<ザーーーーーーー
高森藍子「……雨、ずっと降ってますね。テラスがびしゃ濡れになっちゃってる……」

北条加蓮「来たばっかりの時は晴れてたのに、急に大雨になっちゃったね……どうしよ。これじゃ帰れないよ。家は誰もいないしモバP(以下「P」)さんは確か出張だったし」

藍子「昨日からですよね。ふふっ、お土産のお話、すごく盛り上がりましたっ」
加蓮「限定スイーツかインテリアグッズか、私と藍子で2時間くらいケンカしたよね」
藍子「Pさんも、面白そうに乗ってくれて。最後には、両方買ってくれるって言ってくれました」
加蓮「計画通り」
藍子「……やっぱりですか」
加蓮「バレてた?」
藍子「だって加蓮ちゃん、あきらかにわざとっぽくて。いつもなら、もっと私のお話も聞いてくれるのに、すごくわざとらしくあれこれ言うから……でも、なんでわざと言ってるかは気付けませんでしたっ」
加蓮「ふふふー。してやったり」
藍子「ふふっ」
加蓮「…………で、その仕打ちがこれだよ」チラッ
<ザーーーーーーー
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加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……梅雨なのになんで傘持ってこなかったの?」
藍子「加蓮ちゃんだって持ってきてないじゃないですか」
加蓮「降水確率20%だったし」
藍子「私もおんなじ理由です」
加蓮「梅雨を舐めてたね」
藍子「梅雨に怒られちゃいましたね」
加蓮「怒られた?」
藍子「ほら、加蓮ちゃんが馬鹿にしちゃったから、梅雨が怒っちゃったんですよ、きっと」
加蓮「ファンタジー、いやメルヘン? そしてちゃっかり怒られ役を私1人に押し付けてくる藍子」
藍子「えへっ」
加蓮「最近、藍子が怖い」
加蓮「……ちょっとコンビニに行って傘を買ってくる」
藍子「そんなことしたら加蓮ちゃんが風邪を引いちゃいますっ。行くなら私が――」
加蓮「藍子をびしゃ濡れにさせる訳にもいかないよ」
藍子「それはこっちのセリフです!」
加蓮「それなら一緒に」
藍子「なら、加蓮ちゃんはここで待っていてください。私が加蓮ちゃんの分まで買ってきますから」
加蓮「やだよ。それだと藍子がびしゃ濡れになるでしょ?」
藍子「加蓮ちゃんがびしゃびしゃになっちゃうよりずっといいです」
加蓮「自己犠牲は嫌われるよ」
藍子「自己犠牲じゃなくて、加蓮ちゃんが心配なんですっ」
加蓮「藍子だって風邪引く時には引くでしょ。だからダメ。1人じゃ行かせない」
藍子「むー…………」
加蓮「……もう少しだけのんびり待ってみよっか」
藍子「……そうしましょうか。今は……5時くらいだから」チラッ
加蓮「6時……7時くらいになっても止まなかったらちょっと本気で考えるってことで」
藍子「今はのんびりしちゃいましょう。ほら、いつものように♪」
加蓮「そうしよっか」
藍子「……少し、おかしな気分ですね」
加蓮「んー?」ホオヅエ
藍子「こんなに雨の降る日に、加蓮ちゃんとここにいるなんて、今まであまりなかったから……」
加蓮「そういえばそうだっけ? もしかして藍子って晴れ女?」
藍子「……えへへっ。私、お散歩したいって思った時、だいたい晴れていることが多いんです。天気予報では雨でも、傘がいらなくなったり!」
