2013
08/03
土
246 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:19:26.37 ID:g3vq62cW0
P「……似合ってるぞ」
伊織「うるさい、さっさと行くわよ」
伊織が社用車の助手席に滑り込んでくる。灰色のワンピースタイプの制服に、臙脂色のリボンタイ、バッグを一つ持っていた。伊織の学校の制服だ。
普段と違う点がもう一つ。
伊織「ちらちら見るな」
スポンサーリンク
247 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:19:55.99 ID:g3vq62cW0
今日の伊織は前髪を下ろしていた。綺麗に横に切りそろえられた前髪を慣れないのか所在無げにいじっている。
P「でも普段はそうしてることも多いんだろ?」
伊織「家だとね。外出するときにこの髪型なのはあんまりないから、なんか違和感」
確かにこの髪型を見るのは俺自身二回目だった。
8月16日。
今日は伊織が模試を受ける日だ。
248 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:22:17.82 ID:g3vq62cW0
模試の話をされたのは7月の終わり、夏祭りに行ったすぐ後のことだった。
プロデューサーが以前講師をしていた塾の模試に行くぞ、と。
P『本当は講習とか合宿に出てほしかったんだが、そんなに何日もスケジュール調整できないからな』
P『合宿が終わって次の日、最後のまとめとして模試があるんだ。合格判定も出る』
P『そろそろ受験で戦う相手を知っておくのも悪くない』
確かに学校では私の周りに受験者はいなかったし、雰囲気を味わっておくのも悪くないと思った。
それに、少しは自信もある。
元々勉強はできる方だったし、最近はさらに時間を作って勉強もしている。
まあ、先日のテストでは散々な結果だったけれど……。
そのリベンジも兼ねて、私は外部受験者としてその模試に参加することになった。
249 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:23:19.54 ID:g3vq62cW0
P「着いたぞ。ここだ」
車があるビルの駐車場に入っていく。
ビルには『JA共済総合ビル』と書いてあった。
伊織「ここ?」
自分の想像していた建物とは違っていた。
塾の教室とかそういうところを想像していたのだ。
P「ああ。今回は都内にある教室の生徒が一斉に集まって模試を行うからな」
P「会場三つ借りて大規模に行うんだ」
車が止まる。
250 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:24:21.14 ID:g3vq62cW0
P「受験票は持ってるな?」
ええ、と答えつつ一応バッグの中を確認した。
あった。
ちゃんと入っている。
P「じゃあ大丈夫だな。中に案内板があるはずだから、指定された会場に入れ」
P「会場の各机に受験番号が置いてあるから、その机に座ること。開始時間わかってるか?」
伊織「9時でしょ」
現在の時間は8時30分。まだ余裕がある。
P「あと何か不安なところはあるか?」
特に思いつかなかったので大丈夫、と言っておいた。
251 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:27:01.91 ID:g3vq62cW0
P「おし。まあ模試なんてこれから何回でも受けることになる。リラックスして受けてこい」
車のドアを開けて外に出る。エアコンの効いた車内とは違いむわっとした空気に包まれた。
P「終わるころに迎えに来る。大体この場所にいるから」
わかったわ、と答えてビルの入口へ向かった。
周りには同じ年頃の制服の子供たちが歩いていて、皆ビルの入口に入っていく。
友達同士だろうか、談笑しながら入り口に向かっていく女の子の3人組や、一人でウォークマンを聞きながら歩いている詰襟を着た男子生徒。
そういえば同い年の男の子なんて久しぶりに見るわね、と思った。
自動ドアの入り口付近にはスーツを着た男性が二人いて、来る生徒にあいさつをしている。
きっと塾の講師なのだろう。
アイツもこんなことしてたのかしら?と思いながら私もあいさつをして入り口をくぐった。
252 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:28:27.91 ID:g3vq62cW0
中に入ると、入り口の目の前、ロビーの中央に位置するあたりに案内板があった。
8,9,10階が会場になっているらしく、受験番号によって入る会場が違うらしい。
念のため、もう一度バッグから受験票を出して確認する。
伊織の番号は『9061』だった。
改めて案内板を見てみると、10階の欄に『7000番台、9000番台→椿の間』とある。
伊織は受験票をバッグにしまい、エレベーターの方に向かった。
エレベーターの「▲」ボタンを押して待っていると、後ろに生徒が集まってくる。
こんなところに私がいるってばれたら大変なことになるわねと思いなるべく後ろを見ないようにした。
エレベーター内では奥の方で横を見ながら待つ。
8階、9階でそれぞれ何人か生徒が降り、10階についた。
エレベーターを降り館内表示を見ながら『椿の間』に向かう。
253 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:30:05.79 ID:g3vq62cW0
何度か角を曲がると、前方に『椿の間』と書かれた扉が見えた。
『椿の間』の入口は両開きの扉で2か所あった。右側の扉を押して中に入る。
中はかなり広く、バスケットコートより一回り大きいくらい。
長机が大量に置かれていて、前方向には司会用の机があった。隣にはホワイトボードも見える。
机は横に三列に並べられていて、各列縦には20個程度。
一つの机には椅子が二つ配置されていて、間を開けて二人ずつ座るようだ。
机の右隅、あるいは左隅に番号の書かれた小さな紙が配置されていた。
受験番号とは別に、何枚かの紙が各座席に置かれている。
自分の番号が書かれた机を探し、席につく。
伊織の席は一番右側の列、真ん中付近の位置だった。
席につきバッグを下ろす。
自分の腕時計を確認すると、時間は8時45分になっていた。
普段は腕時計はしない伊織だが、今回つけてきたのはプロデューサーの指示だった。
P『基本的には自分の腕時計で時間を確認すること。席についたら腕時計は外して机の端にでも置いておけ』
腕時計を外そうとして、一応お手洗いに行っておこうかしらと思い直し、バッグを持って席を立った。
254 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:31:01.46 ID:g3vq62cW0
洗面所で石鹸をつけて手を洗い、外見を確認する。
前髪は下がっているが、基本的にはいつもの伊織ちゃんだ。
正直、自分がこんなところに来たら大騒ぎになるんじゃないかと考えていたがそんなことはなかった。
もしかしたら気づいていた人もいるのかもしれないが、誰ひとり声をかけてこない。
それに、会場の雰囲気も意外だった。
各教室の生徒が集まってくると聞いていたので、もっと友達同士で集まったり、談笑したりしているものかと思っていた。
しかしそんなことはなく、生徒たちはみな机に座り、テキストや教科書を開いて勉強していた。
会場に入ってきた人に目を向けることもなく黙々と。
伊織は大きく二回深呼吸をすると、会場の自分の席に戻った。
255 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:32:05.64 ID:g3vq62cW0
9時5分前になると前の司会席に男の人が立った。
「えー、池袋東教室の和田です、よろしく」
ダークスーツに白いシャツ、無地のネクタイをつけた男の人だった。ずんぐりとした鼻で、顎にひげを蓄えている。頭は丸刈りの小柄な人物だった。
和田「それでは教科書等はしまってください。机の上に出していていいのは鉛筆、またはシャーペン、消しゴム、定規、時計だけです。筆箱はしまってください」
これはプロデューサーから聞いていたので、もう筆箱はしまってあった。
P『筆箱は基本的にはしまわなきゃならないからな。シャーペンの芯はちゃんと入れておけよ。できれば消しゴムは二つ』
何人かは筆箱をバッグにしまう。
その後もいくつか注意点が続いた。
256 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:35:07.36 ID:g3vq62cW0
バッグは座席の下に置くこと。
問題が配られたら開始までは答案用紙、問題ともに伏せて待つこと。
筆記用具、消しゴム等を試験中に机の下に落としてしまった場合、挙手をして試験管に知らせること。
また、具合が悪くなったり、会場が暑い、寒いなどがあるときも挙手をして知らせること。
試験時間は一教科50分で、『はじめ』の合図で始め『やめ』の合図で筆記用具を置くこと。
和田「それでは最後に、志望校記入用紙の説明をします。みなさんの机にあらかじめおかれていた紙が三枚ありますね。確認してください」
