえて一ノ瀬をスカウトした。なにぶん容姿は良かったから、冗談と本心半々といったところだったのだろう。
こうして一ノ瀬はアイドルとなった。そして、同時に俺は研修を終えて、プロデューサーに。
どうやら一ノ瀬が俺を指名したらしい。普通、こんな意見は通るわけないのだが、タイミングの合致により認められた。
悪夢の始まりだった。
「あたしはギフテッドなんだってー。ギフテッド、つまりはジーニアス。アイドルの才能もあるのかもねー」
7: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:03:15.97 ID:v/lcqjxK0
初めは一笑に付した。しかし、レッスンを受けさせて、彼女の言葉は現実味を帯びた。
一ノ瀬はあらゆるレッスンをこなしていった。問題は体力と集中力だけ。
手を替え品を替え。飽きさせないようレッスンのプログラムを分解し、小分けにして組み合わせを変えた。
規則性を失ったプログラムは支離滅裂だ。
それなのに三ヶ月も経てば、ばらばらだったパーツは組み上がり、ダンスも歌も本来のレッスン以上の効果をもたらした。
この頃はまだ、とんでもない逸材だ、なんてレッスン内容を嬉々として考えたものだ。こいつは天才だ、と。
でも、順風満帆には進まない。
華々しいデビューを迎えて数ヶ月後のある日。先輩の担当アイドルが持つ、レギュラー番組に出演したときのことだった。
リハーサルの隙間、ちょっとした休憩時間に、一ノ瀬は失踪した。
失踪自体は珍しくなかった。ただ、三十分経っても戻ってこない状況は初めてだった。
結局、一時間の捜索の末、屋上の貯水タンクの裏に隠れた一ノ瀬を発見。息を切らして梯子を登ると、彼女はなんでもなく笑って見せた。
「にゃはは、見つかったかー。さすがプロデューサー!」
「お、お前……なにしてんだよ。……どんだけ捜したと思ってる」
「いなくなっても心配いらなーい。ただの失踪だから」
一ノ瀬はあらゆるレッスンをこなしていった。問題は体力と集中力だけ。
手を替え品を替え。飽きさせないようレッスンのプログラムを分解し、小分けにして組み合わせを変えた。
規則性を失ったプログラムは支離滅裂だ。
それなのに三ヶ月も経てば、ばらばらだったパーツは組み上がり、ダンスも歌も本来のレッスン以上の効果をもたらした。
この頃はまだ、とんでもない逸材だ、なんてレッスン内容を嬉々として考えたものだ。こいつは天才だ、と。
でも、順風満帆には進まない。
華々しいデビューを迎えて数ヶ月後のある日。先輩の担当アイドルが持つ、レギュラー番組に出演したときのことだった。
リハーサルの隙間、ちょっとした休憩時間に、一ノ瀬は失踪した。
失踪自体は珍しくなかった。ただ、三十分経っても戻ってこない状況は初めてだった。
結局、一時間の捜索の末、屋上の貯水タンクの裏に隠れた一ノ瀬を発見。息を切らして梯子を登ると、彼女はなんでもなく笑って見せた。
「にゃはは、見つかったかー。さすがプロデューサー!」
「お、お前……なにしてんだよ。……どんだけ捜したと思ってる」
「いなくなっても心配いらなーい。ただの失踪だから」
8: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:04:37.54 ID:v/lcqjxK0
「ふざけんなよ」
「仕事ー? ごめんごめん、謝るからさー。大丈夫だよ、演技のレッスンも受けたからねー」
「仕事なんてどうでもいい! いや、よくないけど……今はいい。勝手にいなくなるんじゃねえよ! お前がなんて言っても心配なものは心配なんだよ」
目をぱちくりさせてから、急に腹を抱えて笑いだす一ノ瀬。こいつがなにを考えているのか、俺には皆目見当がつかない。
「なにがおかしい」
「キミ、怒るとこおかしいって自覚してる?」
「あのな、お前の担当になった時点で多少のことは覚悟してんだよ。いいよ、いくらでも頭は下げてやるよ。でも、お前になにかあったら頭を下げても意味ないんだよ」
きょとんとしたのもつかの間、
「……参っちゃうなー。あたしの調子を狂わすなんてキミ、ただ者じゃないね」
照れくさそうに頬を掻く一ノ瀬。
口裏合わせをしてスタオジに戻り、ふたりして土下座した。みんな怒るよりも心配していて、和やかに許してくれた。
それ以来、一ノ瀬は急に失踪することも、仕事場でふざけることもしなくなった。元々才能に恵まれた彼女はとんとん拍子で人気を得ていく。
同時に、俺は無力感に打ち拉がれた。俺がなにをするよりも、一ノ瀬に任せたほうが上手くいくから。
俺がいなくても、彼女は上手くやれるから。
「仕事ー? ごめんごめん、謝るからさー。大丈夫だよ、演技のレッスンも受けたからねー」
「仕事なんてどうでもいい! いや、よくないけど……今はいい。勝手にいなくなるんじゃねえよ! お前がなんて言っても心配なものは心配なんだよ」
