2014
05/21
水
1 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/20(火) 22:50:56.35 ID:xkzuxKSgo
ときおり耳にする「月が綺麗ですね」をぼかしたわけでもなく
ただ率直に
都会の不透明な空の感想を言う
「……確かにそうかもしれませんね」
空を見ようと誘って来た彼女からしてみれば
私の言葉は少し嫌なものに聞こえたかもしれない
でも、彼女は嫌な顔どころか
自分もそう思うというような意味を込めて
微笑みを向けてきた
「………………」
「………………」
黙って見つめ合うのがなんだか嫌で
私はもう一度空を見上げて口を開く
「……月、あまり見えませんね」
「ええ……普段は真、良き月夜なのですが。どうも今宵の月は恥じらっているようで」
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3 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/20(火) 22:58:29.79 ID:xkzuxKSgo
彼女はクスクスと妖艶な笑みをこぼしながら
私と同じように空を見つめる
「貴女がいるせいかもしれません」
「それは酷い言い掛かりだと思うのだけれど」
「そうとも言い切れませんよ」
彼女の視線に気づき
私もまた体の向きを変えて
彼女と向き合った
「なぜ?」
「貴女が如月千早だからですよ」
久しぶりに聞くフルネーム
懐かしさと今はない距離感が蘇ってくる
……が、言葉に意味は解らなかった
4 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/20(火) 23:07:09.76 ID:xkzuxKSgo
「月を貴女が奪い去ってしまったからですよ」
「え……あっ」
「ふふっ、ようやくお気づきですね」
彼女は嬉しそうに笑う
なるほど
如月千早の中に月が収まっている
だから、姿を見せない
「中々に柔軟性が必要な問題ですね」
「お気に召して頂けたようで何よりです」
得意げな彼女はその赤い瞳を私へと向ける
じっと見ていたら魅了されてしまいそうな気がして
逃れるように視線を逸らす私はちょっと……臆病者ね
5 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/20(火) 23:17:03.68 ID:xkzuxKSgo
自分に対して厳しい評価をぶつけても
相も変わらない空模様
まぁ、当然のことなのだけれど
「……部屋、戻ります?」
「いえ、月だけが空の魅力ではありませんから」
「星も……見えませんよ?」
「ええ、ですが……まだこの果てしなく続く空がありますから」
彼女はそう言いながら空を見上げる
その視界にはこの光のない大空
黒の中に薄い白
その絶妙な色合いが眠気を呼び出す
6 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/20(火) 23:21:02.24 ID:xkzuxKSgo
「……おや、横になられますか?」
「もうなってますよ」
「そうではなく」
言葉に続くポンポンッという小さな音
膝枕をしてくれるというのだろうか
それなら――い……やっぱりダメよね
少し考えて首を振る
膝を借りて寝るか
このまま起きて話を続けるか
こういう時間を中々取れない今
優先するべきなのは圧倒的に後者だったのだ
「もう少し……話がしたいわ」
「ふふっ、お付き合いいたしましょう」
7 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/20(火) 23:27:34.17 ID:xkzuxKSgo
「そういえば……今日は歌を歌っていないわ」
「……はい?」
「……その。歌を歌っていないのよ」
月に関する問題への返しの問題
考えてみたけれど問題以前の問題だった
「ふむ……」
彼女は少し考えてから
何かに気づいてクスッと笑う
「では、歌ったりしても良いのですよ?」
「……ダメよ。音が盗まれてしまったわ」
「おやおや、それは真、面妖なことです」
8 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/20(火) 23:35:36.45 ID:xkzuxKSgo
「ふふっ、まだまだですね」
「残念です」
真っ暗な空の下で
純白で光を宿す彼女の微笑み
それを引き出すためなら敗者になることも厭わない
言葉では勝てないと解ってはいても挑戦するのは
それが理由……だったりしなくもない
とはいえ、勝たれるだけを好む性分ではない
「――でも」
「っ!」
ギシッ……と
二つのロッキングチェアが音を立てて
その中の一つだけがその音に重みを乗せた
9 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/20(火) 23:41:45.66 ID:xkzuxKSgo
彼女の視界に私
私の視界に彼女が映る