確認すると、冊子のようなものが一冊に、白い紙が2枚あった。
冊子を掲げながら、和田が話す。
和田「えー、この冊子のようなものが志望校のコード表です。自分の志望校をこのコード表で探して――」
今度は白い紙を見せる。
和田「こちらの志望校記入用紙に書き込みます。志望校記入用紙にはほかにも氏名、性別、受験番号、など書き込む欄がありますのでもれなく記入してください。何か不明な点がある場合は挙手をして近くのスタッフに聞いてください」
和田「それでは20分まで記入の時間とします」
257 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:36:29.95 ID:g3vq62cW0
みんなが一斉に用紙に記入する音がする。
伊織も必要事項を書きこんでいく。
志望校を記入する欄は3つあったが、伊織は一つだけしか書かなかった。
和田「記入が終わった人は用紙を伏せて机の端に置いておいてください。スタッフが回収します。あ、あともう一枚の紙は模試の案内なので今のうちにバッグにしまっておいてください」
伊織は書き終わると模試案内をバッグにしまい、おとなしく待っていた。
時間になると一人一人志望校記入用紙を回収される。
和田「はい、それでは試験は前の時計で9時半から開始します。最初の教科は英語ですので、用のない人はそのまま席についていてください。どうしてもトイレに行きたい人は素早く行ってきてくださいね」
和田がそう言い壇上を降りる。
と同時に周りの生徒はバッグからテキストを取り出して見直しを始めた。
伊織もそれにならってテキストを取り出した。
258 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:39:16.08 ID:g3vq62cW0
しばらくすると、再び和田が壇上に上がった。
和田「さ、それでは問題を配りますのでテキストなどはしまってください」
時間は9時25分。どうやら30分ちょうどに開始するために早めに問題を配るらしかった。
前から順に用紙が配られる。
伊織も伏せたまま一枚取り後ろに回した。
和田「始める前に問題の確認をします。問題が正しく印刷されているかを確認しますので、ページが1から13ページまであるか確認してください。確認が終わりましたら問題は再び伏せて置いておいてください」
こんなこともするんだ、と思いながらぺらぺらと確認する。問題はなかった。
259 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:39:47.29 ID:g3vq62cW0
和田「それでは、始めの合図とともに試験を開始します。がんばってください」
と言いながら、和田は上半身をひねって前に掛けてある時計を確認した。
まだ1分ぐらい時間があった。
和田「……まだ1分ぐらいありますね。えー、試験が始まったらまず真っ先に名前を書いてくださいね。0点になっちゃいますから」
和田「それと、最初はリスニングです。試験が始まったらすぐにCDが流れますからね」
再び時間を確認する。秒針は『8』のあたりに来ていた。あと20秒。
伊織は緊張していない、大丈夫と言い聞かせていたが、若干心臓の鼓動が早くなっていた。
意識して呼吸をしているのがその証拠だ。
とにかく、最初に名前を書く。
和田「――はじめ!」
260 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:40:36.42 ID:g3vq62cW0
一斉に紙をめくる音が響く。
続いてペンが一枚の紙を挟んで机を叩くカツカツと言う音。
会場にいる100人以上が鳴らす同じ音は、一つ一つは小さくても合わさって伊織の耳に響く。
伊織も問題を開き、答案用紙を裏返す。
名前を書く。受験番号を記入する。
『第4回全国統一模試、英語、リスニングテスト』
会場内にスピーカーから、無機質な女性の声が響いた。
261 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:44:04.32 ID:g3vq62cW0
時計を見ると12時45分になっていた。
伊織は午前中の教科を終えてそろそろ昼食を取っている頃だろうか。
「戻りましたー」
「戻りましたぁ」
事務所のドアが開きあいさつをしながら真と雪歩が帰ってくる。
262 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:44:39.57 ID:g3vq62cW0
P「お、おかえり」
小鳥「お帰りなさい、真ちゃん、雪歩ちゃん」
真「ふぅー、あっついー」
真は右手で自分の顔を煽ぎながらソファに体を沈める。
疲れたねー、と言いながら雪歩は給湯室のほうに歩いて行った。
P「今日はダンスだったか?」
真「そうですよー!この時期のダンストレーニングはきっついですねー」
P「ちゃんと水分取れよ。室内でも熱中症になるんだから」
真「はい!今日はスポーツドリンク二本も飲んじゃいましたよ」
P「それでいい」
263 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:45:53.46 ID:g3vq62cW0
真と話していたら雪歩がお茶を持ってきてくれた。
雪歩「はい、プロデューサーもどうぞ」
P「お、サンキュー」
雪歩「いえー」
雪歩はお盆を持ってソファの方へ歩いて行った。
お茶を一口飲む。麦茶だった。
P「ふむ、うまい」
ひとりごちる。
さて、夕方には伊織を迎えに行かなければならない。
それまでにできるだけ仕事を片付けておこう。
気合を入れなおすと俺は再びパソコンの画面に意識を向けた。
264 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:46:33.09 ID:g3vq62cW0
車で待っていると、入り口から生徒がわらわら出てくるのが見える。
どうやら模試が終わったようだ。
ビルの入り口前では講師が見送りをしていた。
俺も以前はやっていたな、と思いながら伊織が出てくるのを待つ。
それから数分後こちらの方に伊織が歩いてくるのが見えた。
P「お疲れ」
伊織「ええ」
車を出す。
迎えの車で込み合っているので、講師たちの誘導に従う。
265 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:47:26.02 ID:g3vq62cW0
P「どうだった?」
伊織「まあまあ」
P「自己採点しただろ?」
伊織「いちおう。でも自己採点なんてするの初めてだから誤差がひどいかも」
P「まあな。それもこれから慣れてかなきゃならん」
P「記述問題のところだろ?」
伊織「そう」
P「まあ数学と理科なら俺が後から見る。文系の正確な点数は結果が帰ってきてからだな」
266 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:48:34.87 ID:g3vq62cW0
P「ちなみに数学は何点だった?」
伊織「証明を抜いたら71点」
P「理科は?」
伊織「たぶん72点」
71と72か。
まあ自己流で勉強したにしてはまずまずだろう。
勉強方法は教えてはいたが、受験に向けての本格的な勉強はまだまだしていないに等しかった。
一年生の内容や2年生の内容なんて抜けているところが多いだろうし、これから復習をしていかなければならない。
今までは定期テストの勉強やワーク、ノートなどの提出物のために時間を割いていたので本格的な勉強はこれからというところだ。
267 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:54:59.27 ID:g3vq62cW0
正直スタートは遅くなったと言わざるを得ない。
予定では夏休み開始から総復習を始めるつもりだった。
しかしテスト結果のごたごたがあったためまだ始められていないのが現状だ。
今はまずまずの状態だが、本当ならもっともっと周りに差をつけておかなければならない。
なぜなら――
伊織「ねえ」
しばらく黙っていたら伊織が話しかけてきた。
P「ん?」
伊織「みんな……真剣だったわ」
P「だろうな」
268 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:55:40.90 ID:g3vq62cW0
伊織「正直もっと気が抜けてるのかと思ってた」
伊織「学校の周りの子たちはテスト前とかテスト中でもそんな感じだし」
まあそうだろう。
伊織の周りには受験をする子なんてほとんどいないはずだ。
私立の学校だと高校まで、または大学までエスカレーター式だ。
定期テストや模試に緊張感がないのも仕方がない。
P「あの雰囲気を感じてほしかったから模試に申し込んだようなもんだしな」
伊織「そうなの?」
P「ああ。もちろん合格判定を出すのも目的だが」
伊織「……」
269 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 18:57:32.42 ID:g3vq62cW0
伊織「……みんな、この後成績が上がるのよね」
P「……そうだな」
やはり頭の回転が速い。
というか、先を見る能力がある。
これも芸能活動の副産物だろうか?