目をぱちくりさせてから、急に腹を抱えて笑いだす一ノ瀬。こいつがなにを考えているのか、俺には皆目見当がつかない。
「なにがおかしい」
「キミ、怒るとこおかしいって自覚してる?」
「あのな、お前の担当になった時点で多少のことは覚悟してんだよ。いいよ、いくらでも頭は下げてやるよ。でも、お前になにかあったら頭を下げても意味ないんだよ」
きょとんとしたのもつかの間、
「……参っちゃうなー。あたしの調子を狂わすなんてキミ、ただ者じゃないね」
照れくさそうに頬を掻く一ノ瀬。
口裏合わせをしてスタオジに戻り、ふたりして土下座した。みんな怒るよりも心配していて、和やかに許してくれた。
それ以来、一ノ瀬は急に失踪することも、仕事場でふざけることもしなくなった。元々才能に恵まれた彼女はとんとん拍子で人気を得ていく。
同時に、俺は無力感に打ち拉がれた。俺がなにをするよりも、一ノ瀬に任せたほうが上手くいくから。
俺がいなくても、彼女は上手くやれるから。
9: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:06:02.89 ID:v/lcqjxK0
一ノ瀬と過ごす時間が長くなるに連れ、暗い感情が湧いていく。遅効性の毒は次第に身体を蝕む。
辛かった。疲れていた。思考の片隅になんども浮かぶ悪意。
振り払って振り払って、振り払えない気持ちにどうしようもなくなった。
一ノ瀬を知れば知るほど、毒は進行していった。
初めはちょっと変わっているだけと考えていたが、どうやらそうではないと気づき俺はすべてを諦めた。
一ノ瀬は天才だ。それも本物の。
クオリアの問題は誰にだって起こり得る。ただ、人の感覚は類似性を示している。一般生活においては感覚器官によほどの異常がない限り、さほど問題にはならない。
だけど、一ノ瀬は根本から違うのだ。脳の造りからして違う。散々振り回された彼女の行動も、本人してみれば至って普通のことなのだ。
だから、俺は諦めた。理解が及ばない存在として、彼女を昇華した。
そうしないと一ノ瀬を嫌いになりそうだったから。
わかっている。彼女にだってどうしようもないことを。
「ギフトって残酷だよねー。受け取ったつもりはないのに、いつの間にか枕元にあって捨てられもしないんだから」
一秒で解ける問題を、いつまでも目の前に提示され続けている状況なのだ。しかも周囲の人間はそれを必死になって解いている。
逃げ出したくもなるだろう。
でも、逆だってそうだ。俺は絶対に解けない問題を提示され続けている状況なのだ。
だから逃げ出した。辞表を提出したのは一ヶ月前。一ノ瀬が仕事で大成功を収めた日だった。
◇
辛かった。疲れていた。思考の片隅になんども浮かぶ悪意。
振り払って振り払って、振り払えない気持ちにどうしようもなくなった。
一ノ瀬を知れば知るほど、毒は進行していった。
初めはちょっと変わっているだけと考えていたが、どうやらそうではないと気づき俺はすべてを諦めた。
一ノ瀬は天才だ。それも本物の。
クオリアの問題は誰にだって起こり得る。ただ、人の感覚は類似性を示している。一般生活においては感覚器官によほどの異常がない限り、さほど問題にはならない。
だけど、一ノ瀬は根本から違うのだ。脳の造りからして違う。散々振り回された彼女の行動も、本人してみれば至って普通のことなのだ。
だから、俺は諦めた。理解が及ばない存在として、彼女を昇華した。
そうしないと一ノ瀬を嫌いになりそうだったから。
わかっている。彼女にだってどうしようもないことを。
「ギフトって残酷だよねー。受け取ったつもりはないのに、いつの間にか枕元にあって捨てられもしないんだから」
一秒で解ける問題を、いつまでも目の前に提示され続けている状況なのだ。しかも周囲の人間はそれを必死になって解いている。
逃げ出したくもなるだろう。
でも、逆だってそうだ。俺は絶対に解けない問題を提示され続けている状況なのだ。
だから逃げ出した。辞表を提出したのは一ヶ月前。一ノ瀬が仕事で大成功を収めた日だった。
◇
10: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:08:45.90 ID:v/lcqjxK0
「だから、火が強いって」
「えー、一気にやっちゃおうよ。こう、ぼって!」
「お前はこの炭化した食材の数々が見えないのか?」
「タバスコかければいけるってー」
?を膨らませる一ノ瀬。それでも不承不承といったふうにフライパンを眺めていた。先を思いやられる。
数日一緒に過ごして、改めて痛感した。想像以上に一ノ瀬は生活能力が皆無だ。どうやって一人暮らしをしてきたのか疑問になるほどに。
唯一、洗濯だけはできるようだが、それだって高機能な洗濯機のおかげであって、一ノ瀬の能力ではない。
