高森藍子「お待たせしまし――」

鞄 < ヤァ
藍子「あれっ、いない……」
藍子(……前にも同じことがあったような? ってことは、もしかしてっ)ソロー
がさごそ・・・
藍子(あはっ、やっぱり!)
藍子(こっそり見ようとしたら、急に加蓮ちゃんがやってきてっ。通知をちらっと見たことが、すぐにバレちゃって)
藍子(もう昔からずっと、加蓮ちゃんにはお見通しなんですよね)
藍子(……、…………)キョロキョロ
藍子(…………)ソロー
スマフォ < ナニカヨウカイ?
藍子(…………)キョロキョロ
藍子(えいっ)ツカミ
藍子(……あの時と同じ。モバP(以下「P」)さんからのメッセージ。うんっ、さすがに見ちゃ駄目ですよね。見ちゃ、駄目……)
藍子(…………)
藍子(……………………えへ)ピッピッ
藍子(…………)
藍子(……………………)
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北条加蓮「やっほー、藍子」

藍子「加蓮ちゃんっ」スマフォシマイ
加蓮「メール? いいよいいよ、待ってるよ」
藍子「あはは、たいしたことではありませんから……。どこに行っていたんですか? 鞄だけ、置いたままで」
加蓮「ちょっとお店の中をぶらーっと。藍子が来るまで座って待ってるのも暇だったし、なんかこう……気になっちゃって。藍子の影響かな?」
加蓮「……って、あれ? 藍子、気付かなかったんだ。このお店、そこまで広くないんだけどなぁ」
藍子「ぜんぜん気付きませんでしたっ」
加蓮「そっか。こっちからは藍子が来たのがよーく見えてたよ」
藍子「そうなんですか? それなら、言ってくれればよかったのに――」
藍子「……って、それって……つまり……まさか」
加蓮「んー?」ニコニコ
加蓮「んー??」ニコニコ
藍子「…………」アセダラダラ
加蓮「…………」ニコニコ
藍子「…………えへ」アセダラダラ
加蓮「さてさて、藍子ちゃんは加蓮ちゃんに何か言うことがあるんじゃないかな?」
藍子「……………………」オメメグルグル
藍子「」スクッ
<だっ!
<あっコイツ逃げた! 逃げやがった! 店員さーん! 食い逃げ! この人食い逃げでーす!
<まだ何も食べてません~~~~~!
……。
…………。
藍子「はぁ、はぁ……ちっ、違うんです、だって加蓮ちゃんが、こわくて……」
加蓮「店員さんがっ、何事かって……他のお客さん、もっ、こっち見てたよっ」
藍子「でも、なんだかっ、生暖かい笑顔、でしたねっ」
加蓮「もう分かってますって、あの顔、ムカつくっ」
藍子「……すぅー、はぁー」
加蓮「ぜー、ぜー……すぅ~~~…………。よしっ」
藍子「ふ~っ……あうぅ」
加蓮「……今になって恥ずかしくなっちゃった?」
藍子「はぃ……」
加蓮「もー。悪いこともしてないのに謝ってばっかりで、いっつも自分を譲ってばっかりで。アイドルとしてやっていけるの? って心配になる藍子はいったいどこに行ったのよ。さすがにびっくりしたよ? いきなり逃げ出すなんて……」
藍子「そのぉ……つい」
加蓮「ストレスでも溜まってる?」
藍子「もうそれでいいです……」
加蓮「ま、いっか。いつもとは違う藍子が見れて楽しかったってことにしとこっ」スワリナオシ
藍子「はいっ、こんにちは、加蓮ちゃん」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……………………」
藍子「……………………加蓮ちゃんが悪いんです」
加蓮「お?」
藍子「鞄を放り投げたままで、スマートフォンも置いたままだし……そんなの気になっちゃうに決まってるじゃないですか!」
加蓮「うん、気にさせるようにトラップ仕掛けてた」
藍子「まんまと乗せられちゃいました」