P「今回の模試は夏期講習や合宿でのまとめみたいなもんだ」
P「講習とか合宿の成果を試す場所。塾に通っている生徒の結果は以前と比べてどうなってると思う?」
伊織「……そりゃ上がってるんじゃないの?」
P「まあそうなんだが」
P「実は点数的には以前と変わらないか、少ししか点数が上がってない生徒が大半なんだ」
P「人によっちゃ下がってるかもな」
伊織「……意味ないじゃない」
270 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 19:01:12.75 ID:g3vq62cW0
P「意味なくはない。……というか、塾側はそれをわかった上で別の意図を持ってこの時期に模試をやってるんだ」
伊織「別の意図?」
P「正直一か月死ぬ気でやったって、あんまりは成績は変わらん。特に模試なんかの総合問題だと特に」
P「だから折れずに努力を続けることが大切なんだ」
伊織「……」
P「一般的に勉強の効果が出るのは三か月後って言われてる」
伊織「へえ」
P「三か月がんばり続けないと成績ってのは伸びてこないんだよ」
P「これは筋トレとかでも言えるらしいが」
P「……その代わり、三か月経過からは見違えるように成績が伸びていく子が多い」
伊織「……」
271 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 19:02:01.60 ID:g3vq62cW0
P「だからちゃんとやってるやつは……そうだな、10月とか11月あたりに急激に成績が伸びてくる」
まあそれまでに心が折れなければだが、と付け足そうとして、やめた。
偏差値的に、伊織の敵は最後まで努力したやつらばかりが志望してくるはずだからだ。
伊織は沈黙している。何を思っているのだろうか。
P「そんなやつらと戦うことになるな、これから」
伊織「……難儀ね」
P「珍しく弱気だな」
伊織「弱気じゃないわよ。ただ……」
P「ただ?」
伊織「……ううん、なんでもない」
272 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 19:06:18.82 ID:g3vq62cW0
P「まあ、今回はこれから戦う相手のことがわかっただろ?」
P「勝負はこれからだ」
伊織「……そうね」
それから伊織は事務所に着くまで黙ったままだった。
無表情な顔の下で何を思っていたのだろうか。
そして事務所につくと仕事のため律子とともに移動となった。
朝から夕方まで模試を受け、その後に仕事。
こんなスケジュールが試験まで続く。
伊織は簡単に折れるやつじゃないが、ただがむしゃらに勉強させればいいわけでもない。
以前よりはましになったとはいえ、伊織は自分のコントロールが決して得意ではない。
そこを補うのがプロデューサー兼先生である俺の役目だ。
273 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 19:06:47.75 ID:g3vq62cW0
……
律子「大丈夫、伊織?なんだか調子悪そうね。疲れたの?」
伊織「……ううん、ちょっと考え事してるだけ」
律子「ならいいけど、何かあったらすぐ言いなさいよ」
伊織「うん」
伊織「……」
つづく
274 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/06/27(木) 19:09:52.80 ID:WzSlnq2DO
直角三角形で覚えるのは三角定規だけで良いだろ……
この二つは2等辺三角形だったり正三角形からくるから(角度も分かって)重要なのであって、
辺の長さが整数なのは大して重要ではないと思う
278 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/06/28(金) 18:01:32.06 ID:jBPG9Hlxo
>>274
公立ではあまりないが、私立の入試で出てくることもある
279 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/29(土) 18:16:56.99 ID:Ap9762GO0
>>1です。
>>274>>278さん
そうですね。というより三平方は計算さえしっかりできれば答えは出るので覚える必要はないということになってしまいます。
教えてるのはスピードアップのためです。特に5:12:13とかは気づければ相当時間短縮になります。
こっそり公立とかでも出てる県もありますし、伊織レベルであれば覚えておくべきでしょう。
ということで投下します。
276 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/06/27(木) 20:06:22.18 ID:lbHG04690
乙です
伊織の受ける高校は私立なのかな?
俺の住んでたとこでは私立高校は評定関係なしで当日試験のみだったからなぁ…
277 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/27(木) 20:38:44.30 ID:g3vq62cW0
>>276
一応公立(都立ですし)の雰囲気で書いてますが……
現実だったら公立に受かったのに行かないなんてたぶん怒られるでしょう。誰に?誰かは知りませんが。
ちなみに私立でも内申を見られるところもふつうにあります。なんでどちらでもいいですね。
280 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/29(土) 18:17:49.36 ID:Ap9762GO0
P「それでは、第二回テスト対策作戦会議を始める」
伊織「質問」
P「はい、伊織くん」
伊織「なによそれ……質問というか今更ってカンジなんだけど」
伊織「なんで夏休みが明けてすぐに『期末』テストがあるの?前々から思ってたけどおかしくない?」
281 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/29(土) 18:20:51.22 ID:Ap9762GO0
P「うむ、それは日本の教○○○会が[ピーーーーーーーーーー]だからだね!!」
伊織「……」
P「いやー上の考えてることはわからんね。ゆとりって言ってみたり今度は内容増やしてみたり、教科書だっていつまでたってもわかりやすくならねーしなー」
伊織「……アンタ、消されるわよ?」
P「冗談だ。真面目に説明すると3時間ぐらいかかるが、説明するか?」
伊織は顔をしかめて手をひらひらと振った。
模試を受けてから3日後、伊織の午後が珍しく開いていたのでテスト対策を行うことにした。
先ほど伊織が言った通り夏休み明けには期末テストが行われる。
簡単に言うと伊織の現在の学校は2期制のため、1年間が前期と後期に分けられている。
つまり9月の期末テストをもって前期が終了し、前期分の成績がつけられるわけだ。
282 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/29(土) 18:23:01.78 ID:Ap9762GO0
伊織「中間テストで失敗しちゃったから、気合入れないとね」
伊織「頼んだわよ、先生」
P「……ああ」
苦い思い出だ。
当時は俺も伊織もだいぶ気落ちしていて、何とか切り替えるのに一か月以上かかった。
だが今になればあれも必要な経験だったかなと思う。
この先もっと苦しいことはたくさんあるからだ。
P「さて、とは言っても基本的にはやることは同じだ」
P「内容的に中間テストから少し進んだとはいえ、範囲が重なっている部分も多い」
P「前回の復習をしつつ新しい内容を確認していくという形を取る」
283 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/29(土) 18:23:33.92 ID:Ap9762GO0
伊織「具体的には?」
P「まずはこれをやるべし」
プリントを手渡す。問題二枚に、答案用紙一枚。
伊織「これ……中間テスト?」
P「うむ。もちろん解き直しはやっておるな?」
伊織「……」
まあやってないと思って言ってるんだが。
今回伊織に渡したのは、前回64点だった中間テスト。問題と解答をコピーし、修正液で書き込みや途中式などを消して白紙の状態に戻したものだ。もちろん数字などは一切変えていない。
288 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:27:32.13 ID:uuMCly6X0
P「前回とまったく同じ問題だ。さすがに解けるだろ」
伊織「……なんか、アンタの傾向がわかってきたかも」
P「40分な」
伊織「短いわね」
P「二回目だからな。おし、始め!」
伊織はカリカリとペンを走らせ始める。
俺は会議室を出た。邪魔にならないようにというより、俺にも仕事があるからだ。