台所は実験台になっていた。部屋にはピザの空き箱とファストフードの包装紙、コンビニ弁当の空き容器ばかり。
そもそも食器はほとんどない。家具家電も少ない。生活感の少ない部屋は、生活している感覚がないからか。
単純に興味がないからか。
彼女にとってこの部屋は実験室のひとつ、あるいは眠るためにあるのかもしれない。
「とうっ! どうだ! できたー!」
一ノ瀬は大仰な掛け声とともに、オムレツを皿に移す。ふっくらしていて美味しそうだ。
「おっ、いい感じ」
「食べよ食べよー」
「えー、一気にやっちゃおうよ。こう、ぼって!」
「お前はこの炭化した食材の数々が見えないのか?」
「タバスコかければいけるってー」
?を膨らませる一ノ瀬。それでも不承不承といったふうにフライパンを眺めていた。先を思いやられる。
数日一緒に過ごして、改めて痛感した。想像以上に一ノ瀬は生活能力が皆無だ。どうやって一人暮らしをしてきたのか疑問になるほどに。
唯一、洗濯だけはできるようだが、それだって高機能な洗濯機のおかげであって、一ノ瀬の能力ではない。
台所は実験台になっていた。部屋にはピザの空き箱とファストフードの包装紙、コンビニ弁当の空き容器ばかり。
そもそも食器はほとんどない。家具家電も少ない。生活感の少ない部屋は、生活している感覚がないからか。
単純に興味がないからか。
彼女にとってこの部屋は実験室のひとつ、あるいは眠るためにあるのかもしれない。
「とうっ! どうだ! できたー!」
一ノ瀬は大仰な掛け声とともに、オムレツを皿に移す。ふっくらしていて美味しそうだ。
「おっ、いい感じ」
「食べよ食べよー」
11: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:09:51.47 ID:v/lcqjxK0
彼女は新しい事柄に対して興味を持った。化学分野に才能を開花させた彼女らしいと言える。
逆に言えば、結果の見えた事柄は飽きるらしく、集中力は三分間持続すればマシなほう。厄介なことにその範囲はべらぼうに広い。
でき過ぎた脳髄は、一ノ瀬から未知を奪っていく。
新鮮さの失われた日常は、一体どれだけ退屈なのだろう。
オムレツにタバスコをぶち撒け、にこにこと咀嚼する一ノ瀬を眺めながら考える。
俺は彼女を楽しませられたのか。
その思考性を理解できない以上、提供できる娯楽に限度があるのだ。一に十を知る一ノ瀬に、凡人である俺の想像力と知識、経験を総動員してもあっという間に消費されてしまう。
つまるところ、期待に応えるのに疲れたのかもしれない。あるいは限界に際して、逃げ出したくなったのかも。
ならば。
どうして俺は彼女と生活をしている?
一ノ瀬はどうして俺と生活をしている?
自問しても答は返ってこなかった。
逆に言えば、結果の見えた事柄は飽きるらしく、集中力は三分間持続すればマシなほう。厄介なことにその範囲はべらぼうに広い。
でき過ぎた脳髄は、一ノ瀬から未知を奪っていく。
新鮮さの失われた日常は、一体どれだけ退屈なのだろう。
オムレツにタバスコをぶち撒け、にこにこと咀嚼する一ノ瀬を眺めながら考える。
俺は彼女を楽しませられたのか。
その思考性を理解できない以上、提供できる娯楽に限度があるのだ。一に十を知る一ノ瀬に、凡人である俺の想像力と知識、経験を総動員してもあっという間に消費されてしまう。
つまるところ、期待に応えるのに疲れたのかもしれない。あるいは限界に際して、逃げ出したくなったのかも。
ならば。
どうして俺は彼女と生活をしている?
一ノ瀬はどうして俺と生活をしている?
自問しても答は返ってこなかった。
12: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:11:28.85 ID:v/lcqjxK0
ある日の夜、一ノ瀬は珍しくつまらなそうに言った。
「キミは面白いねー。こうしてくっついて寝てても、手も出してこない。美少女としては微妙な気分ー。もしかして志希ちゃん、美少女じゃない?」
「お前が美少女じゃなかったら世の中の大半は醜女になるだろうな。……悪いけど、子供に手をだすほど腐ってない」
「にゃはー、それは残念だね。でもあと一年もすれば大人の仲間入り。これは飛び級できなーい」
「そうだな。それまでには出て行くよ」
「じゃあ、あたしも引退だ。まあ、あと一年あったら大体やり尽くしてそーだよね」
一ノ瀬は笑った。俺は笑わなかった。
「お前は辞めるなよ。アイドルとしてもギフテッドなんだ。まだまだ新しいことだってあるよ」
「言ったよ、キミは触媒なんだって。たしかにあたしは才能あるよね。でも、その才能も触媒があって反応するんだよ」
「……やめてくれ、買い被りだ。お前が思うほどの人間じゃないんだよ俺は」
往々にして平凡で、陳腐で普遍的。代替品はいくらでもある。
「それはあたしを過小評価してるのかな? 志希ちゃんと一年も一緒にいて、普通はないよねー」