加蓮「なるほど、今日はだから傘を忘れたと」
藍子「それとこれとは別ですっ」
加蓮「きっとそれは、藍子がいつもいいことをしているからだね」
藍子「へ?」
加蓮「いいことをしたから、本人に来てるんだよ。きっと」
加蓮「……やめやめ。私らしくもない」
藍子「くすっ。それなら、加蓮ちゃんにだって……いいこと、きっといっぱい来ますよ!」
加蓮「今こうして藍子といることがいいことだよ、私にとっては――」
藍子「加蓮ちゃん……」
加蓮「……やめやめ! 恥ずかしい!」
藍子「……うふふっ♪ 顔、真っ赤になっちゃってますよ?」
加蓮「うっさい!」
藍子「私、雨の日ってけっこう好きなんです」
加蓮「ん、そうなの? 大変じゃない?」
藍子「外に出る用事がある時は大変です。でも……雨の時にしかない風景だってありますから。傘をさして歩くのも、けっこう好きなんですよ?」
加蓮「変なのー」
藍子「あとは……部屋の中で聞く雨の音とか。さあさあ、って音が、なんだか気持ちいいんです」
加蓮「ふうん。寂しくならない? 雨の音って、それにほら……窓から外を見ても、独りぼっちって感じがしちゃうし」
藍子「ときどき、寂しくなっちゃいます。だからそういう時は、誰かに電話してみることにしてます。家にいるのならお母さんとお話したり、事務所にいる時はみんなやPさんとお話したり」
加蓮「そっか」
加蓮「電話かー……」
藍子「加蓮ちゃんも、寂しい時には電話してきていいんですよ?」
加蓮「…………」
藍子「そうしたら、どんなお話をしよっかなぁ……ふふっ、顔が見えない会話でも、加蓮ちゃんとなら安心できそうですっ」
加蓮「……よし。もし寂しくなっても藍子にだけは絶対に連絡しないようにしよう」
藍子「もう、またそういうことをっ」
加蓮「弱みは見せないに限る」
藍子「加蓮ちゃんの意地っ張り!」
加蓮「知ってるくせに」
藍子「……弱いところ、もっと見せてくれていいのに」
加蓮「ん?」
藍子「だって私、今までいろいろな加蓮ちゃんを見てきているんですよ。……弱いところも、見たことあるんですから」
加蓮「んー……」
藍子「遠慮なんてされたら、逆に寂しくなっちゃいます。強がられるのも、同じくらい……」
加蓮「…………」
藍子「ほ、ほらっ、別に何もしませんから。ねっ!」
加蓮「どの口が言うか」
藍子「えー」
加蓮「さんざん私をいじっておいてどの口が言うか」
藍子「……それ、加蓮ちゃんには言われたくありません」
加蓮「だよねー」
加蓮「対等でいたいもん。藍子と」
藍子「対等?」
加蓮「あんまり頼ってばっかじゃ……その分だけ、私も何かやらないといけないのかな? って思い込んじゃうし、それに甘えてばっかりなのって少し嫌だし。嫌っていうか……プライドの問題なのかなぁ」
加蓮「……それこそ今さらなのかもしれないけどね。やっぱり節度みたいな物は守っておきたいし」
藍子「……私も、加蓮ちゃんにいっぱい助けてもらっていますよ」
加蓮「気休めなんて大っ嫌いだよ、私」
藍子「…………」
加蓮「ん、ごめん、ちょっとキツイ言い方しちゃったね」
藍子「いえ……」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「ん?」
藍子「私たち、このカフェでお話するようになってけっこう経ちますよね」