289 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:28:28.13 ID:uuMCly6X0
「あ、プロデューサーさん!」
デスクに戻ると春香が駆け寄ってくる。
P「おう、今から現場か?」
春香「はい!」
P「販促イベントとラジオだったか」
春香「そうです!今度こそTOP20を狙いますよ!」
P「うむ、期待しておるぞ」
春香「はい!あ、これプロデューサーさんもどうぞ」
女の子らしい包み紙で包装された小さな包みを渡してくる。リボンとシールまでついていて、ふわんと甘いにおいがした。
290 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:29:25.01 ID:uuMCly6X0
P「サンキュ。今日は何なんだ?」
春香「フィナンシェですよ、フィナンシェ!」
P「……すまん、わからん」
春香「別にプロデューサーさんがわかるとは思ってませんよ」
P「うぐっ。お前口悪くなってないか?」
春香「あはは、冗談です。名前はまあいいですから、いい出来なので食べてみてください」
P「ああ、仕事に疲れたらいただくよ」
291 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:29:58.50 ID:uuMCly6X0
春香「あ、あとこれは……そうだ」
P「?」
春香「プロデューサーさん、付箋持ってません?」
P「付箋? ……ほら」
春香「あ、ありがとうございます」
付箋を渡すと、春香はペンを取り出し机の上で何かを書きはじめた。
春香「……よし!これは伊織の分です。渡してもらっていいですか?」
P「……なるほどな。わかった、よろこぶよ」
292 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:30:28.80 ID:uuMCly6X0
春香「どうなんですか?伊織の調子」
P「まあまあかな。後で本人に聞いてみたらどうだ?」
春香「……なんとなく勉強中って話しかけにくいじゃないですか」
P「それはそうかもな」
P「それより春香は学校の勉強だいじょうぶか?」
春香「……」
P「目をそらすな」
のヮの「」
P「顔芸するな。お前だってそろそろ定期テストが……」
293 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:31:13.61 ID:uuMCly6X0
春香「お仕事行ってきまーす!」
P「……」
不自然に回れ右をして駆けていく。
春香「わあっ!?」
ドンガラガッシャーン!!
お約束も忘れない。
勉強はともかくお笑……アイドルとしては成長しているようだな。
294 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:32:12.67 ID:uuMCly6X0
30分後、伊織の様子を見に行くともうすでに終わっているらしかった。
頬杖を突きながら空いている手でペンを回している。
P「できたか?」
伊織「……だいたい」
P「んじゃあそこまで。これ以上考えてもわからんところはわからんだろ」
模範解答を渡して自己採点をさせる。
295 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:33:02.79 ID:uuMCly6X0
伊織「……できた」
P「ふむ」
丸付けが済んだ答案用紙を受け取り、点数を計算する。
P「70点だな。前回のテストが終わった後、解き直ししたか?」
伊織「……してない」
P「しような」
伊織「……怒らないわけ?」
P「まあ今の伊織の顔見たら別に言う必要ないか、と」
P「解き直しやっとくべきだったってちゃんと自覚してるみたいだしな」
伊織「……」
296 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:33:29.51 ID:uuMCly6X0
P「次からちゃんとやればいい」
伊織「……ふん」
P「定期テストの解き直しをする意味は二つ。一つは当たり前のことだ」
伊織「……解けなかった問題を解けるようにするため?」
P「ああ。それはどの問題でも、いや勉強全般に言えることだ。もう一つ、わかるか?」
伊織は少し考えて、首を振った。
P「学校の先生の問題に慣れておくためだ」
297 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:35:09.74 ID:uuMCly6X0
伊織「……どういうこと?」
P「定期テストは模試とか入試と違って学校の先生が作るだろ?」
P「先生によって作る問題はだいぶ癖がある」
P「その傾向に慣れておくことが定期テストでは重要だ。本当は過去問でもあれば一番なんだが、あいにくここは塾じゃないからないしな」
過去問によるテスト対策はかなり重要だ。
テストによってはそれで10点20点の差が出たりする。
学校の先生が問題を作る際、どうしてもその先生なりの重要ポイントであったり絶対に組み込んでくる問題があったりするためだ。
極端な話、去年の問題の数字を変えただけのほぼ同じテストが使われることもある。
298 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:35:40.23 ID:uuMCly6X0
P「その二つだ。まあ一番重要なのは一つ目だな」
P「前回解けなかった問題は確認しておかない限り二回目も解けない」
P「『これ前回も出た問題だ!』ってわかってるのに解けないなんて嫌だろ?」
伊織「……そうね」
P「はい、じゃあ解き直し。わかんないところは解説するから言ってくれ」
伊織「じゃあまずここ」
P「因数分解か……しかも、結構難しいやつだな。方べきの順って知ってるか?」
伊織「聞いたことないわ」
P「そっか、まあ中学校ではやらないかもな。でも覚えておくと便利だぞ」
……
299 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:36:06.39 ID:uuMCly6X0
P「こんなとこか」
伊織「もう一回?」
P「今はいい。その代わりもう一枚真っ白なやつやっとくから、明日にでももう一回解いてみろ」
伊織「わかった」
P「次は理科な」
……
300 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:36:58.49 ID:uuMCly6X0
理科の中間テストの解き直し、解説を終えると時間は夕方5時になっていた。
伊織「……ふぅ」
P「いったん休憩。俺もそろそろ迎えに出なきゃならんし」
伊織「アンタ、戻るのは何時になるの?」
P「たぶん夜だな。8時か……遅ければ9時だな」
伊織「わかったわ」
P「あ、あとテスト勉強で絶対やらなきゃないことは?」
伊織「学校のワークでしょ。覚えてるわよ」
P「ならいい。とにかく基本的には学校のワークから問題が出されるからな」
301 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:37:28.47 ID:uuMCly6X0
P「適度に休憩入れてやれよ」
伊織「うん」
P「じゃ……あ、そうだこれ」
包みを伊織に渡す。
伊織「なにこれ?」
P「春香からだ」
P「フィなんとかってお菓子らしい。フィ……」
伊織「フィナンシェかしら?」
P「ああ、たぶんそれだ」
302 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:37:56.97 ID:uuMCly6X0
伊織「……」
包みには付箋がついている。
『伊織、ファイトだよ、ファイト!勉強の休憩中にでも食べてね!春香』
伊織「……ふふっ」
P「あとでお礼言っとけよ」
伊織「わかってる」
伊織「……わかってるわ」
303 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:38:24.63 ID:uuMCly6X0
コンコン
高木「ん、誰かな?どうぞ」
伊織「失礼します」
高木「おお、水瀬君か!どうだね、調子は?」
伊織「……まずまずです」
304 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:38:50.82 ID:uuMCly6X0
高木「うむ、そうか。あまり無理はしないようにね」
伊織「はい」
伊織「それで、その、ちょっと相談があるんですけど」
高木「……聞こうか。掛けてくれたまえ」
305 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/06/30(日) 00:39:18.13 ID:uuMCly6X0
つづく