「……無理してた。一ノ瀬が悪いなんて言わない。でも、俺とお前は違いすぎる」
「違うからここまでやってこれたんじゃないかなー? あたしはキミ自身に興味があるんだよ。キミは誤解してるよね」
一ノ瀬は俺の右腕を枕にしだした。いくら美少女とは言え、重いものは重い。
「キミは面白いねー。こうしてくっついて寝てても、手も出してこない。美少女としては微妙な気分ー。もしかして志希ちゃん、美少女じゃない?」
「お前が美少女じゃなかったら世の中の大半は醜女になるだろうな。……悪いけど、子供に手をだすほど腐ってない」
「にゃはー、それは残念だね。でもあと一年もすれば大人の仲間入り。これは飛び級できなーい」
「そうだな。それまでには出て行くよ」
「じゃあ、あたしも引退だ。まあ、あと一年あったら大体やり尽くしてそーだよね」
一ノ瀬は笑った。俺は笑わなかった。
「お前は辞めるなよ。アイドルとしてもギフテッドなんだ。まだまだ新しいことだってあるよ」
「言ったよ、キミは触媒なんだって。たしかにあたしは才能あるよね。でも、その才能も触媒があって反応するんだよ」
「……やめてくれ、買い被りだ。お前が思うほどの人間じゃないんだよ俺は」
往々にして平凡で、陳腐で普遍的。代替品はいくらでもある。
「それはあたしを過小評価してるのかな? 志希ちゃんと一年も一緒にいて、普通はないよねー」
「……無理してた。一ノ瀬が悪いなんて言わない。でも、俺とお前は違いすぎる」
「違うからここまでやってこれたんじゃないかなー? あたしはキミ自身に興味があるんだよ。キミは誤解してるよね」
一ノ瀬は俺の右腕を枕にしだした。いくら美少女とは言え、重いものは重い。
13: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:12:49.33 ID:v/lcqjxK0
でも、幸せそうな彼女の表情を見ていると、不思議と悪い気はしなかった。いい香りがする。
「あたしはキミの気持ちなんて知らないよ。キミもあたしの気持ちは知れない。それでいいんじゃないかなー。お互い好きにやって。化学は偶然の産物だからね」
「もし、それで上手くいかなかったらどうする。取り返しのつかない失敗をしてしまったら。……俺はいいよ、もう辞めたから。だけど、一ノ瀬は失うものが大きすぎる」
顔を売る職業だ。一度の失敗はこの先いつまでもつきまとう。俺と一ノ瀬ではリスクが違う。
しかし、俺の心配なんて無視するように、一ノ瀬は大きく欠伸を漏らした。
「優しいねーキミは。失敗したらそのとき考えればいいと思うけど……、そうだねー、じゃあ、本当に首が回らなくなってどうしようもなくなったらさ」
俺には彼女がなにを考えているのか、なにを思っているのか想像もつかない。
だから、言葉の続きを聞いて、沈黙する。本心なのか、冗談なのか。判断できなかったからのもひとつ。
一ノ瀬は新しいことに興味を持った。換言すれば、見えている結果には興味がない。その範囲はべらぼうに広い。
退屈な日常は彼女にとって、興味のない事柄に分類されるのかもしれない。
おそらく、悲観や諦観、厭世観から出た言葉ではない。選択肢のひとつとして考えただけで、その結末を望んでいるわけではないはずだ。
そうだと信じたい。
だって、やっぱりこんな質問は一ノ瀬には似合わない。
わかりきっているくせに。質問だなんて、らしくない。
「そのときは、一緒に死んでくれる?」
俺は答えなかった。なにより、答えるまでもないから。
◇
「あたしはキミの気持ちなんて知らないよ。キミもあたしの気持ちは知れない。それでいいんじゃないかなー。お互い好きにやって。化学は偶然の産物だからね」
「もし、それで上手くいかなかったらどうする。取り返しのつかない失敗をしてしまったら。……俺はいいよ、もう辞めたから。だけど、一ノ瀬は失うものが大きすぎる」
顔を売る職業だ。一度の失敗はこの先いつまでもつきまとう。俺と一ノ瀬ではリスクが違う。
しかし、俺の心配なんて無視するように、一ノ瀬は大きく欠伸を漏らした。
「優しいねーキミは。失敗したらそのとき考えればいいと思うけど……、そうだねー、じゃあ、本当に首が回らなくなってどうしようもなくなったらさ」
俺には彼女がなにを考えているのか、なにを思っているのか想像もつかない。
だから、言葉の続きを聞いて、沈黙する。本心なのか、冗談なのか。判断できなかったからのもひとつ。
一ノ瀬は新しいことに興味を持った。換言すれば、見えている結果には興味がない。その範囲はべらぼうに広い。
退屈な日常は彼女にとって、興味のない事柄に分類されるのかもしれない。
おそらく、悲観や諦観、厭世観から出た言葉ではない。選択肢のひとつとして考えただけで、その結末を望んでいるわけではないはずだ。
そうだと信じたい。