加蓮「こんなに分かりやすく引っかかるとはね~。来てたのって……うん、やっぱりPさんからだ」
加蓮「私とPさんが話してるところなんて事務所で何度も見てるでしょ? それでも気になるの?」
藍子「2人きりの時にしかしないお話とか……」
加蓮「そんな大層な物してないけどなぁ」
加蓮「逆逆。Pさんだから素直じゃない自分が見せられるんだよ。もちろん、藍子にもね」
加蓮「っと、先に注文しちゃおっか。すみませーん、店員さん……あー、うん……」
藍子「さ、騒いじゃってごめんなさいっ」
加蓮「……大丈夫だって。よかったね藍子。分かってもらえてて」
藍子「なんだか誤解されている気が……」
加蓮「でもさ、店員さん、もう藍子の大ファンなんだって。さっき聞いたよ? 藍子が私と一緒によくここに来ること、周りに話すのを何度も我慢してるって。さっき店を見てた時に聞いたんだ」
藍子「そうなんですか? あはっ、ありがとうございます♪」
加蓮「よかったね、藍子」
藍子「あっ、それより注文……。決めないで呼んじゃいましたね」
加蓮「だねー。ごめんね店員さん。いや、そんな直立不動で待たれても」
加蓮「私はおにぎりだけでいいや。藍子は?」
藍子「何か、甘い物を食べたい気分です」
加蓮「はい、スイーツ用のメニュー」
藍子「ありがとうございます。うーん……じゃあ、私、この豆乳ティラミスで。お願いしますっ」
加蓮「お願いしまーす。豆乳ティラミスか~……うん? ティラティスのことかな」
加蓮「6月限定『紫陽花傘のお団子』は注文しないんだ。一口もらおっかなって狙ってたのにな~」
藍子「そっちにしましょうか?」
加蓮「ううん、言ってみただけ。……体重ヤバイ?」
藍子「違います~っ。別のカフェに行った時、注目のメニューってことで紹介されてて……食べてみたら、すっごく美味しくて!」
加蓮「じゃあ食べ比べだね。ふふっ、カフェマスターの藍子はどっちを取るかな?」
加蓮「そっか」
藍子「はいっ。……でも、最近はいろいろなスイーツを食べるようになって……ううんっ、体重は大丈夫です、たぶんっ。……きっとっ」
加蓮「レッスンしてれば太ったりしないよ。むしろ太ったりなんてできないくらいでしょ。それでも気になるなら控えたら?」
藍子「……グルメレポのお仕事が、いっぱい来てて」
加蓮「あー」
藍子「美味しいことを伝えるのは、難しいことですけれど……頑張ってみたら、前にお店の人にすごく喜んでもらえちゃって」
藍子「それに最近、ファンレターがよく届くんです。私を見てくれて、すごく美味しそうだった、お店に行ってみた……って」
藍子「私、そういうのがすっごく嬉しくて!」
加蓮「ふふっ。そっか。いいね、藍子」
藍子「はいっ。体重は……きっと大丈夫です!」
加蓮「おお、藍子がパッションしてる」
加蓮「わぉ想像つかない」
藍子「腹筋は、まだぜんぜんできないんですけれどね……」アハハ
加蓮「だいぶ前のことになるけどさ、茜がガチな顔でPさんに相談してたよ。藍子ちゃんと一緒にトレーニングするためにはどうすればいいんですか!!! って」
藍子「モノマネ、しないんですか?」
加蓮「どーせ似合わないで一蹴される。一緒にトレーニングするためって訳分かんないし、Pさんぽかーんとしてたけど、まぁ要するにそういうことなんだよね?」
藍子「ですっ」
加蓮「あれでレッスン前の準備運動とか言うから恐れ入るよね」
藍子「それだけでもう、クタクタになっちゃいます」
加蓮「膝枕してもらった時に固かったらどうしよ。もうショックで立ち上がれなくなるかも」
藍子「い、今でもそれほど柔らかくは……」
藍子「じゃあその時は、いろんな場所に連れていってくださいねっ」
加蓮「いや藍子の方が知ってるでしょ」
