2013
11/04
月
183 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/11/03(日) 10:15:19.70 ID:v4DgjMX0o
第五十夜 歌声
ほたる「さて、今日もそろそろアイドル百物語のお時間ですが……」

茄子「このアイドル百物語も、本日で五十。百の物語の半分となります」

小梅「ようやく……折り返し」

茄子「そうですね。これまでと同じだけのお話がこれからもあると思うと、なかなかすさまじいものがありますね」
ほたる「内容が内容ですからね……。ほっとする話もあったりはしますが……」
小梅「みんな面白いけど……刺激は強いかも、ね」
茄子「そうですねー。心がざわつくものは多いですよね。まあ、だからこそ面白い部分もあるのでしょうけれど」
小梅「うん。……そうだと思う」
ほたる「普段聞く機会の……そうそうないお話もたくさんありましたしね」
小梅「うん。みんな、それなりの話を知ってると思うけど……。普通は話す場がないかも」
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184 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/11/03(日) 10:16:22.62 ID:v4DgjMX0o
ほたる「それは……ありますね。きっと」
茄子「当人は不思議だと思っていても、人に話すほどだろうかと思うこともありますしね」
小梅「うん……。そういう話を掘り出せてたとしたら……嬉しいと思う」
茄子「ええ、本当に。さて、それで今回はどなたのお話に光を当てるのでしょうか」
小梅「今日は……五十番目だから……。ほたるちゃんに、お願いしてる」
ほたる「はい。今日は……これから私が話すことになります」
茄子「第一夜は私でしたものね」
小梅「うん」
茄子「そうなると、百物語、その最後はやはり……」
小梅「ふふ。それは言わないお約束……だよ」
茄子「ふふ。そうでした。さて、ほたるさんのお話ということであれば、その内容についてあらかじめ聞くより、実際に話に入ってもらう方が良いでしょう」
ほたる「は、はい。がんばります」
小梅「じゃあ……よろしく」
ほたる「はい。では、拙いところもあるでしょうが、どうぞ聞いてください」
185 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/11/03(日) 10:17:35.22 ID:v4DgjMX0o
ええと……。
では、始めます。
このラジオをお聞きのリスナーのみなさんなら既にわかっておられると思いますが……。
私は、怖い話を熱心に聞く、というタイプではありません。
学校で噂になっていたり、芸能界でも色々と漏れ聞くことはありますが、この番組に参加するまでは、あまり興味を持ちませんでした。
正直、その……怖いですし。
ただ、この番組を通じて、怖いだけではなく、様々なお話があるのだとわかってきました。
そして、これまで私が経験していたことの中にも、語る意味があるものもあるのだと、なんとなく思えるようになりました。
今日は、その一つをお話しします。
186 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/11/03(日) 10:19:58.52 ID:v4DgjMX0o
私にとっては印象深いお話です。
これは、私が今の事務所にお世話になる以前のこと……。
とあるテレビ番組のオーディションに合格し、アシスタント役をすることになったんです。
地方局のごく短い番組の、それもただ物を持って行くだけの仕事でしたが、放映されるお仕事に違いはありません。
私は喜んでお仕事に通いました。
ただ……ちょっとした役ですから、どうしても局にいる時間の大半は待ち時間になるんです。
メインのパーソナリティーさんたちの進行や、スタジオの都合……色々なものがあわさって来ますから。
その時間は言われればいつでも動けるように待機しているのが私の仕事なわけです。
でも……その……。
いまよりもずっと売れてないアイドルだった私としては、その時間も有効に使いたかったんです。
体の動きをチェックしたり、歌を練習したり……。
スタッフさんも、そのあたりはわかっているんです。
アイドルにしろ、芸人さんにしろ、駆け出しの時期は、皆そうですから……。
187 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/11/03(日) 10:21:11.98 ID:v4DgjMX0o
そのときのスタッフさんは、優しい人たちで、私が待ち時間に自主練をするのに、大道具倉庫を使うようにと言ってくれました。
もちろん、ちゃんと呼ぶ声が聞こえる場所で、という条件で。
私は喜んで倉庫で自主練をしていました。
呼ばれたらすぐ行かないといけませんから、倉庫の入り口近くで、出入りの人の邪魔にならないようにして。
そして、そこで練習するようになってからしばらくして。
気づいたことがありました。
歌声が聞こえてくるんです。
とっても小さな声で、私の耳にはその歌詞も定かではありませんでしたが、たしかに聞こえるんです。
何度も、何度も、同じメロディを繰り返すその歌が。
それも、私が練習しているときは、いつも。
その歌を聞く度、私はなんだか嬉しくなっていました。
きっと、倉庫の奥に私と同じように練習している人がいるんだと思ったからです。
188 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/11/03(日) 10:22:25.81 ID:v4DgjMX0o
私は待機の関係上、奥に行くことは出来ませんでした。
だから、実際にその人の姿を見ることもありませんでした。
けれど、同じような立場の人がいるというのは、どこか勇気づけられるものです。
そうして、倉庫の奥からはかすかな歌声が響き、倉庫の入り口では私が体を動かしたり、表情の練習をしたりしているという状況が続きました。
けれど、私が参加していた番組は、しばらくすると内容が変化して……。
私はそのタイミングで番組を外されました。
そのとき、私はようやくのようにスタッフさんに尋ねたんです。
倉庫の奥で練習されているのはどなたですかって。
189 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/11/03(日) 10:23:45.50 ID:v4DgjMX0o
でも、スタッフさんの答えは意外なものでした。