だって、やっぱりこんな質問は一ノ瀬には似合わない。
わかりきっているくせに。質問だなんて、らしくない。
「そのときは、一緒に死んでくれる?」
俺は答えなかった。なにより、答えるまでもないから。
◇
14: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:14:39.31 ID:v/lcqjxK0
「天才の定義を答えよ。あるいは条件でも可」
「天才って言っても色々あるだろ」
「うーん、じゃあ、キミの考えるものでいいよ。ギフテッドと接してきた見解で」
一ノ瀬は時々、意味のない問いを口にした。今回もその類いなのかもしれないが、問いは核心を突く内容に思えた。
俺は彼女をぼんやり眺めながら答える。
「他人に理解されない能力。性質。才覚。孤独であること」
「その心はー?」
「理解なんてできるのなら、たぶん再現できる。つまり、誰にでもできるってことだ。それは天才とは言わないだろうよ」
天から授かるギフト。受け取れた人間と受け取れない人間。そこには明確な線引きがあるはずだ。
一ノ瀬は嬉しそうに微笑む。
「キミ、よく見てるねー! ちょっとだけ嬉しいかも。でもひとつだけ違うかなー。あたしは孤独じゃないよ?」
「それは人によるだろうな。孤独を孤独と感じない性格なんだろう。ただ、端から見れば孤独に見えるだけで」
「こらこらー、わかってて言ってるよね、キミ。にしても、キミは孤独に見えても同情しないんだねー。感心感心」
「理解できないからな。ちなみにお前の答はなんだ?」
んー、と考える仕草をする一ノ瀬。その頭のなかでは、どう思考が回転しているのか覗いてみたいものだ。
「そうだねー、天才であること、かな」
「いや、まあ、そうだろうけど……。堂々巡りするぞ、それじゃあ」
「天才って言っても色々あるだろ」
「うーん、じゃあ、キミの考えるものでいいよ。ギフテッドと接してきた見解で」
一ノ瀬は時々、意味のない問いを口にした。今回もその類いなのかもしれないが、問いは核心を突く内容に思えた。
俺は彼女をぼんやり眺めながら答える。
「他人に理解されない能力。性質。才覚。孤独であること」
「その心はー?」
「理解なんてできるのなら、たぶん再現できる。つまり、誰にでもできるってことだ。それは天才とは言わないだろうよ」
天から授かるギフト。受け取れた人間と受け取れない人間。そこには明確な線引きがあるはずだ。
一ノ瀬は嬉しそうに微笑む。
「キミ、よく見てるねー! ちょっとだけ嬉しいかも。でもひとつだけ違うかなー。あたしは孤独じゃないよ?」
「それは人によるだろうな。孤独を孤独と感じない性格なんだろう。ただ、端から見れば孤独に見えるだけで」
「こらこらー、わかってて言ってるよね、キミ。にしても、キミは孤独に見えても同情しないんだねー。感心感心」
「理解できないからな。ちなみにお前の答はなんだ?」
んー、と考える仕草をする一ノ瀬。その頭のなかでは、どう思考が回転しているのか覗いてみたいものだ。
「そうだねー、天才であること、かな」
「いや、まあ、そうだろうけど……。堂々巡りするぞ、それじゃあ」
15: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:16:15.91 ID:v/lcqjxK0
「そう言われてもねー、天才は生まれつきの天才なんだよね。だから、条件も定義もないんだと思うな」
彼女たちにとってギフトは特別ではない。喩えば指を動かすのと同じように、疑問にもならない当然の構造。
だから俺たちがギフテッドを理解できないのと同じく、一ノ瀬たちギフテッドも俺たちを理解できない。
しかし、人は幻想を抱く。
そうは言っても人間だ。きっと少しぐらい理解しあえるはずだ、と。
儚く残酷な幻想。
結果、多数の凡人は、少数の天才たちを排除しようとする。未知は恐怖をもたらすから。
意識的にせよ。
無意識にせよ。
俺たちは囚われた常識に縛られて、彼女たちを攻撃する。
きっと、本当は関わるべきではない。お互いに。傷つくだけだ。
嫌だと思う。一ノ瀬を傷つけることも、嫌悪することも。だから、離れたいのに。
結局、俺は彼女を離したくないのだろう。魅せられてしまったのだ。本物の天才に期待してしまっている。
八方ふさがりだった。
首が回らなくなった。
自分でもどうしていいのかわからない。疲れているのかもしれない。
彼女たちにとってギフトは特別ではない。喩えば指を動かすのと同じように、疑問にもならない当然の構造。
だから俺たちがギフテッドを理解できないのと同じく、一ノ瀬たちギフテッドも俺たちを理解できない。
しかし、人は幻想を抱く。
そうは言っても人間だ。きっと少しぐらい理解しあえるはずだ、と。
儚く残酷な幻想。
結果、多数の凡人は、少数の天才たちを排除しようとする。未知は恐怖をもたらすから。
意識的にせよ。