藍子「加蓮ちゃんなら、おしゃれなお店とかいっぱい知ってそうです」
加蓮「庶民派アイドルを捕まえて何を言うかー。…………うん、分かった無言で小首を傾げるのはやめよっか」
加蓮「オシャレなお店か。でもホントのところ、あんまりそういうのはないよ? 私だって16歳だし、大人が入るようなお店はちょっと……なんか格式張ってるとことか変に静かなとこは苦手だし。それならジャンクフードでも食べ歩きした方が楽しいもん」
藍子「残念っ。私の知らないこと、いっぱい教えてくれそうなのに」
加蓮「んー……藍子ってさー……っと、店員さんもう来た」
藍子「ありがとうございます! わぁ……美味しそうっ」
加蓮「可愛い色してるよね」
藍子「ですねっ」
藍子「どうぞ。あ~ん♪」
加蓮「あーん」
加蓮「……よし、私はおにぎりでいいや」
藍子「それなら残りは、私が頂いちゃいますね。あ、おにぎり、1つください!」
加蓮「はいはい。あーん」
藍子「あむっ♪」
藍子「……さ、さすがに口の中が、ちょっと変な感じ……」
藍子「でも、甘いティラティスと塩辛いおにぎり、ぜんぜん違う味で、バランスはいいのかも。それにこのおにぎり、ぎゅってしっかり握られててすっごく美味しいです!」
加蓮「…………見て藍子。あっちで店員がすっごいニコニコスマイル」
藍子「えへへっ♪」
加蓮「甘いのを食べると胃が死ぬ」
藍子「苦い味が混じっていれば、大丈夫なんですよね? 抹茶とか、珈琲とか」
加蓮「最近は珈琲ゼリーが美味しいんだよねー。ってPさんに話したら若い子の趣味じゃないって言われた」
藍子「もしかして、ちょっと前にPさんのほっぺたが赤くなってたのって……」
加蓮「大丈夫大丈夫、グーでやっただけだから」
藍子「パーじゃなくて!? いや、パーでもダメですけど!」
加蓮「そしたらPさん、すっごく軽くデコピンしてきてさ。ホントにぜんぜん痛くはなかったんだけど、それからなんかニコニコしてんの。こういう男同士のケンカっぽいのもいいな! って。うん、第二撃」
藍子「なんだか、マンガでありそうな……熱血? ですね」
加蓮「絶対私のキャラじゃない。Pさんがさー、最近なんか生意気なんだよね。流行くらい調べてます、みたいな顔で、ドヤ顔であれこれ言ってくる」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「真面目すぎるんだって。なんで尽く女の子扱いから外れるかな。後で聞いてみたら、素直に怒られたのが嬉しかったって。もうホントに意味分かんないよね。本音を隠したりなんて……昔じゃないんだから」
藍子「Pさんはきっと、加蓮ちゃんがいろんな表情を見せるから、不安になっちゃったんですよ」
加蓮「素直でいなくて済む貴重な相手でーす。でさ、スイーツブームに乗れなくてちょっと寂しかったりするんだ」
藍子「甘さ控えめ、って最近はあまりありませんよね」
加蓮「頑張ってカロリーを抑えつついかに甘味にするか。そしてクリームだばー、シュガーだばー。いや、分かるけどさ。みんなそういうのが好きだもんね」
藍子「見ているだけで胸焼けしちゃいそうです」
加蓮「……ちょっとは身体が弱い子にも配慮しろー! 胃が死ぬんだー!」ジタバタ
藍子「きっとそのうち来ますよ、甘さ控えめスイーツブームっ」
加蓮「絶対来ない。知ってる。ってことで藍子、私の分まで流行りのスイーツをいっぱい食べてください。そしてめいいっぱい美味しそうな顔をしていてください。私からのお願いです」
藍子「はーいっ」
加蓮「…………そんで太れ」
藍子「……何かぼそっと付け加えませんでしたか?」
藍子「…………」ペタペタ
加蓮「寂しそうな顔で膝をぺたぺたすなっ」
藍子「でも――」