308 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:26:29.04 ID:ih5fHquU0
伊織「ええ!?技能科目のほうも勉強するの!?」
P「当たり前だ!主要五教科より軽く見てるやつが多いが、同じ価値のある内申がつくんだぞ!?」
P「特に保健なんてこの前評定3だったんだからやるに決まってるだろ!」
伊織「ぐ……!」
309 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:27:01.66 ID:ih5fHquU0
……
やよい「伊織ちゃん、調子はどう?」
伊織「……鬼軍曹二人にしごかれてるわ」
P「伊織、終わったか!?」律子「伊織、歌詞覚えたでしょうね!?」
やよい「あ、はは……大変そうだねー……」
やよい「あ、これ伊織ちゃんのために作ってきたの!」
伊織「……おにぎり?渡す相手間違ってない?」
やよい「間違ってないよー!最近遅くまで勉強してるって言ってたから、お腹が空くかなーって!」
伊織「……ありがとう、やよい」
やよい「ううん、がんばってね!」
310 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:27:30.08 ID:ih5fHquU0
……
P「おーい、もう帰るぞー……」
伊織「あと1ページだけだから」
P「さっきもそう言ってなかったか?」
伊織「……」
P「はあ……じゃああと10分だけな」
311 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:28:30.74 ID:ih5fHquU0
……
P「おし、これで全範囲終了か」
伊織「あと三日はなにをすればいいかしら?」
P「そうだな……苦手なところと総合問題演習ってところか」
P「お前平方根と展開の混ざった計算とか苦手だろ?あそことか、あとは2次方程式の応用とか……」
伊織「……うぇ~……今度のライブの振り付けも覚えなきゃなんないのに~……」
312 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:28:57.46 ID:ih5fHquU0
……
P「まあ、がんばってこい。今回は全範囲きっちりやったし、吉報を期待している」
伊織「まあやれるだけやるわ」
P「うむ」
……
P「……」
小鳥「落ち着かないですね、プロデューサーさん?」
P「あ、い、いえそんなことは……!」
313 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:29:34.07 ID:ih5fHquU0
律子「今伊織は何の科目やってるんですかね?」
P「……たしか数学だと思う」
小鳥「ふふ、定期テストでこれなら、本番の入試だったらもう居ても立ってもいられないんじゃないですか?」
律子「まあそうでしょうね。プロデューサー殿は特に」
P「……ぬぅ」
314 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:30:38.31 ID:ih5fHquU0
……
P「明日で最終日だな」
伊織「英語は問題ないけど、理科と保健体育ね……」
P「まあ、今日だってテストがあったんだから疲れすぎないうちに切り上げるぞ。明日になって頭が働かなかったら元も子もない」
伊織「ええ」
315 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:34:57.70 ID:ih5fHquU0
……
あっ!
と言う間に期末テストも終わった。
伊織的には良くもなく悪くもなくといったところらしい。
今回はスケジュール自体はしっかりこなせたが、それで劇的に点数が変わるかと言ったら素直には肯定できない。
やはり三年生ともなると内容が難しくなっているし、テスト対策をしたとは言っても芸能活動の合間を見ながらなんとかこなしたと言ったところだからだ。
とりあえず今は素直に結果を待つ。
その間に――
P「失礼しまーす、765プロのものですがー」
伊織「……なに言ってんのよ」
316 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:38:57.65 ID:ih5fHquU0
伊織が体調を崩した。
今まで気力でカバーしていた分がここにきて一気に来たのかもしれない。
P「お、シャルル元気か?」
伊織の横にはいつものぬいぐるみが一緒に寝ていた。
伊織「アンタね……どっちの心配をしに来たの?」
P「そりゃもちろんみんなのアイドル伊織ちゃんに決まってるだろ」
伊織「どうだか……」
P「ほいお見舞い。765プロからな」
317 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:44:03.18 ID:ih5fHquU0
俺が持ってきたバスケットにはフルーツではなくオレンジジュースが大量に入っていた。
P「フルーツなんかはいいものいくらでも食べれるんじゃないかと思ってな」
P「事務所近くの自販機のパックのオレンジジュースだ。ほら、体に染み入る事務所の味だぞ」
伊織「……まったく、大げさなのよ」
P「はは、大げさか」
伊織「うん……」
P「……」
318 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:44:57.94 ID:ih5fHquU0
P「……あー、体調はどうだ?」
伊織「まあまあ」
P「俺も出先で知ったからあんまり詳しく聞いてないんだが、どうなったんだ?」
伊織「ちょっとめまいがして気持ち悪くなっただけよ」
ちょっと、か。
伊織の言うことは大体鵜呑みにしてはいけない。
強情を標準装備しているような奴だ。
弱いところは周囲に見せない。
伊織「もう良くなったから、心配ないわ」
319 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:45:23.73 ID:ih5fHquU0
伊織は多少の体調不良なら普通に仕事に来る。
他人に迷惑をかけることを嫌う。
いや…嫌うようになった。
昔は天上天下唯我独尊わがままワンダーガールだったくせに。
その伊織が休むということは、相当だったんだろう。
P「そうか」
伊織「ええ」
P「……」
伊織「……なによ」
P「べつに」
伊織「……ふん」
320 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:45:55.02 ID:ih5fHquU0
口には出さない。
「無理してるんじゃないのか?」「やっぱり受験と芸能活動の両立は難しいんじゃないか?」
言ったところで何も解決しないし、言い争いになるだけだ。
伊織が決めて始めたことだ。
俺はそのサポートを全力でするだけ。
去年一緒に活動していた時と同じだ。
P「まあ、なんだ……なんかあったら言ってくれよ」
伊織「……うん」
それぐらいしか、言えない。
321 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:46:22.11 ID:ih5fHquU0
伊織「……ところでアンタ」
P「うん?」
伊織「この子のほんとの名前、憶えてるわよね?」
隣に寝ているうさぎ(のぬいぐるみ)を撫でながらそんなことを言う。
P「覚えてるよ」
P「……ケン・コバヤシ」
布団から足が出てきて、左ひじのあたりを蹴られた。
322 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:46:57.10 ID:ih5fHquU0
P「冗談だ。うさちゃんだろ?」
伊織「ふん!最初から言いなさいよ、馬鹿」
普段伊織が言っているうさぎの名前シャルルは芸名みたいなものだ。
シャルル・ドナテルロ18世。
本名はうさちゃん。伊織が小さいころにつけた名前だ。
ただ小さいころにつけた単純な名前が恥ずかしいと思ったのか、少しずつ売れてきてからは対外的にシャルルと呼ぶようになっていた。
事務所で本名を知って言るのはたぶん俺だけ。
伊織「……忘れちゃったかと思ってたわ」
P「忘れるわけないだろ」
P「……よくわからんが俺が学校の先生と面談したりな」
伊織「ふふ、そんなこともあったかしら?」
P「ったく」
323 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:47:23.31 ID:ih5fHquU0
そう、伊織のわがままや破天荒ぶりには散々振り回されてきた。
だから今回の受験もなんてことはない……。
うさちゃんを撫でている伊織を見る。
調子はまあまあだと言った伊織。
ちょっとめまいがしただけといった伊織。
……芸能活動を始めて、ほぼ初めて体調不良で休んだ伊織。
伊織のわがままや破天荒ぶりには散々振り回されてきた。
しかし……。
今回ばかりはさすがに厳しいのではないだろうか?
