2014
01/01
水
1 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/12/31(火) 23:37:35.66 ID:zJ3GdvMS0
春香はいつか、自分にこう言ったよね。
孤高が強いんじゃない、って。
その意味は全然分かっていなかった。しかも、何言ってるんだコイツ、って聞こうともしなかった。
でも――いま分かったよ。
「プロデューサーさん! 私達、勝ったんですよ!」
「落ち着け春香! まだ舞台の上なんだから!」
結束が人を強くする。人はひとりじゃ、いられない。
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2 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/12/31(火) 23:38:04.33 ID:zJ3GdvMS0
――――
――
クリスマスの合同ライブから一日が経った。
同時に、961プロを解雇されてからも一日、経った。
「……寒い」
お気に入りのコートを着て、ひとり外に出る。
寒さを和らげるのはこのコートと、変装用のマスクだけ。
特に何をするわけでもない。散歩ってやつだ。
家族は連れてきていない。なんとなく一人になりたかったから。
3 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/12/31(火) 23:38:43.29 ID:zJ3GdvMS0
なんとなく電車に乗って、適当な場所で降りる。
電車に乗るだけで良かったのに、地下鉄では景色が見えなかった。
「なんか食べながら歩こうかな」
駅から少し離れたところにあるコンビニに入った。
『自由な色で……描いてみよう……』
4 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/12/31(火) 23:39:35.21 ID:zJ3GdvMS0
思わず身体がこわばる。
店内で流れていたのは『Colorful Days』。
765プロが全員で歌った――自分たちに勝利した曲だった。
「……肉まん、ひとつください」
本当はジュースなんかも買おうと思っていたけれど、すぐにレジに向かってしまった。
5 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/12/31(火) 23:40:06.99 ID:zJ3GdvMS0
コンビニを出て、マスクを外す。
自分はもうアイドルじゃないんだから、変装なんて必要ないんだ、とゴミ箱に捨てた。
「風が強いな」
これからどうしようかな。トップアイドルになると言って飛び出した手前、すぐに戻るわけにもいかないぞ。
いろいろと考えながら肉まんの包み紙を剥がして、思いっきりかぶりつく。
つもりだった。
「……響ちゃん!」
6 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/12/31(火) 23:40:39.45 ID:zJ3GdvMS0
肉まんから顔を上げた時、丁度反対方向から歩いてきたのは、昨日自分たちに勝った相手。
センターの天海春香その人だったからだ。
「響ちゃん、どうしてここに居るの?」
「は、春香こそどうして」
「えっ? だってここは、ほらっ」
春香に手をひかれる。
「ちょっ、ちょっと」
7 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/12/31(火) 23:41:12.22 ID:zJ3GdvMS0
すぐに大通りに出てきた。
春香が指をさした先にあった小さなビル。その窓にはガムテープで「765」と文字が作られている。
「私達、765プロの事務所があるからだよっ」
こんなところにあったのか。
「知らなかった」
「え、美希に聞いたりしなかったの?」
「うん。あんまり765プロの話は、しなかったからな」
8 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/12/31(火) 23:42:22.09 ID:zJ3GdvMS0
「だ、だよねぇ」
春香は申し訳無さそうに笑う。
「それに……社長の方針で、あんまりプライベートで会っちゃいけなかったんだ」
「……そうだったの?」
春香が765プロの方向へ歩き出す。真横とはいかないまでも、春香の少し斜め後ろについた。
9 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/12/31(火) 23:42:53.22 ID:zJ3GdvMS0
「うん。王者は孤高だから、って」
ふと、我に返る。
なんで自分は春香にこんなことを話してるんだ?