無意識にせよ。
俺たちは囚われた常識に縛られて、彼女たちを攻撃する。
きっと、本当は関わるべきではない。お互いに。傷つくだけだ。
嫌だと思う。一ノ瀬を傷つけることも、嫌悪することも。だから、離れたいのに。
結局、俺は彼女を離したくないのだろう。魅せられてしまったのだ。本物の天才に期待してしまっている。
八方ふさがりだった。
首が回らなくなった。
自分でもどうしていいのかわからない。疲れているのかもしれない。
16: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:18:16.38 ID:v/lcqjxK0
遅効性の毒はゆっくりと、だけど確実に進行する。
異常は二週間が経った頃に現れた。
ちょっとした違和感だった。一ノ瀬が仕事に行っている間、俺は彼女の出演する番組やドラマ、雑誌を確認する。
些細な変化。たぶん、ずっと傍にいたから見抜ける変化。動きにキレがなく、笑顔に張りがない。
収録や撮影はリアルタイムを映すことは少ない。だから、シグナルの受信に遅れてしまった。
俺は一ノ瀬の演技力と覚悟を侮っていたのだ。
しばらくして帰ってきた一ノ瀬は、出迎えた俺に抱きついた。胸に顔を埋めて弱々しく笑った。
「キミ成分補給ー。にゃはー、生き返るー」
痛々しくて、苦しくて、申し訳なくて。
俺は一ノ瀬を抱きしめた。強く強く。
「甘えたい年頃なのかにゃー?」
わざとらしいくらいおどける一ノ瀬は、もう限界なのだろう。ボロがでてきていた。
「ごめん。……ごめん、気づくのが遅くなった」
彼女は察したらしく、身体を預けてくる。とても軽く感じた。
「んーん、キミはなにも悪くないよ。でも、ちょっとだけ疲れちゃったかなー」
「お前は、どうしてここまでしてくれるんだ」
「キミがいなくなったらつまらないからねー。まさか、あの日、本当に飲むとは思わなかったよ」
異常は二週間が経った頃に現れた。
ちょっとした違和感だった。一ノ瀬が仕事に行っている間、俺は彼女の出演する番組やドラマ、雑誌を確認する。
些細な変化。たぶん、ずっと傍にいたから見抜ける変化。動きにキレがなく、笑顔に張りがない。
収録や撮影はリアルタイムを映すことは少ない。だから、シグナルの受信に遅れてしまった。
俺は一ノ瀬の演技力と覚悟を侮っていたのだ。
しばらくして帰ってきた一ノ瀬は、出迎えた俺に抱きついた。胸に顔を埋めて弱々しく笑った。
「キミ成分補給ー。にゃはー、生き返るー」
痛々しくて、苦しくて、申し訳なくて。
俺は一ノ瀬を抱きしめた。強く強く。
「甘えたい年頃なのかにゃー?」
わざとらしいくらいおどける一ノ瀬は、もう限界なのだろう。ボロがでてきていた。
「ごめん。……ごめん、気づくのが遅くなった」
彼女は察したらしく、身体を預けてくる。とても軽く感じた。
「んーん、キミはなにも悪くないよ。でも、ちょっとだけ疲れちゃったかなー」
「お前は、どうしてここまでしてくれるんだ」
「キミがいなくなったらつまらないからねー。まさか、あの日、本当に飲むとは思わなかったよ」
17: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:20:58.91 ID:v/lcqjxK0
一ノ瀬はころころと可愛らしく笑い声を漏らした。思い出し笑いかもしれない。
「ねぇ、キミはあたしのこと嫌い?」
「……嫌いだったらここにいない」
「なら、また、一緒にやろうよ。やっぱりキミじゃないと色々大変なんだよねー。あたしのために頭下げてよ」
「……でも、もう退職したんだ。どうしようもないんだ」
取り返しのつかない失敗。後悔と罪悪感が目頭に込み上げる。
「そっか、ちょっと放してー」
素直に解放する。一ノ瀬は台所へ向かったようだった。俺は立っていることができず座り込む。
すぐに一ノ瀬は戻ってきて、俺の前に屈んだ。両手にはそれぞれ試験管。
中には得体の知れない透明な液体。
「じゃあさ、一緒に死の? 楽になろうよ」
差し出された試験管を受け取る。乾杯と、一ノ瀬は試験管を鳴らした。
俺は一息に煽る。
なんともない。それを認めた一ノ瀬は微笑んだ。
「にゃははー! 引っかかったなー! それはただの水なのだー!」
「お、おい、なんだよ」
混乱する。一ノ瀬にゆっくりと抱きしめられた。
「生は死への第一歩。なら、死は生への第一歩でもいいよね。キミは二度死にました。なかなかない体験だよ? もう怖いものなくない?」
「……時間は戻らないよ」
「あたしからひとつだけギフトをあげる。時間は戻らないよ。でも、ギフテッドは時間を止めることができるとゆーね」
意味不明の言葉は、だけど、俺に確信をもたせた。
こいつは一体、どこまでわかっているのだろう。
その日、一ノ瀬は熱を出した。
◇
「ねぇ、キミはあたしのこと嫌い?」
「……嫌いだったらここにいない」