伊織「?……どうしたの?」
P「……いや、なんでもないよ」
324 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:47:51.47 ID:ih5fHquU0
P「さて、ほんじゃ病人に気を使わせるのも悪いしそろそろ行くわ」
伊織「……」
P「なんだ、寂しいのか?」
伊織「……うん」
P「……」
固まってしまった。
P「……あ、あの……?」
伊織「……」
325 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/07/01(月) 20:48:50.74 ID:ih5fHquU0
伊織「ぷ」
P「!?」
伊織「ぷ、あははははは!」
伊織「なにあほ面して固まってんのよ!」
P「く……!」
伊織「冗談よ、冗談!たまにはこんなパターンもいいでしょ?にひひっ」
P「ぐぬぬ……」
伊織「ふふふ、ちょっと元気でたわ」
伊織「……ありがとね」
P「……お役にたてて光栄ですよ」
326 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:50:17.84 ID:ih5fHquU0
P「ゆっくり休めよ」
伊織「うん」
伊織の部屋を出る。
最後に隙間から見えた伊織は、笑顔で手を振っていた。
広い廊下を玄関に向かいながら考える。
今俺が伊織に対してできることはなんだろうか?
車を運転して事務所に着くころには、ある一つの考えが固まっていた。
327 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:50:53.47 ID:ih5fHquU0
……
小さな音を立てて扉が閉まった。
伊織は振っていた手をおろし、しばらくしてから起こしていた上体を横にした。
天井を見上げる。
寂しくは、ないわプロデューサー。
小さく口の中でつぶやく。
少しだけ上体を起こし、ベッド横のチェストの一番上の抽斗を開ける。
チェストの上には先ほどプロデューサーが持ってきたオレンジジュースのバスケットがあった。
328 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:51:45.75 ID:ih5fHquU0
抽斗から白い錠剤のシートを取り出す。
2錠ほど取り出すとそのまま口に含む。
そこでオレンジジュースがあることを思い出し、包装を破って一本取り出した。
横についているストローを取り出し、パックにさす。
一口飲む。
錠剤を飲み下すと伊織は再び横になった。
2、3分ほど横になっていたが、手探りでシーリングライトのスイッチを手に取ると室内の明かりを消した。
室内が暗くなる。
やがて伊織はゆっくりとベッドから這い出した。
329 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:52:23.33 ID:ih5fHquU0
……
P「戻りましたー」
律子「あ、お疲れさまです」
P「まだいたのか」
律子「ええ、スケジュール調整が思ったようにいかなくて」
律子「あ、伊織どうでした?」
P「んー、比較的元気だったかな」
330 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/01(月) 20:52:50.62 ID:ih5fHquU0
律子「明日からはスケジュール組んでも大丈夫そうでした?プロデューサー殿の見立てでは」
P「おそらく。そう何日も休むようなやつじゃないし」
P「多少減らすとか午後からにするとか保険は掛けといたほうが無難だとは思うが」
律子「そうですか。参考にします」
P「……あのさ」
律子「はい?」
P「少し相談があるんだが……」
つづく
334 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 21:56:11.28 ID:pWBa3W/z0
P「戻りましたー」
律子「あ、おかえりなさい」
夜八時半。事務所に戻る。
亜美「あ!兄ちゃんだ!お疲れちゃーん!」
あずさ「おつかれさまです~」
P「おつかれさまです。竜宮がそろってるなんて珍しいですね」
あいさつをしつつ鞄を下ろす。
336 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:17:09.49 ID:pWBa3W/z0
律子「そうですかね?あ、そうそう」
律子「竜宮のリーダーが呼んでるみたいですよ?」
机の上には一枚の付箋が張ってあった。
『質問あり!戻ったら三秒以内に伊織ちゃんのところまで来ること! 伊織』
P「へぁ……」
あずさ「うふふ、大変ですね~、プロデューサーさんも」
P「まあテスト前なんでしょうがないですけどね」
337 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:17:53.31 ID:pWBa3W/z0
亜美「っていうかこの前もテストあったのにいおりんまたテスト受けるの?」
P「三年生になればそうなるんだよ。お前も覚悟しとけよ?」
律子「その時は私がみっちりしごいてあげるから、心配しないで亜美」
亜美「う……りっちゃん軍曹の顔が怖いよー……」
あずさ「あらあら~学生さんは大変ね~」
あずさ「……」
あずさ「……学生時代か……」
P(……律子、あずささんが遠い目をしてるぞ)
律子(今話しかけると引き込まれますよ)
338 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:18:23.41 ID:pWBa3W/z0
P(引き……?)
亜美(前うっかり『あずさお姉ちゃんの学生時代ってどんなんだったの?』って聞いたとき、すごかったもんねー。すごいってか、長い!)
P(……)
10月。
残暑も過ぎ去り過ごしやすくなってきたころ。
伊織は重要なテストを控えて勉強中だった。
339 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:19:00.23 ID:pWBa3W/z0
前回の定期テストが終わると、すぐに夏に受けた模試の結果が返却されてきた。
都立小出高等学校 合格判定 『B』
伊織「このBっていいの?」
P「一応合格率は60~70%ってところだな」
伊織「ふーん」
P「まあ今の段階だとあまり参考にはならん」
P「内申だってまだ決定していないしな」
340 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:20:23.89 ID:pWBa3W/z0
夏あたりの模試の判定はおおよその基準にしかならない。
内申も決定していないし、まだほかの生徒だって本格的に勉強を始めたばかりだ。
前にも少しだけ話したが、成績が伸びてくるのはこの後10月から11月あたり。
伊織はその時に周りのやつらの成績について行かなければならない。
P「……ま、現段階でB判定ってのはなかなか悪くないんじゃないか?」
……
続いて定期テストが返却されてくる。
伊織「……なんか普通だったわ」
英語97点。国語88点。社会79点。理科77点。
この辺りはさして変わらなかった。
341 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:21:00.47 ID:pWBa3W/z0
ただ前回64点とやらかした数学が、今回は
79点。
P「ぴよっしゃああああああああああああああ!!」
伊織「うるさい」
蹴られた。
P「やったジャン!さすが俺の伊織!」
伊織「誰がアンタのよ!」
伊織「第一、一年生のときとかは90点台だったのよ。まだまだじゃない」
P「いや、三年生の内容でこの点数はいい方だろう。特に前回と比べたらな」
伊織「……ふん」
ちょっとうれしそうだった。
342 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:21:46.47 ID:pWBa3W/z0
P「ということでテストが引き続き返って来たわけだが、一息つく間もなく次のテストがあるわけだ」
伊織「えー……」
伊織「そうなの?」
P「うむ、そして次のテストこそ本当に勝負のテストになる」
P「……約束!」
伊織「だからうるさい。急に大声出すのやめなさいよ」
343 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:22:19.09 ID:pWBa3W/z0
P「今から俺が言うことを聞いても、殴らない、蹴らない、罵らないことを約束しますか?」
伊織「は?」
P「約束しますか!?」
伊織「……たぶん」
P「うむ、実は今までに受けた前期の中間と期末のテストなんだが――」
P「実は入試の時に考慮される評定には関係ない」
伊織「……」
伊織「よくわかんない」
俺は伊織に説明した。
344 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:24:44.05 ID:pWBa3W/z0
入試。正式には高等学校入学者選抜試験だが、この時に考慮されるのは大きく分けると3つ。
内申、学力検査、そして面接。
学力検査と面接は入試日当日に判定されるものだが、内申は学校の成績で決まる。
つまり学力検査は当日の学力を、内申は3年間の勉強の成績を見るわけだ。