春香はライバルなんだ。黙ってりゃいい。帰ればいい。
どうせ春香だって、今まで戦ってきたアイドルと同じだ。同じなんだ。
961プロと自分たちをひたすら貶して、蔑んで、泣きながら帰っていく。
10 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/12/31(火) 23:43:45.55 ID:zJ3GdvMS0
自分の弱みなんかを話したら、つけこまれて――。
「……響ちゃん、無理してたんだね」
あいていた右手を、握られる。
……強がっていた、春香の気持ちを無碍にしかけた自分の心が、ずきんと痛んだ。
「私、全然気づかなくて……ごめん、ごめん響ちゃん」
……ライバルだった、だけだ。自分はアイドルじゃなくなった。
無理に虚勢を張る必要はないんだ。
11 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/12/31(火) 23:44:11.48 ID:zJ3GdvMS0
「……春香」
春香の横に進んでいく。肉まんをまた包みなおして、鞄にしまった。
「自分、春香と友達になりたい」
そんなことを言って、ちょっと笑ってみる。
この娘は、たぶん。
「――――私なんかで、響ちゃんの友達がつとまるかな……?」
アイドルである前に、ひとりの女の子だ。
12 : 以下、2014年まであと861秒。。。 [saga] :2013/12/31(火) 23:45:40.16 ID:zJ3GdvMS0
「あらためて、よろしくね。響ちゃん!」
春香はそう言って笑顔で自分のことを抱きしめてくれた。
沖縄から東京に出てくるときに母親にもらった以来のぬくもり。
ユニットのメンバーと仕事はしても、気持ちはひとりのままだった自分には、あまりにも、温かくて。
「響ちゃん……どうして泣いてるの?」
「……え」
13 : 以下、2014年まであと782秒。。。 [saga] :2013/12/31(火) 23:46:58.33 ID:zJ3GdvMS0
「ご、ごめんっ、私響ちゃんになにかしちゃったかな……」
春香の優しさで、視界が揺れる。
喋ろうとしても、うまく言葉が出てこなかった。
でも、一言だけちゃんと伝えることが出来た。
「ありがとう」、って。
14 : 以下、2014年まであと724秒。。。 [saga] :2013/12/31(火) 23:47:56.77 ID:zJ3GdvMS0
春香は自分の手をとって、765プロへと招いてくれた。
そこは今まで見下していたアイドルのみんなが、優しく自分を迎え入れてくれる場所で。
あんなに酷いことをしたのに。酷いことを言ったのに。
そんなこと気にすんな、って頭を撫でてくれた。
だから自分は、いま――。
15 : 以下、2014年まであと634秒。。。 [saga] :2013/12/31(火) 23:49:26.49 ID:zJ3GdvMS0
「いけるか、響?」
「えへへ、任せておいてよ!」
「なら大丈夫だな。なにぶん初めてのカウントダウンライブだから、大きな舞台の経験者じゃないと、って」
12月31日のアイドル事務所合同カウントダウンライブ。
765プロは年越しの前、1分前から始まるカウントダウンの直前の時間を託された。
本当は春香がセンターだったんだけど……緊張でちょっと空回りしちゃって。
それで大舞台の経験が豊富な自分が抜擢された、ってわけ。へへっ。
16 : 以下、2014年まであと525秒。。。 [saga] :2013/12/31(火) 23:51:15.52 ID:zJ3GdvMS0
「みんな、ちょっといいかな」
舞台袖で自分は、765プロのみんなを集めて言った。
「どうしたの、我那覇さん?」
「ちょっと言いたいことがあって。……大丈夫、すぐ終わらせるから」
一度咳払いをして、気持ちを落ち着かせる。
自分だけじゃなく、美希と貴音も迎えてくれたみんなに、どうしても伝えたいことがあった。
17 : 以下、2014年まであと327秒。。。 [saga] :2013/12/31(火) 23:54:33.80 ID:zJ3GdvMS0
「自分、今年は本当に忙しない年でさ」
美希、真、やよいが真面目な顔で自分を見つめている。
伊織も、あずささんも、亜美も真美も、じっと聞いてくれていた。
「961プロをクビになって、どうしようもないときに、765プロに入れてもらって」
――春香を見る。
自分の手を、最初にひいてくれた人。
18 : 以下、2014年まであと160秒。。。 [saga] :2013/12/31(火) 23:57:20.63 ID:zJ3GdvMS0
美希と貴音が頷いた。
フェアリーがこうしてユニットとしてやっていけてるのは、みんなのおかげだ。
「本当に、本当に……みんなには感謝してる」
してもしきれない。
千早の、雪歩の、律子の、ぴよ子の瞳が、自分の背中を後押ししてくれる。
19 : 以下、2014年まであと32秒。。。 [saga] :2013/12/31(火) 23:59:28.72 ID:zJ3GdvMS0
「だから……自分、センターとして本気で、みんなに恩返しするつもりで演りたいんだ!」
言えた。
恩返しは、最高のステージで魅せたい。
円陣を組んだ時も、一言頼むとプロデューサーに託された。
20 : 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [saga] :2014/01/01(水) 00:00:02.70 ID:7PWndSay0
「みんな、ありがとう! 全力でやろう、輝きの向こう側へ!」
さあ、リスタートだ!
21 : ◆K8xLCj98/Y [saga] :2014/01/01(水) 00:00:41.11 ID:7PWndSay0
今年もよろしくお願いします。
お読みいただき、ありがとうございました。お疲れ様でした。
転載元:響「リスタート」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1388500655/
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ベタだけどいいね。響可愛い
[ 2014/01/01 18:03 ]
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