見下ろす私と見上げる彼女
それで優越感に浸ろうなどという小さな心ではない
「隙が多いですね……いつものことですけれど」
「……貴女という人は」
彼女の余裕の表情に少しだけ焦りが見える
普段大人びてはいるが
その時々でしっかりと女の子らしさを持っている
そんな彼女は困ったように笑みを浮かべた
「ろっきんぐちぇあが壊れてしまいますよ」
「動かなければ大丈夫ですよ」
「……なるほど」
10 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/20(火) 23:49:25.13 ID:xkzuxKSgo
私の意図を読んだのか
彼女は小さく呟き
私のことをまっすぐ見つめる
綺麗な銀髪が靡いて
妖美な赤い瞳が輝きを増す
そこでふさわしいのは
月が綺麗というよりも月が陰って見えますね。のような気がしなくもない
「無駄ですよ」
「なんと」
「からかったのがいけなかったんですよ?」
「……わたくしとしたことが不用意でしたね。千早に動機を与えてしまうとは」
11 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/20(火) 23:56:18.33 ID:xkzuxKSgo
「そして」
彼女は言葉を続けながら
含み笑いを浮かべて言い放つ
「動悸も……でしょうか」
「………………………」
彼女はやっぱり……強敵だ
自分が不利な立場にいながらも
焦りをかき消して余裕そうな笑みを浮かべるのだから
「……いつまで経っても慣れないんですよ」
「それはわたくしとて同じことです」
彼女は白い肌を薄く染めて
私へと微笑みを向けてきた
12 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/20(火) 23:59:58.01 ID:xkzuxKSgo
「……………………」
「……………………」
その状態のまましばらく見つめ合って
私は何か仕掛けることもなく
彼女の上から退いて
もう一つの方へと横になる
「焦ることはありませんよ」
「……解ってます。でも、やはり先に進むことを望む気持ちは抑えきれませんから」
彼女に背を向けながら
言葉にだけは答えを返す
やっぱり……私は臆病者のようだ
13 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/21(水) 00:08:47.17 ID:q+Dg5Mjbo
「千早」
そんな私に対して
彼女は幸せそうに名前を呼ぶ
嬉しさ、楽しさ
希望や期待……色んなものの詰まった一言
そこに続く彼女の言葉も
やっぱりそんな柔らかな感情を包み込んでいた
「今度……どこかに旅行に行きましょう」
「旅行?」
「ええ、2人で。夜景の綺麗な素晴らしい場所へと……いかがでしょう?」
彼女はそれが明日であるかのように
幸福感を漲らせて聞いてくる
それを断る度胸はない
そうでなくても、断る理由なんて特にはなかった
14 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/21(水) 00:20:59.02 ID:q+Dg5Mjbo
「また月が隠れるかもしれませんよ」
ただ、それが少し不安で
冗談っぽく呟く
それに対する彼女の答えは
「――月は貴女がいるでしょう?」
解ってはいたけれど
予想よりもずっと心に響くその言葉
「………………」
「………………」
沈黙が流れる中で痛みさえ伴いそうなほど
顔が熱くなっていて
背中にも、彼女の小さな呻きが届いた
「な、なら……行きましょう」
「はい」
「2人で」
「ええ」
恥ずかしさを身にしみて感じながらも
私達はそう約束を交わして
向かい合うようにロッキングチェアから降りた
「ふふっ」
「……もう、寝ましょうか」
嬉しそうに笑う彼女の差し出してきた手を
私は優しく握り、部屋の中へと引っ張った
15 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ] :2014/05/21(水) 00:22:01.35 ID:q+Dg5Mjbo
終わり
貴音と千早
16 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2014/05/21(水) 00:33:23.34 ID:JRhIbzmAO
乙乙
17 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2014/05/21(水) 00:35:32.44 ID:wMBece0io
珍しい組み合わせだけどかなり好み
おつー
転載元:千早「綺麗とは言い難い空ですね」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400593856/
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貴音にも春香並みの包容力があるからね、ちかたないね。
真良きSSでした。