加蓮「そだね」
藍子「ほら、先に来た方がメニューを選んであげて、後から来た方がおごるってことにしてるじゃないですか」
加蓮「いつの間にかそんな流れになってるよね。嫌なら割り勘にしよっか」
藍子「次からはそうしちゃいましょうか。……それで、加蓮ちゃん。どっちが多くおごったかって、覚えていますか?」
加蓮「散財しちゃった?」
藍子「違います。覚えていますか? ってだけです」
加蓮「んー、いや、覚えてないよ。気持ち藍子の方が多かった気がするけど……」
藍子「それとおんなじです。貸し借りなんて、そんなものじゃないですか」
藍子「貸した回数も、借りた回数も、覚えてなくて。ただ、できることを見つけたらやるだけ……もし加蓮ちゃんが私に貸しを1回作るまでに私が貸しを100回作っていても、加蓮ちゃん、何も言わないじゃないですか」
加蓮「実際は逆でしょ」
藍子「どっちでもおんなじです! ……私の言いたいこと、それだけです」プイッ
加蓮「……」
加蓮「……ん、分かった。でもやっぱり甘えっぱなしっていうのは違うよ。そんなの私じゃないし、私の望む関係でもない」
藍子「…………」
加蓮「私が1の1:100なら何も言わないよ。いちいちカウントするなんてねちっこいことしたくないもん。でも私が100なら話は別。気にするってば、どうしても」
藍子「私は気にしていないって言っても?」
加蓮「度合いってものがあるでしょ」
藍子「そうやって加蓮ちゃんが意地を張っていると、私も加蓮ちゃんに甘えにくくなっちゃうので……甘えられる時は、もっと甘えてほしいです」
加蓮「……そうきたか」
藍子「はいっ」
加蓮「小賢しいこと言うんだね」
藍子「小賢しくないです。本音で本心ですっ」
加蓮「そう」
加蓮「…………」
加蓮「ここでオチを1つ」
藍子「?」
加蓮「寂しくなった時の連絡の話だよね。でも私、独りで寂しいっての慣れてるもん。大丈夫だよ」
藍子「え?」
加蓮「嘘でも強がりでもなくてさ。ほら、昔は独りぼっちがデフォだったし。それに比べたら今なんて余裕だよ。ヨユー。ちょっと雨が降ってるからって心細くなったり、まして誰かに電話しないと寂しくて死んじゃうなんてこと全くないよ?」
藍子「そ、そっか……ほっ」
藍子「で、でもっ! もっと甘えてほしい……弱いところも見せてほしいっていうのも、その、私のことも嘘じゃありませんから!」
加蓮「……ワガママだなぁ。いつかみたいに怒鳴ってほしい? それは結局、藍子のやりたいことでしかないよね? って」
藍子「!」
加蓮「そういうのは嫌いだよ。好きじゃない。……藍子なら大丈夫だって思ってたけど思い込みだったのかな。そういう考えって透けて見えるものだよ。気をつけなさい」
藍子「…………」
藍子「――そうですよ。私のやりたいことです」
加蓮「え?」
藍子「加蓮ちゃんに甘えてほしいのも、弱いところを見せてほしいのも、私の望んでいることです」
加蓮「アンタ――」
藍子「あなたが言うなら、私も前みたいに言いますね。……私のやりたいことで、でも加蓮ちゃんのことだって想ってるつもりです。嘘じゃないって堂々と言えます。……それじゃ、駄目ですか?」
加蓮「……」
藍子「それとも、ぜんぶあなたの為じゃないといけませんか?」
藍子「……それなら、ワガママなのはあなたの方です」
加蓮「…………」