加蓮「ああもう……。肉付きのいい子ならアンタじゃなくてもいるでしょ? でも私は藍子に膝を貸して欲しい。藍子だからいいの――もういい!? なんか急にこっ恥ずかしくなってきたんだけど!?」
藍子「……ふふっ、ありがとうございます、加蓮ちゃん」
加蓮「もー。さっきまでスイーツの話をしてたのになんで急にこんなマジな話……」
藍子「……♪」モグモグ
藍子「ごちそうさまでした」テヲアワセル
加蓮「珈琲でも飲む?」
藍子「ううん、今はお腹がいっぱいです。カロリー抑えめでも、けっこうお腹にたまっちゃうみたいで」
加蓮「その辺もダイエットに最適なんだよね。……ふふふ、ダイエット。ふーん、ダイエットねぇ……」ククク
藍子「か、加蓮ちゃん?」
加蓮「ダイエットしたければ軽い怪我でもして1日くらい病院にお世話になってみるといいと思うよ。病院食っていう超マズイご飯を食べたらダイエットするなんて馬鹿馬鹿しい発想消えてなくなるから。ふふ、ふふふ」
藍子「加蓮ちゃんが悪役っぽい顔で笑ってる……!」
加蓮「もっと食べようキャンペーンとか興してダイエットという風習をこの世界から消――あ、駄目だ、私がそんなに食べられない」
加蓮「よし、藍子」
藍子「加蓮ちゃんのお願いでもそれは嫌ですっ」
加蓮「くそう」
加蓮「アイス。よーしこの夏はアイスをいっぱい食べるぞーっ」
藍子「おー♪」
加蓮「…………いや、なんか違う気がする……」
藍子「?」
藍子「じゃあ、他のところで得しないと駄目ですねっ」
加蓮「前向きー」
加蓮「…………」
加蓮「……いーよ。その分、藍子がいるから幸せだし」
藍子「ふぇっ?」
加蓮「ん?」
藍子「あ、ええと……あ、あはは、それならよかったです。私も加蓮ちゃんと一緒で幸せですっ」
加蓮「そっか」
藍子「…………」
藍子「…………怒らないでくださいね?」
加蓮「うんうん」
藍子「ちょっぴり不気味です」
加蓮「やっぱり?」
加蓮「……でも不気味ってひどくない? 素直に気持ちを伝えろって言うの藍子なんだよ? なのに素直になったら不気味って、それひどくない?」
藍子「ごめんなさいっ。でも、嬉しかったのは本当ですから!」
加蓮「ひどいなー、ひどいなー」
藍子「うぅ……どうしたら、機嫌を治してくれますか?」
加蓮「さー。……すみませーん、珈琲お願いします。藍子は飲み物、いいんだよね?」
藍子「あ、はい、大丈夫です」
加蓮「ん、お願いします。……スイーツの話をして、ついでに藍子がティラティスなんて食べるから。雰囲気酔いじゃないけどそんな感じだね、きっと」
藍子「ですね。……それなら、甘い物を用意してゆっくり食べれば、雰囲気に酔って加蓮ちゃんは素直になる……?」
加蓮「夜になって布団に入ってジタバタしたくないのでやめて」
藍子「その時は、私が側にいますねっ」
加蓮「逃げ場がない!」
□ ■ □ ■ □
加蓮「珈琲ありがとー。……え? ティラティス? あー……どうなんだろうね、藍子」
藍子「豆乳クリームを使ったティラミスが、ティラティスって言う……のかな? 別のカフ――じゃなくてっ、別のお店で見たことがあるんですっ」
加蓮「テレビとか見てみると分かりやすいんじゃない? ……店員さん、そこまで必死にメモ取らなくても……」
加蓮「藍子、いろいろ教えてあげたら? なんかこれもう店員さんより藍子の方がカフェに詳しいんじゃ――」
藍子「きゃっ。な、泣きつかれても困りますっ。私はただカフェが好きなだけで……うぅ、それでいいなら、今度、お店のメモとかでいいなら……」
加蓮「ふふっ」
藍子「なんだか……いいんでしょうか?」
加蓮「いいっていいって。珈琲美味し~」ズズ
加蓮「次にカフェに来る楽しみができたね。次か、その次か。どんな変化が待ってるかな?」
藍子「……ふふっ。どんな変化なんでしょうね?」