しかし、3年間の成績とは言っても3年間すべての成績が考慮されるわけではない。
入試で考慮されるのはその中の一部のみ。
伊織の受ける小出高校の場合『2年生の後期』と『3年生の後期』の二つだけだ。
成績がつく科目は全部で9教科ある。
それをもしオール5を取ったと仮定すると5×9なので45点満点。
さらに『3年生の後期』の成績はさらに2倍して評価される。
つまり2年生後期分=45点、三年生後期分=45点×2=90点
両方合わせて135点満点で評価されるわけだ。
345 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:26:01.53 ID:pWBa3W/z0
ちなみに学習外活動評価という評価対象もあり、例えば『生徒会長を務めていた』なら3点、『部活動で部長を務めていた』なら2点、『英語検定3級以上を持っている』なら1点など学習外での活動も吟味される。
P「――ただし、すべてが加点されるのではなくその中で点数の高い1項目だけが加点される」
P「つまり『生徒会長』で『部長』だった場合、『3+2で5点』じゃなく、高い方の『生徒会長だから3点』しかプラスされないわけだ」
ここまでホワイトボードを使いながら説明する。
P「まあこれも地域や学校によって違うからな。少なくとも小出高校はこんな感じだ」
伊織「私、生徒会に所属してるわよ。点数になるかしら?」
P「え?それは知らんかった」
伊織「にひひっ、伊織ちゃんのことを何でも知ってるなんて思わないことね。100万年早いわよ」
346 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:26:51.92 ID:pWBa3W/z0
P「……他に質問は?」
伊織「……あ、3年生の後期の成績って言ってたけど」
P「ああ」
伊織「3年生の後期の成績なんて出るの2月とかじゃない。入試終わってるわよ?」
P「そこで、冒頭の次回のテストが重要って話に戻るわけだ」
P「……実は三年生の後期の成績は次の『後期中間テスト』のみで決まる」
そう、後期の評定は受験に関係するものなので早く評定を決めなければならない。
よって、次の後期中間テストの成績でもう後期の評定を決定するということになっている。
いわゆる『仮内申』というやつだ。
ちなみに早く成績を出さなければいけないため、前期期末テストが終わって一か月後にはもう後期中間テストが行われるという強行スケジュールとなるのが一般的だ。
347 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:28:15.94 ID:pWBa3W/z0
P「だから次のテストは死ぬほど重要なのさ。なんてったって2倍されて考えられる評定を決めるテストで、しかも一発勝負だからな」
伊織「なるほどね」
伊織「……ねえ」
P「ん?」
伊織「今の話で何が怒るところがあるの?」
P「いや『前期の成績が関係ないんだったらもっと手を抜いても良かったじゃない!もっと早く言いなさいよ!』って言うかと思ってな」
伊織「アンタね……」
P「余計な心配だったか」
伊織「私だってそのくらいわかるわよ!」
348 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:28:54.52 ID:pWBa3W/z0
伊織「次のテストで成績が決まるったって、まともな先生だったら今までの成績とか前期の点数とかも踏まえつつ評価するでしょ?」
P「……その通り」
いくら後期のテストだけずば抜けて良くても、前期の成績がいまいちだと評価は上がらないものだ。
教員側としては「今回のテストだけがんばったんだな」とか「前回は手を抜いていたのか?」と考える人もいるからだ。
P「そういやテストも帰って来たし、そろそろ前期の評定が出ると思うが」
P「低くても、あまり落ち込むなよ」
伊織「はあ?アンタね、出てもいないうちから……」
P「いや、フォローするわけじゃなくてだな」
349 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:29:28.99 ID:pWBa3W/z0
P「結構、前期の成績は辛めにつける先生が多いんだ」
伊織「……どういうこと?」
P「『もっと頑張らないとだめだぞ!』という意味で前期は厳しくつける先生も多いんだよ」
P「まあ発破かけだな」
伊織「ふーん」
P「実際に成績が出てからこのこと言ったら『なによ!下手な慰めなんていらないわよ!』って言われるかもしれないから今のうちに言っておく」
伊織「はいはい」
350 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:29:58.31 ID:pWBa3W/z0
P「ま、知っておくべき情報はこんなところだ」
P「はい、今の話からわかったことは!?」
伊織「今度のテストが重要」
P「そのためにどうするの!?」
伊織「がんばる」
P「……もうちょっと言い方が」
伊織「じゃあ、めっちゃがんばる」
P「……」
351 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:30:50.90 ID:pWBa3W/z0
後日、前期の評定が発表されたが2年生の後期とまったく変化はなかった。
中間がいまいちだったことを考えるとまあ悪くはないだろう。
3年生前期内申
国語…5 技術家庭科…4
数学…4 保健体育…3
英語…5 美術…5
理科…4 音楽…5
社会…4
計 39
352 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:31:23.79 ID:pWBa3W/z0
亜美「うぇ~……」
律子「亜美もがんばらないとねー」
大体の話を聞かせると亜美はソファに仰向けになって、伸びてしまった。
あずさ「努力……青春……懐かしいわ~……」
P「……」
P「まあ、竜宮のみんなには迷惑をかけるが、伊織も大変なんだ」
P「すまんな、仕事調整してもらって」
353 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:32:24.34 ID:pWBa3W/z0
テスト前だということもあり、俺は律子に頼んで伊織の仕事を減らしてもらっていた。
ちなみに伊織には話していない。
まあいずれはばれるだろうがその時はその時だ。
律子「いえ」
P「あ、そうそうそのことで……」
口を開いたところで会議室のドアが勢いよく開いた。
伊織「ちょっと!!」
怒っていた。
伊織「アンタねえ!戻ってるなら早く来なさいよ!!」
P「悪い悪い」
伊織「質問いっぱいあるんだから!帰れなくなっちゃうじゃない!」
P「……へーへー」
354 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:32:51.24 ID:pWBa3W/z0
伊織「とっとと……!あ」
俺の腕をつかんで引っ張っていこうとしていた伊織の動きが止まる。
伊織「……アンタ、先会議室に行ってて」
P「え?」
伊織「いいから!聞きたいのは机の上にあるプリントの印のついてるところだから!」
P「あ、ああ……」
追い立てられるように背中を押された。
やれやれ、律子に少し話を聞こうとしていたのに。
355 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:33:22.32 ID:pWBa3W/z0
最近……いや、伊織が一度体調を崩したあたりからだろうか。
どうにも本調子ではない気がしていた。
そのことについていつも仕事を一緒にしている竜宮のメンバーにも話を聞きたかったのだが……。
356 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:33:51.30 ID:pWBa3W/z0
伊織「……あの」
亜美「い~おりん!調子はどうなの?」
伊織「うん……まあまあ」
亜美「ダミですなぁー。そこは『ぼちぼちでんな』って返さないと!」
あずさ「そうだわ~、みんなでこれ買ってきたのよ~」
伊織「なに、これ?」
357 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:34:50.66 ID:pWBa3W/z0
あずさ「差し入れよ~。冷えぴたと~……」
律子「パワフルミン3000と」
亜美「眠気覚ましにぴったり!スーパーシゲキックスDXα!!」
伊織「あ、ありがとう……」
律子「でも、あまり無理しないようにね。体調は大丈夫なの?」
伊織「うん、平気……」
伊織「……ごめんね、みんな。私のわがままで……くぎゅ!?」
あずさ「うふふ、そういうことは言いっこなしよ~」
亜美「あ~!亜美も!亜美もいおりんのことぎゅってするのー!」
358 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:35:42.27 ID:pWBa3W/z0
伊織「ぅ……あずさ、くる……!」
あずさ「……がんばってね、伊織ちゃん」
伊織「あずさ……」
亜美「そうだよ、いおりん!」
亜美「亜美なんか真似できないよー!勉強なんて10分で限界だし!」
律子「亜美……」
律子「おほん、まあ心配しないで」
伊織「……」
律子「伊織は自分のやるべきことをしっかりやりなさい。私たちを信じて」