加蓮「藍子」
藍子「はい」
加蓮「ごめん。私が悪かった」
藍子「……私も言い過ぎました。ごめんなさい、加蓮ちゃん」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……雨が降ってるからなのかな。変な雰囲気になっちゃうのって」
藍子「雨の音は、不思議な気分にさせちゃいますから……加蓮ちゃんも、私も、きっと、いつも通りじゃないんです」
加蓮「そうなのかな」
藍子「そう思いましょう。……あまり思い詰めてる加蓮ちゃんは、見たくありませんから」
加蓮「…………」
藍子「ね?」
加蓮「……いっつも思い詰めてばっかの子がどの口で言うかな?」
藍子「! え、えへへ……ごめんなさいっ」
加蓮「今日はうちに泊まりにきてよ。寝る時にぎゅーって抱きしめてあげる」
藍子「それ、加蓮ちゃんがやってほしいことですか?」
加蓮「さー?」
加蓮「……あのさ」
加蓮「さっきの藍子、なんかかっこよかったよ」
藍子「へ?」
加蓮「私を真っ直ぐ見てくれる藍子の瞳、すっごい綺麗だった。私を見てくれるって、すっごく分かった。……とっても、綺麗だった」
藍子「そ、そうですか?」
加蓮「なーんてことが素直に言えるのも雨のせいだね。早く止まないかなぁ」
藍子「雨の"お陰"ですねっ」
加蓮「雨の"せい"」
藍子「雨の"お陰"」
加蓮「雨めー、早く止めー」
藍子「加蓮ちゃんが素直になれるなら、ずっと雨でもいいです」
加蓮「お散歩ができなくなっちゃうよ?」
藍子「傘をさしてやりますから平気です」
加蓮「そう……」
藍子「雨の日には雨の日の風景がありますから。晴れの時には見られないもの、いっぱいあるんです」
加蓮「とことん前向きだなー」
藍子「あんまり落ち込んでばっかりだと疲れちゃいますよ?」
加蓮「お、私のことディスってる?」
藍子「そうかもしれませんね♪」
加蓮「うわーお、やっぱ最近の藍子は怖い」
加蓮「……冗談抜きで、なんか今日の藍子はキツイね」
藍子「そうですか?」
加蓮「雨が降ってるから?」
藍子「そうなっちゃうなら、やっぱり晴れの方がいいのかな?」
加蓮「移り気め」
藍子「ごめんなさいっ」
加蓮「ん、いいよ。それにさっき言ったじゃん。真っ直ぐ見てくれるのが嬉しかったって。見てくれることがこんなに嬉しいって思えたの、すごく久しぶりだった気がする」
加蓮「それに、ほら……ちょっと張り詰めちゃうけど、でも、ヘラヘラ笑ってばっかりの関係よりはずっといいよ」
藍子「…………」シュン
加蓮「……いいんだってばー。もー、ほら、たまには本音で殴り合お? なんで落ち込んでんの? そんなことしてると私に丸め込まれるよ? 悪い加蓮ちゃんにボコボコにされちゃうよ?」
藍子「だって加蓮ちゃん、いつもお疲れなのに……私まで疲れさせちゃったら……そんなのヤダな、って」
加蓮「だから私は気にしてないって。疲れるってことはそれだけのことをしたってことじゃん。疲れない為に遠慮して上っ面で話すくらいなら、本音をぶつけあって疲れる方がずっといいって」
藍子「……そうなんですか?」
加蓮「私は藍子とそういう関係でいたいけどなぁ。ま、熱く殴りあうとかは別の人に任せて、私たちはジメジメウジウジと陰湿にやっていこう!」
藍子「はいっ――って! 爽やかな顔でとんでもないこと言わないでください!?」
