2014
04/07
月
1 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:01:46.15 ID:jwhVXhwao
「ふぅ…。」
荷物を網棚の上に置き、息を吐きます。
これから、生まれ育った土地から、たった独りで東京へと向かうのです。
慣れない電車に四苦八苦し、ようやくじいやの教え通りに席に着く事が出来ました。
まもなく、電車は走り出します。時刻は早朝、乗客もまばら。
がたん、ごとん。ゆっくり走り出した電車は次第に速度を上げ、窓が振動で軋み始めます。
外を見ると、私の知っている景色が見え、そして知らない景色へと移り変わります。
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2 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/04/07(月) 17:02:10.68 ID:jwhVXhwao
「真…この電車というのは面妖な物ですね…。」
私はただ座っているだけなのに、外の景色は目まぐるしく流れて消えていく。
それが無性に可笑しく、私は隣の座席に顔を向けます。
しかし、いつもなら側にいたじいやは居らず、私は独りで向かっている、と言う事実を改めて突きつけられます。
3 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:03:47.45 ID:jwhVXhwao
私は、四条家の長女として生を受けました。両親は跡取り娘がようやく産まれた、とそれは大喜びだったそうです。
しかしまもなく、生えてきた髪を見て…跡を継がせる事は出来ない、と悟った、そうです。
その数年後、妹が産まれました。妹は大層綺麗な黒髪でした。
私は、この髪の色の所為で、親戚中から疎まれ、蔑まれ、そして差別を受けてきました。
お前は四条の名に相応しくない、あの子は母親が不倫をして産まれた子だ、等。
その度に私は悔しい思いをして参りました。何時かは見返したい、と何度も何度も思いました。
4 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:04:24.46 ID:jwhVXhwao
…天井を見上げながら今までを振り返っていましたが、ふ、と気配を感じ、足下を見ると、
熊のぬいぐるみが転がっていました。誰かが落としたのでしょう。
一瞬だけ、見なかった事に、と言う考えが過ぎりましたが、情けは人の為ならず。立ち上がり、拾う事にしました。
すると、小さな女の子が駆け寄ってきたのが見え、落とし主だろうと顔を向けると、彼女はあからさまに怯えた表情をしていました。
…恐らく、この銀髪でしょう。やはり、拾わなければ良かったのでしょうか。
熊のぬいぐるみを差し出すと、女の子はひったくるように受け取り、そのまま席に戻っていきました。
5 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:05:11.69 ID:jwhVXhwao
ため息を吐き、いっその事東京に着くまで寝てしまおう、と席を倒すと、後ろの席から舌打ちが聞こえます。
何も聞こえなかった事にして、目を瞑りますが、先ほどの舌打ちが気になり、眠る事が出来ません。
………眠れない時は、考え事をしてしまいます。
6 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:06:11.90 ID:jwhVXhwao
私が育ち、義務教育を受け始めた頃も、やはりこの髪の色が原因で、周囲から虐められていました。
嗜んでいた柔術で対処をし始めると、次第に周りから相手をされなくなり、進級する毎に同じ事を繰り返し、
気が付けば孤立をしていたのです。それでも、私が挫けなかったのは、偏に、じいや…祖父の存在が大きかったのです。
じいやは、常に私を見守り、両親に代わり私を厳しく、時に優しく育ててくださいました。
そのお陰で、私は孤立していても、挫けず今日まで生きてこられました。
7 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:08:38.30 ID:jwhVXhwao
やはり眠れず、目を開けて外を見ると、既に明るく日が差していました。
電車は駅に着き、客を乗せ、そして下ろしているようです。この車両にも、何人かが席を探しにやってきたようです。
その中で、綺麗な長い髪をした女性が目に付き、私は無意識の内に彼女を目で追っていました。
彼女は、私と同じ側の席に座ったようです。席に隠れ見えなくなった後でも、暫く彼女の長く美しい髪を思い返していました。
8 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:09:28.52 ID:jwhVXhwao
ぼんやりと思い返していると、電車が走り出します。
また外を見ていると、線路沿いの下り坂を、自転車が併走していきます。
どこかで窓が開く音がし、それから、自転車の女性の声が聞こえてきました。
「あずさーっ!!!アイドルになっても、忘れないでねーーーっっ!!!」