『あの倉庫に入ってるのは君くらいだよ。奥に入るのは係の者だけで、他は管理の関係で立ち入り禁止』
私は、入り口の……見えるところにいるから、特に許されていたのだ、とその人は説明してくれました。
では、あの歌声はいったいなんだったというのでしょう。
私が密かに励まされていたあの歌声は。
私はなんとか頼み込み、大道具の方と一緒に、奥へと入ってみました。
そのときは歌声はしていませんでしたが、記憶の中のあの声に向かって進んだんです。
そこには、パレットに乗せられた大道具や、様々な梱包物があるばかりで、人の気配どころか、最近誰かが立ち入った痕跡もありませんでした。
190 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/11/03(日) 10:24:36.23 ID:v4DgjMX0o
ただ……。
ぽつんと楽譜が置かれていました。
流通しているような立派なものではなく、五線紙に手書きで記したものを、まとめて綴じたもの。
そんなものが、そこにあったんです。
当時、私はどういうことなのかよくわかりませんでしたし、大道具さんは、なんでこんなものが放ってあるんだと憤っていました。
でも、いまになって思うんです。
もしかしたら、あの歌は……。
あのかすかな歌声は、その楽譜から漏れ出てきていたんじゃないかって……。
191 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/11/03(日) 10:25:54.50 ID:v4DgjMX0o
茄子「素敵なお話ですね」
ほたる「……ただの妄想かもしれませんけどね」
小梅「で、でも、聞こえたんだから……」
ほたる「私以外の人が……聞いていたなら、また違うんでしょうけど……」
茄子「いえ、きっと歌声は響いていたんでしょう。それが果たして楽譜そのものから発せられたものなのかはわかりませんが」
小梅「器物が変じて意思を持って動き出すお話は昔からあるし……ね。遺品やなにかに霊がつくことも……もちろんある」
茄子「ええ。ですから、妄想だなんて言わないでいいんですよ。それに、それじゃあ……つまらないじゃないですか」
ほたる「……ふふ。そうかもしれません」
小梅「……でも、なんにしても、ちゃんと聞いてみたかったね」
192 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/11/03(日) 10:26:38.30 ID:v4DgjMX0o
ほたる「そうですね。そこは惜しいことをしたと思います。……とても綺麗な声でしたから」
茄子「まあ、それくらいの位置取りのほうがいいのかもしれませんよ。あまり近づきすぎても……」
ほたる「……それはそうかもしれませんね。正体が知れたら、もう現れないなんてこともよく聞きますし」
小梅「そう……だね。引きずり込まれないくらいが……いい、かも」
茄子「そこに悪意がなかったとしても、我々とは違う存在に近づくだけで危ないというのはありえますからね」
ほたる「……なるほど。さて、私の話はこのあたりとして……。今回で第四シーズンも終わりですが、いかがでしたか小梅さん」
小梅「うん。ゲストさんも来てくれたし、たくさんお話聞けたし、このシーズンも……楽しかった」
193 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/11/03(日) 10:27:25.12 ID:v4DgjMX0o
茄子「ええ。次もぜひ楽しみましょう」
小梅「うん」
ほたる「それでは、第四シーズン終了および、第五シーズンに向けて、一言どうぞ」
小梅「たくさんお話を聞いて……みんなとたくさんの時間を過ごして。いっぱい怖くて、いっぱい楽しい。だから……次も、みんな、いっしょがいい……ね?」
茄子「はい、では、次回、第五シーズンにて再びお会いしましょう」
ほたる「それでは……また」
第五十夜 終
194 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/11/03(日) 10:28:14.85 ID:v4DgjMX0o
というわけで、今回にて第四シーズン終了となります。
いよいよ次から後半戦です。
第五シーズンについては、11月後半にスレ立て出来ればと思っております。
なんとか……はい。
それでは、ここまでおつきあいありがとうございました。
195 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/11/03(日) 10:46:50.50 ID:3q6f/fMvO
乙
次も楽しみにしてます
196 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/11/03(日) 10:49:50.99 ID:Efrld8F9o
乙。もう50人も出たのか。
SSで名前を聞くような子は大体出た気がするから、この先はどんな子が出るのか
楽しみだな。
199 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/11/03(日) 11:17:25.91 ID:GjK2M44Jo
おつー!
いつも楽しみにしてたぜ!
読み応えあった、またね
201 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/11/03(日) 12:41:06.33 ID:6rLBkdsUo
乙
ずっと楽しく読んでるよ、あと半分も頑張れ
転載元:小梅「白坂小梅のラジオ百物語」Season4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1381326554/
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ついに折り返しか、感慨深い
ほたるちゃんはもっと怖い話かと思ったが、中々素敵な話だった
ホラーの苦手な自分でも読める大好きなシリーズなので、残り半分も頑張って下さい
ほたるちゃんはもっと怖い話かと思ったが、中々素敵な話だった
ホラーの苦手な自分でも読める大好きなシリーズなので、残り半分も頑張って下さい
[ 2013/11/04 04:44 ]
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ちなみに私はバイト先の倉庫整理中に、誰も居ない倉庫の端からスーパーに良くあるカートが毎回3台倉庫の大通りを横断しようとしているのを3回くらい見た事があるよ。
心持ち傾斜ではあるけど、何故か毎回3台転がるのを覚えてる。