加蓮「あはははっ。藍子もよく私に言ってくれるけど……藍子のやりたいように、移り気にやっていこうよ。雨の日にしかできない話なら、今のうちにたくさんやっちゃお?」
藍子「……はいっ」
加蓮「なんか注文する? ……今日はお客さんぜんぜんいないね。頼んだらすぐ来るよ」
藍子「まるで貸し切りみたいですね。私と加蓮ちゃん専用のカフェみたい♪」
加蓮「そしてなんかあっちからハラハラした目で見てくる店員さん」
藍子「あとで、一緒にごめんなさいって言いましょうか」
加蓮「えー加蓮ちゃん傷つけられた立場なんだけどなー悪いの藍子なんだけどなー」
藍子「……くすっ」
加蓮「うん?」
藍子「ううん。いつもの加蓮ちゃん、やっと戻ってきてくれたなって♪」
加蓮「……煽って喜ばれたよ」
加蓮「すみませーん!」
藍子「ま、まだメニュー決めてないですっ」
加蓮「うん、私も決めてない」
加蓮「お、店員さんが来た。え? 険悪な雰囲気に見えた? ……んー、ごめんね店員さん。アイドルらしくないところを見せて」
藍子「ううぅぅぅぅ……」パラパラパラパラ
加蓮「2人なら大丈夫だと思ってました? そ、そう……。……藍子ー? 藍子ちゃーん? そんなに焦らなくていいと思うよ?」
藍子「だって、あんまり待たせる訳には――」
加蓮「あっ、じゃあ常連客らしくアレやってみよう!」
藍子「あれ?」
加蓮「ふふっ。店員さん。オススメの一品、お願いします♪ あっ、軽く食べられるヤツでっ」
加蓮「さて何が出てくるかな? 楽しみ楽しみっ」
藍子「なるほど……あの、店員さん、私もそれでお願いします!」
加蓮「おお、見事な敬礼」
加蓮「パフェ」
藍子「パフェですね」
加蓮「クリーム少なめフルーツ多め。気を遣ってくれたのかな? それなら嬉しいんだけど……はい、藍子ちゃんに質問です。スプーンが1つしかないっていうのはどういうことでしょうか?」
藍子「加蓮ちゃん、あーんっ♪」
加蓮「あーん。んぐんぐ……うん、美味し」
藍子「…………♪」ワクワク
加蓮「はいはい」アーン
藍子「~~~♪」パクッ
加蓮「…………」
加蓮「まぁ、いっか」
<ザーーーーーーー
<ピカッ
<……ゴロゴロゴロ!
藍子「!」ビクッ
加蓮「びっくりしたー。雷かぁ……雨も余計に酷くなってるし、どうしよ。ちょっと無理言って誰かに車を出してもらおっか」
藍子「えっ」
加蓮「え?」
藍子「で、でもっ、もしかしたらほら、通り雨ってこともあるかもしれないじゃないですかっ」
加蓮「……はい?」
藍子「……ないですよね。えへへ……」
加蓮「何か変な物でも食べた?」
藍子「パフェしか食べてませんっ」
加蓮「なるほど。このパフェの仕業か。ちょっと店員に話つけてくるね。私の大事な藍子をおかしくさせやがって」ギロッ
藍子「だめですだめですっ! 別にそのっ……変になっちゃった訳じゃなくて、変な物を食べたのでもなくて! ほらっ、もうちょっとここにいたいというか、あのっ、遅くなったら私のお母さんを呼びますから大丈夫ですからっ」グイグイ
加蓮「あはは、藍子ってば必死すぎだよ。冗談だってば」
藍子「冗談に見えないですっぜんぜん!」
加蓮「冗談を本気だと見せる演技力」
藍子「そういうことはドラマ撮影の時にやってください!」
加蓮「あーん」
藍子「あむっ」
<ゴロゴロゴロ...