「なら、また、一緒にやろうよ。やっぱりキミじゃないと色々大変なんだよねー。あたしのために頭下げてよ」
「……でも、もう退職したんだ。どうしようもないんだ」
取り返しのつかない失敗。後悔と罪悪感が目頭に込み上げる。
「そっか、ちょっと放してー」
素直に解放する。一ノ瀬は台所へ向かったようだった。俺は立っていることができず座り込む。
すぐに一ノ瀬は戻ってきて、俺の前に屈んだ。両手にはそれぞれ試験管。
中には得体の知れない透明な液体。
「じゃあさ、一緒に死の? 楽になろうよ」
差し出された試験管を受け取る。乾杯と、一ノ瀬は試験管を鳴らした。
俺は一息に煽る。
なんともない。それを認めた一ノ瀬は微笑んだ。
「にゃははー! 引っかかったなー! それはただの水なのだー!」
「お、おい、なんだよ」
混乱する。一ノ瀬にゆっくりと抱きしめられた。
「生は死への第一歩。なら、死は生への第一歩でもいいよね。キミは二度死にました。なかなかない体験だよ? もう怖いものなくない?」
「……時間は戻らないよ」
「あたしからひとつだけギフトをあげる。時間は戻らないよ。でも、ギフテッドは時間を止めることができるとゆーね」
意味不明の言葉は、だけど、俺に確信をもたせた。
こいつは一体、どこまでわかっているのだろう。
その日、一ノ瀬は熱を出した。
◇
18: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:23:05.80 ID:v/lcqjxK0
「おう、やっとかけてきたか。一ノ瀬から話は聞いたのか?」
先輩に電話をかけると、さも当然と言わんばかりの返答。俺は戸惑う。
「いえ、むしろ話を聞かせて欲しいんですけど」
「あー、もしかして俺まずった? ……まあいいか。そうだな、お前が辞表を提出する一週間前、一ノ瀬が俺のとこ来たんだよ。話があるってな」
「話?」
「ああ、お前から嫌な匂いがするって言ってた。もしかしたらなにかあるかもって。初めは冗談だと思ったよ。でも言われてみればお前は死にそうな顔をして見えてな。そうしたら辞表だ、驚いたよ」
はははと先輩は笑う。本当に冗談みたいな話だ、笑いたくなる気持ちもわかる。
「そのあと一ノ瀬と相談してな。お前の辞表、実は受理されてないんだ。有給扱いになってる。まあ、お前、ほとんど休めてなかったから、上も納得してくれたよ」
止められた時間。ギフテッドはたしかに時間を止めていた。
「一ノ瀬に感謝しろよ? あいつ相当頑張ってたからな。上を説得できたのもあいつの仕事ぶりがあっての話なんだよ」
感謝してもしきれない。一ノ瀬から受け取ったギフトはとても返しきれる気がしなかった。
「きっとふたつのシナリオを用意したんだろうな。たぶん、お前が前向きに辞めるつもりなら引き留めなかったと思うよ。心当たり、あるんじゃないのか?」
俺が最終日だと思っていたあの日、一ノ瀬は言った。
キミさ、あたしと死んでみる気、ある?
あのとき、笑い飛ばしていたら、彼女は黙って見送るつもりだったのだろう。
すべてを知った上で、俺を送り出してくれたのだろう。
でも、そうはならなかった。死んでもいいと俺は試験管を受け取った。
だから、一ノ瀬は。
俺は守られていたのかもしれない。
「それで、お前はどうするんだ? ……いや、訊くまでもないか。じゃあ具体的に決めていこうぜ。復職の日程をさ」
話は本当にすらすらと進んだ。何事もなかったかのように。明後日、俺はプロデューサーへと戻る。
一ノ瀬のプロデューサーへと。
先輩に電話をかけると、さも当然と言わんばかりの返答。俺は戸惑う。
「いえ、むしろ話を聞かせて欲しいんですけど」
「あー、もしかして俺まずった? ……まあいいか。そうだな、お前が辞表を提出する一週間前、一ノ瀬が俺のとこ来たんだよ。話があるってな」
「話?」
「ああ、お前から嫌な匂いがするって言ってた。もしかしたらなにかあるかもって。初めは冗談だと思ったよ。でも言われてみればお前は死にそうな顔をして見えてな。そうしたら辞表だ、驚いたよ」
はははと先輩は笑う。本当に冗談みたいな話だ、笑いたくなる気持ちもわかる。
「そのあと一ノ瀬と相談してな。お前の辞表、実は受理されてないんだ。有給扱いになってる。まあ、お前、ほとんど休めてなかったから、上も納得してくれたよ」
止められた時間。ギフテッドはたしかに時間を止めていた。
「一ノ瀬に感謝しろよ? あいつ相当頑張ってたからな。上を説得できたのもあいつの仕事ぶりがあっての話なんだよ」
感謝してもしきれない。一ノ瀬から受け取ったギフトはとても返しきれる気がしなかった。
「きっとふたつのシナリオを用意したんだろうな。たぶん、お前が前向きに辞めるつもりなら引き留めなかったと思うよ。心当たり、あるんじゃないのか?」
俺が最終日だと思っていたあの日、一ノ瀬は言った。
キミさ、あたしと死んでみる気、ある?