加蓮「ね。抜け駆けして1人で来て、藍子にドヤ顔で教えちゃおっかなー」
藍子「駄目です」
加蓮「……うん、ごめんごめん。そんなマジ顔されるとは思わなかった。分かってる、ちゃんと藍子も誘うよ」
藍子「楽しみにしていますね。あっ、コーヒー、一口だけもらってもいいですか?」
加蓮「どーぞ」
藍子「ありがとうございます……♪」ズズ
加蓮「ん。……ご飯とかスイーツならあーんって食べさせてあげられるけど、飲み物でそれやると大惨事になりそうだよね」ズズ
藍子「服にこぼれちゃいますね。あと、テーブルとか、鞄にも」
加蓮「……口移し?」
藍子「ええっ」
加蓮「あはは。どう? 試しにちょっとやっ」
藍子「そっそういえば加蓮ちゃん! ちょっと前に何か言いかけてやめちゃいましたよね! あれって何だったんですか!?」
加蓮「……ふふっ。何か言いかけてやめちゃった? ……そんなことしたっけ?」
藍子「ほら、おにぎりを注文した後に……私といえば、って言いかけて、そうしたら店員さんが来ちゃったから、聞きそびれたんです」
加蓮「んー、何言おうとしたんだろ? ちょっと思い出せないや。ま、たいしたことじゃないと思うよ」
藍子「そんなことはないはずですっきっととっても大切なことですから思い出してくださいほらほらっ!」
加蓮「そこまでゴリ押ししなくても、話を蒸し返してからかったりしないってば」
藍子「執着しない、ですか?」
加蓮「うん。前のこと、昔のこと、いちいち掘り返したりこだわってたりしたらまた変な話になっちゃうもんね。それよりは、ほら。1分で脱線させて、いろんな方向に行く方が楽しいかな? って」
藍子「へぇ……」
加蓮「なので藍子の言う何かを言いかけた時の話はさっぱり覚えてませーん。藍子もすっぱり忘れることだね」
藍子「むぅ。ちょっと気になっちゃいます。今日は眠る時間が遅くなっちゃうかもしれません」
加蓮「大変だー」
藍子「その時は加蓮ちゃん、お話に付き合ってもらえますか?」
加蓮「それ以上に気になるような話を振ればいいんだね?」
藍子「それじゃあ余計に寝不足になっちゃいます!」
加蓮「あははっ。まるで身体のどこかが痒いから、手を抓って痛みで誤魔化すみたいな物だね」
藍子「あれ、あんまり誤魔化せませんよね……」
藍子「蚊取り線香を出さなきゃ。眠る時に蚊の音が聞こえたら、大変ですっ」
加蓮「あるある。あれもうホントにウザいっていうか寝れなくなるよね」
藍子「じゃあ、その時は私がお話に付き合いますねっ」
加蓮「だいぶイライラしてるだろうから藍子に八つ当たりしまくるよ?」
藍子「いいですよ?」
加蓮「……サラッと来たね。そのこころは」
藍子「加蓮ちゃん、機嫌のいい時は冗談ばかりなのに、本当に辛い時には何も話してくれませんから。それなら、八つ当たりでもなんでも聞かせて欲しいです」
藍子「……って、前から言い続けてるのに、私、加蓮ちゃんのお悩み相談とか、ぜんぜん聞いたことがない気がします」ジトー
加蓮「アンタは私に悩んでいて欲しいの?」
藍子「そうじゃないですけれど……」
藍子「?」
加蓮「なんでも。……薄着だと蚊に刺されやすいよね。近づいてきた蚊が絶滅するようなスプレーとか無いかなぁ」
藍子「しっかり準備しても、噛まれる時には噛まれちゃいますよね」
加蓮「病弱キャラを活かして長袖でひと夏を過ごす」
藍子「暑すぎて、倒れちゃいそう……」
加蓮「もしくは特殊能力」
藍子「マンガのお話ですか?」
加蓮「うんうん。こう、近づいた生物をみんな弱らせる……みたいなの、どう?」
藍子「でも、特別な誰かは近づいても平気なんですよね。それとも、平気なフリをしているだけなのかも」
加蓮「じゃあ藍子がそうなったらどうする? こう、身近な人がさ、藍子に近づいたらみんな苦し」