加蓮「雷がさー」
藍子「雷が?」
加蓮「病院に落ちてウザい医者とかみんな灰になればいいのに、って思ったことが1度だけあってさ」
藍子「加蓮ちゃん…………」ジトー
加蓮「お母さんに話したらデコピンされた」
藍子「たぶん、私でも同じことやります」
藍子「雷が鳴ったら、おへそがとられるって言いますよね」
加蓮「そなの? ……あー、そうだっけ。それが?」
藍子「私、小さい頃にそれを聞いて、すごく怖くなっちゃって」
加蓮「うんうん」
藍子「いっぱい腹巻きを巻いたら、お父さんに大笑いされちゃいました」
加蓮「もこもこ藍子ちゃん。なるほど、おへそを隠したから胸を盗られたんだね」
藍子「加蓮ちゃん。デコピンをするので顔を出してください」
加蓮「藍子ちゃん。デコピンをするからと言われて顔を出すアホはいないと思います」
藍子「……………………」
加蓮「っていうか顔が怖い。……うん、ごめん、ホントにごめん。だからあのほら、うん。……ごめん」
藍子「…………」ジトー
藍子「……雨のせいだってことにしておきますね?」
加蓮「ありがとー……」
藍子「……あっ」
藍子「別のことをするからって言えば、顔を出してもらえるっ」
加蓮「さっきみたいな天然メデューサの顔で言われたらどんな理由でも即逃げるよ。即逃げる。絶対すぐ逃げる」
加蓮「雨が降れば、見えている物が見えなくなる……」
藍子「……?」
加蓮「や、なんとなく思っただけ。ほら……外、見てみてよ。すっごい真っ暗。昨日なんてこの時間でも昼みたいだったのに」
藍子「そうですね……」
加蓮「いつも見える物が見えなくなるよね」
藍子「でも、見えなくなっちゃったら寂しいですよ?」
加蓮「余計な物を見なくて済む」
藍子「あ……」
加蓮「……昔の私に教えてあげたいな。世の中には見ない方がいい物ばかりだから、好奇心だけで行動するな、って」
藍子「じゃあ……今の加蓮ちゃんには、別のことを言わなきゃ」
加蓮「?」
藍子「ごほんっ」スワリナオシ
藍子「加蓮ちゃん。世の中には、素敵な物、綺麗な物、いっぱいあるんです」
藍子「小さい頃の加蓮ちゃんが……見たくない物を、いっぱい見ちゃったなら。それで、目をつぶりたくなっちゃったなら」
藍子「きっとそれは……その気持ちは、私には分からないことかもしれないけれど……すごく、寂しいことだと思います」
藍子「だから――世の中に、見ないほうがいいことばかり、なんて思わないで」
藍子「顔を上げてください。隣に、ちゃんとついていますからっ!」
加蓮「…………」ポカーン
藍子「ねっ♪」
加蓮「…………」
加蓮「藍子……ええと、何、どしたの? やっぱりパフェ? それとも雨でテンションが上がるタイプ?」
藍子「言い過ぎちゃいましたか……? ごめんなさいっ、つい、その……さっきの加蓮ちゃんが、すごく悲しそうに見えちゃって。言わなきゃ、って」
加蓮「いやだから謝らなくていいって。いきなりでびっくりしただけ」
藍子「あはは……加蓮ちゃんを見ていたら、言わないと、って思っちゃいました。頭の中で、スイッチが入っちゃって」
加蓮「そっか。……でも、なんでこう……さらさらっとさっきの言葉が出てきたの?」
藍子「夢中になっちゃった……から?」
加蓮「…………」
加蓮「…………藍子だなぁ」ガシガシ
加蓮「ちょうだい」
藍子「はいっ。あーん」
加蓮「…………あのさ」
加蓮「雨だから」
藍子「雨ですね」
加蓮「うん。雨だからさ……うん、雨だから。だからつい、言いたくないっていうか……いつもなら意地でも言わないことを言っても、それは雨だからだよね」
藍子「はい。雨だから、ですね」
加蓮「うん」
藍子「…………」
加蓮「……もっと、小さい頃に出会っていればよかったな」
藍子「え?」
加蓮「もっと前に、私がまだ……自分が塞ぎこむ前に、世界を嫌いになる前に、藍子と出会いたかった」
加蓮「綺麗な目で私を見てくれる藍子に出会いたかった」