あのとき、笑い飛ばしていたら、彼女は黙って見送るつもりだったのだろう。
すべてを知った上で、俺を送り出してくれたのだろう。
でも、そうはならなかった。死んでもいいと俺は試験管を受け取った。
だから、一ノ瀬は。
俺は守られていたのかもしれない。
「それで、お前はどうするんだ? ……いや、訊くまでもないか。じゃあ具体的に決めていこうぜ。復職の日程をさ」
話は本当にすらすらと進んだ。何事もなかったかのように。明後日、俺はプロデューサーへと戻る。
一ノ瀬のプロデューサーへと。
19: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:24:32.52 ID:v/lcqjxK0
電話を切って一ノ瀬の部屋に入った。彼女はだるそうにベッドに横になっていた。
俺はベッドの傍に腰を下ろした。
「どうだったー?」
「ギフト、受け取った。ありがとう」
「残念ながら返却不可だからねー。これでキミもギフテッドだ!」
「馬鹿、騒ぐなよ。大人しくしてろって」
「あたしを馬鹿扱いなんてキミぐらいのものだよ? やっぱりキミはただ者じゃないねー」
にゃははー! 一ノ瀬は懲りずに高笑い。当然のように咳き込んだ。
「この前の話あるだろ。どうしようもなくなったときの話」
「どーかした?」
「やっぱり死ぬのはよそう。次は俺が死ぬ気でどうにかするから」
「おー、格好いいねー! じゃあ任せたよ。どーにかしてね」
上手くいくかなんてわからない。先行きが見えれば苦労はないし、不安なんてない。
でも、それは退屈な日々に違いない。
「とりあえず、はすはすさせてー」
「それ、続けないと駄目か?」
「元気の源だからねー。さあさあ」
だから、もう少し楽にやろう。
俺はベッドの傍に腰を下ろした。
「どうだったー?」
「ギフト、受け取った。ありがとう」
「残念ながら返却不可だからねー。これでキミもギフテッドだ!」
「馬鹿、騒ぐなよ。大人しくしてろって」
「あたしを馬鹿扱いなんてキミぐらいのものだよ? やっぱりキミはただ者じゃないねー」
にゃははー! 一ノ瀬は懲りずに高笑い。当然のように咳き込んだ。
「この前の話あるだろ。どうしようもなくなったときの話」
「どーかした?」
「やっぱり死ぬのはよそう。次は俺が死ぬ気でどうにかするから」
「おー、格好いいねー! じゃあ任せたよ。どーにかしてね」
上手くいくかなんてわからない。先行きが見えれば苦労はないし、不安なんてない。
でも、それは退屈な日々に違いない。
「とりあえず、はすはすさせてー」
「それ、続けないと駄目か?」
「元気の源だからねー。さあさあ」
だから、もう少し楽にやろう。
20: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:26:24.11 ID:v/lcqjxK0
一ノ瀬の熱は次の日に下がった。
本人曰く俺成分のおかげらしい。抽出して売れば儲けられる気がしたが、一ノ瀬にしか効果がないそうだ。残念である。
準備のために一度帰宅。そして出勤日、俺は自宅から一ノ瀬の部屋に向かう。
久しぶりのスーツに袖を通すと、不思議なほど着心地がよかった。ただ、一ノ瀬の部屋に近づくほど緊張で胃が痛いんだ。
待ち合わせ時刻になっても一ノ瀬は出てこない。念のため十分待とう。
来ない。仕方なく合鍵を使って部屋に入る。ガチ寝していた。完全に寝坊だった。
嘆息して、起こす。
「おい、起きろ」
「んー、あれーもうそんな時間?」
「過ぎてるよ」
「準備しないとねー。寝起きのハスハスー」
辞める以前と同じ光景。見慣れたはずなのに、とても新鮮に思えた。
一ノ瀬が準備している間に、軽食を作る。外向きに仕上げた彼女とテーブルを挟んだ。
「いきなり寝坊する奴がいるかよ」
「これぐらいがあたしたちらしいでしょ」
「まあそうなんだけどさ」
食事を終えて準備完了。二週間ぶりの出勤だ。靴を履いていると、一ノ瀬は首を傾げた。
「今日はなにしよっか」
「まずは土下座だな」
「にゃははー! そーだね、しょうがないからつきあってあげよー」
「ああ、頼むよ」
二週間過ごした部屋を一緒に出る。一ノ瀬から受け取ったギフトを胸に閉まって。
俺は一ノ瀬の手を取った。
本人曰く俺成分のおかげらしい。抽出して売れば儲けられる気がしたが、一ノ瀬にしか効果がないそうだ。残念である。
準備のために一度帰宅。そして出勤日、俺は自宅から一ノ瀬の部屋に向かう。
久しぶりのスーツに袖を通すと、不思議なほど着心地がよかった。ただ、一ノ瀬の部屋に近づくほど緊張で胃が痛いんだ。
待ち合わせ時刻になっても一ノ瀬は出てこない。念のため十分待とう。
来ない。仕方なく合鍵を使って部屋に入る。ガチ寝していた。完全に寝坊だった。
嘆息して、起こす。
「おい、起きろ」
「んー、あれーもうそんな時間?」
「過ぎてるよ」
「準備しないとねー。寝起きのハスハスー」
辞める以前と同じ光景。見慣れたはずなのに、とても新鮮に思えた。
一ノ瀬が準備している間に、軽食を作る。外向きに仕上げた彼女とテーブルを挟んだ。
「いきなり寝坊する奴がいるかよ」
「これぐらいがあたしたちらしいでしょ」
「まあそうなんだけどさ」
食事を終えて準備完了。二週間ぶりの出勤だ。靴を履いていると、一ノ瀬は首を傾げた。
「今日はなにしよっか」
「まずは土下座だな」
「にゃははー! そーだね、しょうがないからつきあってあげよー」
「ああ、頼むよ」
二週間過ごした部屋を一緒に出る。一ノ瀬から受け取ったギフトを胸に閉まって。
俺は一ノ瀬の手を取った。
21: ◆U7CecbhO/. 2016/08/22(月) 23:26:55.85 ID:v/lcqjxK0
終わりです。
以来してきます。
以来してきます。
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