加蓮「――ああうん分かったゴメン。あからさまに悲しそうな顔しないで」
藍子「想像なら、もっと幸せな物にしましょう。ほらっ、逆に、加蓮ちゃんに近づく人がみんなぽかぽかする、なんて」
加蓮「まるで魔法みたいだね。や、どっちも魔法か……。魔法使いか、魔女か」
藍子「いい魔女だってきっといますよ。森の奥に住んでいて、のんびりしていて……ときどきやってくる旅人さんに、スープをごちそうするんです」
加蓮「スープには睡眠薬が。無防備に口にした旅人は哀れ――」
藍子「きっと魔女さんは、旅人さんがお疲れだって思って気を遣ったんですね!」
藍子「気持ちよさそうに眠っている旅人さんの顔を見て、考えなおすんです」
加蓮「このままでは衝動が収まらない。ふらりと家を出た魔女。しかしそこで旅人が目覚める」
藍子「魔女がいないことに気がついて、辺りを探しまわるんです。湖のほとりで、苦しそうにしている魔女を発見しました」
加蓮「大丈夫ですか? と何の備えもなく近づく旅人へ――」
藍子「大丈夫、って無理して笑います。でも旅人さんは、すぐに様子がおかしいことに気がついて」
加蓮「殺されるくらいならいっそ先に殺してしまえ」
藍子「って、親に教えてもらっていた旅人さんですけれど、あまりに我慢強く笑う魔女さんにほぐされて」
加蓮「長きに渡る旅に嫌気が差し死のうとフラフラしていたことを思い出した旅人は、自分の肉ならいくらでも食べていいと」
藍子「でも魔女は、それをゆっくりと断ります。それから、旅人さんが頑張って生きられる道を探すんです。長い長い旅が始まって、最後には、魔女も旅人さんも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたしっ」
加蓮「…………」
藍子「…………」ニコニコ
藍子「…………」ニコニコ
加蓮「……なんかさー」
藍子「?」
加蓮「藍子とこうしてカフェで一緒にのんびりできてることが、すっごく不思議な気がしてきた」
藍子「似ていて違うから、楽しいんですよ。きっと」
加蓮「すっかり晩ご飯の時間」
藍子「晩ご飯のお時間になっちゃいましたね」
加蓮「人生について語ると長くなっちゃうねー」
藍子「……人生についてなんて語っていましたっけ?」
加蓮「ハッピーエンドが好きかバッドエンドが好きか、的な?」
藍子「加蓮ちゃんだって、本当はハッピーエンドが好きなくせに」
加蓮「好き嫌いと合う合わないは別だよ。ポジティブが好きなネガティブ思考だっているでしょ? さて、ご飯は何にしよっか」
藍子「さっきティラティスを食べたから……今度は、辛い物が食べた――」
加蓮「ほほう」キラン
藍子「わ~っ今の無し、今のは無しですっ。普通の定食でいいです!」
藍子「嫌です、絶対に嫌ですっ。私は普通のでいいんです。そんなに気になるなら加蓮ちゃんが食べてください!」
加蓮「晩ご飯の時間なんだし、動けなくなったら藍子にもここにも迷惑かけちゃうから止めとくよ」
加蓮「っと、連絡しとかなきゃ――あ、メールが来てる。うん、相変わらず分かってるって文章だね……お母さんったらウザいなぁ」
藍子「じゃあ、私も――」ガサゴゾ
藍子(あっ……Pさんからメッセージが来てる。ここに来た時に送った文章の、返信――)
藍子(…………)「と、私のところにもお母さんからメールが来ちゃってます」
加蓮「連絡寄越さなかった罰としてゆるふわ時間半分カット! みたいな?」
藍子「だ、だめですっ、それをカットされたらもう生きていけませんっ」
加蓮「……かなり冗談で言ったけどそういうものなの? ゆるふわ時間って」
加蓮「はいはい」ウケトル
加蓮「どれどれ――」(……ん? 何のメッセージ? 差出人は……Pさん?)