加蓮「それは叶わない願いだし、叶っちゃいけない願いだけどね。そんなことになったら、今の私、今の北条加蓮はいなくなっちゃうもん」
加蓮「今から、取り戻すことが間に合うんだったら」
加蓮「…………」
加蓮「対等も嫌だ」
加蓮「……そっちに転がり落ちたら……楽に、なれるのかな」
藍子「……………………」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……雨が降ってるからね。雨が……うるさいんだもん。それだけだよ」
藍子「はい、それだけですね」
加蓮「いくら藍子が意地悪になっても、私の影響を受けたとしても……今の話、晴れの日にしたら許さないから」
藍子「分かりました。私の中に、そっとしまっておきます」
加蓮「ホントに許さないからね」
藍子「はい」
加蓮「雨の日にしても許さない」
藍子「ずっとしまっておきますね。加蓮ちゃんの、本音」
加蓮「本音じゃないよ。思いつき」
藍子「はいっ」
加蓮「でもホントは雨の日にクーラーをかけるのが好きなんだ。ほら、部屋の中がジメジメしちゃうから、除湿モードにしてからさ」
加蓮「それでテレビをつけたり、誰かと話したり。新曲のデモテープを聴いたり、ライバル事務所のCDを聴いてやる気になってレッスンをしたり」
加蓮「雨の日だからって、静かにしているのは好きじゃないの。雨の音に負けないくらい、いろんな音を出したいんだ」
藍子「それなら……そんな日が来たら、私がいっぱいお話しますね。加蓮ちゃんが落ち着いていられるように」
加蓮「ん。よろしく。……たぶん私の方がガンガン話を振るけどね」
藍子「楽しみにしていますね、加蓮ちゃんのお話」
藍子「はい、加蓮ちゃん」アーン
加蓮「うん」モグモグ
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……今日、お風呂に一緒に入ろっか」
藍子「いいですよ。一緒にゆっくり浸かりましょうね、加蓮ちゃん」
加蓮「うん」
加蓮「ごちそうさまでした」テヲアワセ
藍子「ごちそうさまでした」テヲアワセ
加蓮「正直、疲れた」
藍子「私は楽しかったですっ」
加蓮「飽きない?」
藍子「もう1度だってできますっ」
加蓮「やるならまた今度ね」
加蓮「7時30分か。藍子、そろそろ満足した?」
藍子「……うぅ。私がやりたかったことって、こうじゃないんです」
加蓮「えー」
藍子「もっとこう……雨の音ばかり聞こえるカフェで、加蓮ちゃんと、ゆっくりゆっくりしたかったのに……」
加蓮「ん、ゴメン。ちょっとシリアスモードになりすぎたね」
藍子「……ううんっ。次はきっと、ゆっくりできますよね。私も加蓮ちゃんも、楽しいことしか考えない時間……」
加蓮「洗脳?」
藍子「なんですぐにそういう言い方するんですかっ」
加蓮「ひひっ。藍子があまりにも幸せそーな顔をするからね。つい」
藍子「加蓮ちゃんも私と一緒に幸せになるんです!」
加蓮「プロポーズ?」
藍子「もうなんでもいいですっ」
加蓮「私もちょっと連絡してみる」スマフォトリダシ
藍子「はーい」
…………。
加蓮「そっか。大丈夫、どうにかするよ。じゃあね……もうっ。子供じゃないんだからっ」ピッ
加蓮「駄目でしたー」オテアゲ
藍子「加蓮ちゃん、何を言われちゃったんですか?」
加蓮「お腹を冷やして寝るなって。私を何歳だと思ってやがるー」
藍子「加蓮ちゃんが風邪を引いちゃわないように、私がしっかり見張ってなきゃっ」グッ
加蓮「何歳だと思ってやがるー!」
藍子「えっと、お母さんは……」ポチポチ
加蓮「……そういえばこのカフェって何時までやってるんだっけ? 何も言ってこないなら大丈夫なのかな……」
藍子「あっ、このカフェは9時開店で、9時閉店ですよ。加蓮ちゃん」トゥルルル
加蓮「そうなんだ。覚えてんの?」
藍子「行ったカフェの開店時間と閉店時間は、ぜんぶ暗記するようにしてるんです」
加蓮「マジ?」