あの様に見送られては、あずさ、と言う方は恥ずかしいのではないでしょうか。
自転車は、やがて電車に引き離されていき、見えなくなりました。
9 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:11:31.10 ID:jwhVXhwao
…しかし、あの様に見送られるのは、とても羨ましいものです。
私には、見送って下さる人も居ませんでした。私には、あの様に言って下さる人も居ませんでした。
前の席から、啜り泣く声が聞こえます。恐らく、先ほどのあずさ、と言う方が泣いているのでしょう。
あの様に想って頂けるのは、幸せなのでしょうね。私は、そっと目を閉じます。
私は……私は……、これまで誰の役にも立てず仕舞いで、居るだけで邪魔者扱いされ……、
これ以上はいけませんね。じいやが側にいないだけで、このように弱くなってしまうのでしょうか。
10 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:14:02.31 ID:jwhVXhwao
目を瞑っていると、辛くなってしまいます。仕方なく、目を開けると、視界の隅に、先ほどの熊の持ち主が入りました。
顔を向けると、彼女は赤い包み紙の飴玉を差し出してきました。
「これは…?」
「おねえさん、くまちゃんひろってくれて、ありがとう!これ、おれいにって、おかあさんが!」
「なんと…、頂いても宜しいのでしょうか?」
「うん!おねえさんにあげる!」
「では、有り難く。」
「えへへ、ありがとう、おねえさん!それと、さっきはごめんなさい。」
11 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:14:42.50 ID:jwhVXhwao
彼女は、笑いながら席へと戻っていきました。……私も、少しは役に立てたという事でしょうか。
その事実に気が付くと、涙が止めどなく溢れてきました。
顔を伏せ、誰にも見られないように一人静かに涙を流します。
やがて、涙が止まり、顔を上げると、どうやら東京が近づいているようです。
恐らく、私を出迎えて下さる人は居ないでしょう。
しかし、この赤い包み紙の飴玉が一人でも、きっと大丈夫と勇気づけてくれます。
12 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:15:27.49 ID:jwhVXhwao
私は常に役に立たず、邪魔になるだけだと思っていました。しかし、それは間違いだったのです。
私も常に変わっているのです。少しだけ、夢に向かっていく事への自信が持てました。
一人、決意を持った私を、電車は目的地へと運んでいきます。
じいや、私は、あの日憧れたあいどるになり、そしてじいやにも見えるよう、頂点に立ってみせます。
それまで、どうか見守っていてください。大好きなじいや。
おわり
13 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage] :2014/04/07(月) 17:16:45.91 ID:Imbn53920
乙
14 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2014/04/07(月) 17:19:49.67 ID:KoQ0b6HMo
乙乙!良い雰囲気だった!
爺や・婆やは下男・下女への親愛の呼びかけだから、祖父には使わないけどね
16 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:22:51.59 ID:jwhVXhwao
>>14
祖父だと脳内変換してたんだがそうなのか・・・
15 : ◆RY6L0rQza2 [saga] :2014/04/07(月) 17:20:58.62 ID:jwhVXhwao
https://www.youtube.com/watch?v=RqTot8_xk6k
BUMP OF CHICKEN「銀河鉄道」を貴音に当てはめて書いてみました
世界観とマッチさせるのがちょっと難しかった
見てくれてありがとう
17 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/04/07(月) 17:34:28.23 ID:N3Jyxfmm0
乙
あずささんとの関わりも見てみたい
19 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2014/04/07(月) 20:07:11.70 ID:agGmE4Vg0
乙! とても良かった
初めて出逢った響や美希が髪の色に驚くも、綺麗な髪だねと誉めてるのを純粋だと感じ取り
仲良くなる姿が目に浮かんだ
転載元:貴音「銀河鉄道」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396857705/
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今の季節は不安と期待を持って都会に出てきた人達が頑張り始める時期なんだな、って懐かしい気持ちになった