加蓮「藍子?」チラッ
藍子「……?」
加蓮「…………??」シセンオトス
加蓮(『そこまで言うなら藍子に任せてみるよ。加蓮が無理しそうにしてたらすぐ止めてくれよ?』)
加蓮(…………んー?)
加蓮(っと、藍子のお母さんからのメールはっと)ポチポチ
加蓮「ん」スマフォカエス
藍子「あの、お母さんからのメールにはなんて……」
藍子「言いふらすなんて。加蓮ちゃんのことを、いろいろな人に知ってもらいたいだけですっ」
加蓮「吹聴なんてしなくてもさー、ほら、テレビとかに出てるんだし私」
藍子「それだけじゃなくて……アイドルの加蓮ちゃんだけじゃなくて、私の側にいてくれる女の子のことを、ちゃんと知ってもらいたくて」
加蓮「はあ」
藍子「……加蓮ちゃんのことを教えてあげると、お母さんもお父さんも、クラスメイトも、みんな、少し意外だって言うんです。イメージじゃない、って」
加蓮「私のこと?」
藍子「はい。そういう人には見えないって……もちろん、いい意味でですよ?」
加蓮「……キャラ作ってる訳じゃないんだけどね。悪く言われてないならいいのかな」
加蓮「やれやれまたかって雰囲気だったけど、怒ってはないと思うよ。……っていうかうちのお母さんと同じような反応してたからたぶん大丈夫なんじゃないかな? 呆れられてるとは思うけど」
藍子「うぅ、やっぱり。最近、そういうことがちょっぴり多くなっちゃって……」
加蓮「前にアルバムの話をした時も呆れられたって言ってたね」
藍子「それと、アイドルのことで――」
加蓮「は?」
藍子「へっ?」
加蓮「……?」
藍子「あ、ううん……加蓮ちゃん、なんだか今、すごく怖い顔になっちゃった気が……?」
加蓮「あ、あぁ、あはは……。ごめんごめん。いや、アイドルの仕事とかさ、何か文句言われたのかなぁって反射的に思っちゃって……うん、ちょっと過剰になっちゃってた。ごめんね?」
藍子「いいえ、大丈夫ですっ」
加蓮「藍子はたまに弾けちゃうもんねー」
藍子「でも、お母さん、なんだか嬉しそうなんです。一生懸命になれることが見つかって、良かったね、って言ってくれました!」
加蓮「おめでと、藍子」
藍子「あと……加蓮ちゃんや、Pさんのお話をした時……同じようになっちゃって」
加蓮「うん」
藍子「からかわれちゃいました。そんなに好きなのか、って」
加蓮「……ってことは」
藍子「大好きですっ、って言ったら、なぜか頭を撫でてくれて。ふふっ、身の回りの、ちょっぴり不思議なお話です♪」
加蓮「……うん、私にも今この瞬間に身の回りの不思議なお話が1つ生まれたよ」
藍子「?」
藍子「ううんっ、今日はここで晩ご飯を食べるんです♪」
加蓮「はーい」パラパラ
藍子「…………」
藍子「……むー」
加蓮「?」
藍子「加蓮ちゃん、前にも同じことを言った気がします。ここで一緒にご飯を食べることが、そんなに嫌なんですか?」プクー
加蓮「前? ……言ったっけ?」
藍子「ぶー」プクー
加蓮「…………」
加蓮「さーて今日は家でご飯食べよーっと。お母さん、今から頼んだらご飯作ってくれるかなー?」スクッ
藍子「なんでそうなるんですか加蓮ちゃんのばかぁ!」
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
転載元:高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「久しぶりに晴れた日のカフェで」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1465809466/
SS速報VIPのSS紹介です。
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