藍子「はいっ。例えば、駅前にある◯◯カフェは7時に開店で、モーニングを食べに来るお客さんがいっぱいいるんです。それから、前のロケの時に行った◯×カフェは10時開店で、ランチメニューが豊富で――」
加蓮「ふんふん」
藍子「△◯カフェは、閉店時間が書いていないんです。そんなところは初めて見たのでびっくりしちゃって……お店の人に聞いてみたら、お客さんが来なくなったら閉めるって言ってました! その人が、すっごくマイペースな方で――」
加蓮「へー、いろいろあるんだ」
藍子「それから――」
加蓮「へー、ホントに覚えてるんだね。時間だけじゃなくて特徴も……ん? 店員さん?」
藍子「ふふっ。意識しなくても、覚えられるようになったんですっ――え? すっごく困った顔で……時間?」
加蓮「時間って、閉店は9時なんじゃ――」チラッ
加蓮「……………………」
藍子「……………………あ」
加蓮「おい」
藍子「ひゃいっ」
加蓮「おい、時間泥棒魔女」
藍子「せ、せめてゆるふわって言ってくださいっ」
加蓮「……どうすんのよ! 帰る方法ないのに!」
藍子「ごめんなさい~~~~っ! あの、おっ、お話するのがすっごく楽しくて……そのっ、あのっ」
加蓮「はぁ……止めなかった私も私かぁ……。とりあえず外に出て……ダッシュでコンビニにでも行こっか。もう濡れる濡れないは知らないよ、お互い様だし……それから改めて連絡して、どうするか考えようよ」
藍子「はい……」シュン
加蓮「店員さん? ……ううん、時間オーバーしてるのはこっちだし、大丈夫……いや、迎えが来るまでここにどうぞって懇願されても」
<お話は終わった?
藍子「へ?」
加蓮「え? 誰?」
藍子「……あ」
加蓮「ん? ねえ藍子。そのスマフォ、通話中になってない?」
藍子「」
加蓮「あのさ、まさかとは思うけどアンタ……お母さんに電話が通じて、それから1時間ちょっとの間、ずっとカフェの話を続けてたんじゃ……」
藍子「」
加蓮「……………………うわぉ」
藍子「」
藍子「…………ち、ちょっと待っててくださいね加蓮ちゃん」
<もしもしっお母さん!? あの、あのね、今のは――
<違う、違うの~~~っ。あ、ええと、その、今日は加蓮ちゃんの家に泊まりに行く約束をしてるから……
<その前に言うこと? ええと、ええと……あっ
<……ごめんなさい~~~~っ!
加蓮「アホ」
藍子「うぅ、そうします……」ピッ
加蓮「ん、終わった?」
藍子「」ナミダジョバー
藍子「加蓮ちゃん~~~~っ」ダキッ
加蓮「アホ」ズビシ
藍子「いたいっ」
加蓮「で?」
藍子「あの……お母さんが、すっごく怒ってて……」
加蓮「うん、普通は怒る。たぶん私でも超怒る」
藍子「……か、加蓮ちゃんがとっても優しい子だって私知ってま――」
加蓮「…………」ビシビシ
藍子「いたいいたいっ」
加蓮「で」
藍子「なんとか許してもらえそうですけれど、その代わりにって、加蓮ちゃんを連れて来て欲しいって……だからその……」
加蓮「はいはい。服、貸してね?」
藍子「はい……」
加蓮「迎えは?」
藍子「10分くらい後に、ここに来てくれるそうです……」
加蓮「じゃあ外で待――分かったから店員さん。中で待つから懇願しないでってば……」
藍子「」ショボン
加蓮「…………」
藍子「うぅ……」ショボン
加蓮「分かった分かった。加蓮ちゃんは優しい子(笑)だから。きっと藍子のお母さんも許してくれるから。ね?」
藍子「はぃ…………」ショボン
加蓮(……もー。頼りになるんだか、ならないんだか)
<ザーーーーーーー
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
ぜんぶ雨のせい。
転載元:北条加蓮「藍子と」高森藍子「甚雨のカフェで」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1466763950/
SS速報VIPのSS紹介です。
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