律子「仲間なんだから」
359 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:36:13.76 ID:pWBa3W/z0
あずさ「うふふ、そうよ~伊織ちゃん」
伊織「……」
亜美「そうそう!そしてスーパーいおりんになって亜美にべんきょー教えてね!簡単に点数が取れるやり方!」
伊織「……うん」
伊織「……私、絶対に合格するから」
360 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/03(水) 22:36:57.04 ID:pWBa3W/z0
その後、テストまで伊織はみっちり勉強をした。
そしてテスト終了後。
伊織の芸能活動休止が発表された。
つづく
362 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/07/04(木) 00:35:31.18 ID:rwxbksPMo
おつ
芸能活動休止しちゃうのかー
何があったんやろね
366 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/07(日) 23:31:05.83 ID:hD97+PWQ0
P「じゃあこの前の岩石のつくりの復習。まず火山活動でできる岩石を何という?」
伊織「火成岩」
P「火成岩は大きく分けると二種類あったな」
伊織「えーと、深成岩と……火山岩?」
P「正解。じゃあ火山岩の代表例三つ」
伊織「えーと……りかちゃんあせってだから……」
伊織が空中で何かを書くように手を動かす。
先日教えた暗記表を描いているのだろう。
367 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/07(日) 23:33:07.15 ID:hD97+PWQ0
伊織「流紋岩と……玄武岩と……」
伊織「……うー」
俺は何も言わずに伊織の答えを待つ。
伊織「『あ』で始まるやつでしょ?」
P「そう。もう着いちまうぞ」
伊織「あ、あ……あー!」
水瀬邸の門前を通り過ぎ、ひらけたところでUターンをする。
門の真ん前で車を止め、ハザードを出した。
P「はい時間切れ。正解は安山岩」
伊織「あーそうだわ……くっ」
P「ほい、じゃあお疲れさん」
失態だわ、とつぶやき伊織は足元のバッグを抱える。
368 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/07(日) 23:33:51.05 ID:hD97+PWQ0
伊織「じゃあ、明日も学校終わったら行くから」
P「ああ。俺はたぶんいないが、指示があったら机の上に残しておく」
伊織「わかった。じゃあありがとね」
P「ゆっくり休め。最近顔色がよくない気がする」
伊織「わかってるわ」
伊織が助手席から降りていく。
P「おやすみ」
伊織「……おやすみなさい」
ハザードを消した後、ウインカーを出しギアを入れる。
後方を確認した後、ゆっくりアクセルを踏み込んだ。
サイドミラーには伊織が映っていた。
369 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/07(日) 23:35:05.90 ID:hD97+PWQ0
伊織を仕事終わりに送るようになって2週間。
言い出したのは伊織だった。
伊織『帰り、車の中でも勉強するから送ってって』
伊織『いいじゃない。アンタが帰るまで勉強するって決めたのよ』
伊織『それに間違えそうなところとか覚えてなさそうなところとかアンタの方が把握してると思うし』
伊織『とにかく!アンタは私のことを送ってくれればいいの!』
強引に送り役として抜擢された。
大きな変化は他にもあった。
伊織は今、芸能活動を休止中だった。
370 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/07(日) 23:35:49.86 ID:hD97+PWQ0
話はしばらく前にさかのぼる。
伊織が体調を崩して、俺が見舞いに行ったその帰り。
俺は伊織の今後について相談するために事務所に戻った。
P『……あのさ』
律子『はい?』
P『少し相談があるんだが……』
律子『伊織のことですか?』
P『ああ』
371 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/07(日) 23:37:31.83 ID:hD97+PWQ0
律子『……やっぱり、悪そうでした?』
P『いや、おそらく大丈夫だろう』
P『ただ「今回は」だが』
律子『……』
P『なあ、俺は仕事先でのことはわからないんだが現場ではどうなんだ?』
律子『そうですね……』
律子『前置きしておくと、私も伊織のことは注意して見てますよ?』
P『……』
律子『その上で言うと』
律子『……正直、いつも通りですね。以前と同じです』
P『そうか……』
俺は大きく息を吐く。
律子は腕組みしながらこちらを見ていた。
372 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/08(月) 00:08:43.92 ID:o/NxUuXd0
律子『まあ、合間合間の空き時間にハンドブックを見ていたりテキスト開いていたりって変化はありますけど』
律子『プロデューサー殿が気にしてるのはそういう変化じゃないでしょう?』
P『ん……そうだな』
律子『何か気になることが?』
P『……』
自分の中で考えていることを整理する。なるべく律子の理解を得られるように。
P『今回のことに関してだが、今後のことをしっかり考えるいい機会かもしれない』
律子『いい機会……?』
P『ああ』
373 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/08(月) 00:12:34.61 ID:o/NxUuXd0
P『いつも一緒に活動している律子たちにも伊織の変化は気づかなかったんだろ?』
律子『……はい。面目ないですが』
P『ってことはこの先もなんの予兆もなく伊織が体調を崩す可能性があるってことだ』
P『それはどう考えてもまずいだろ』
律子『そうですね……』
P『だから今後の伊織のスケジュールを見直すいい機会ってことだ』
P『まずどうして今回のような事態になったか。考えられる理由は二つ』
P『一つは伊織自身も気づかないうちに、疲れやストレスが溜まっていた可能性』
374 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/08(月) 00:14:13.62 ID:o/NxUuXd0
芸能活動をしてると体調が万全なんてことはほぼない。
なんとか折り合いをつけてうまくこなしているのが現状だ。
一流のアイドルはそういう体調管理なども含めて一流ということだ。
伊織はそういう技術を一年目にしっかり身につけているはずだ。
俺との活動中も、最後の方はしっかり体調管理できていたように思う。
ただ、心の負担に関してはそう簡単なものではない。
俺もプロデュースを始めたころに社長に言われたものだ。
「ストレスというものは自分でも気づかないうちに溜まっているからストレスと言うんだよ」と。
P『二つ目は、単純に無理をしていたのを隠していた可能性だ』
P『……なあ律子。あいつ、トップアイドルと呼ばれるようになってから以前とは変わったと思わないか?』
律子『どの点でですか?』
P『以前はわがままで振り回されることが多かったが、自分が事務所の中でも重要なポジションにいると自覚してから……なんつーかな』
P『……自己犠牲、って言ったら言い過ぎかもしれんが』
P『自分のことは後回しにする傾向が強くなった』
律子『……』
375 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/08(月) 00:15:52.63 ID:o/NxUuXd0
P『まあ成長したってことで喜ばしくもあるが、度を過ぎると褒められたもんじゃない』
P『竜宮のリーダーになってからさらに責任感も増しているみたいだしな』
P『その状態で今は受験を控えて勉強してるわけだ』
P『伊織の頭の中で何が起きているかは俺もわからん』
P『ただ、いろんな要素によって自分を削ってでも勉強しなければならない状態にあるのかもしれない』
律子『プロデューサー殿にも……わからないですか?』
P『……なんとなくだが』
P『ただ父親を見返したいからとか、受験すると言ってしまって取り返しがつかないからとかそんな理由ではない気がする』
P『……ほぼ勘に近いがな』
律子『……わかりました。私も私なりに考えてみます』
376 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/08(月) 00:17:36.11 ID:o/NxUuXd0
律子『ただ、その前に具体的な対策は打たなければなりません』
律子『……今日来たのもそのことでしょう?』
P『有能だな、プロデューサー』
律子『そういうのいいですから。 ……正直、プロデューサー殿はどうしたらいいと考えてるんですか?』
P『……この先のことも考えると、仕事は減らすべきだと思う』
伊織には一度言ったことがあるがこの先周囲の生徒の成績が伸びてくる。
しかし現状では、伊織はそれに対抗するための勉強時間が確保できないのだ。
周りに追いつかれてきている焦り、それでも勉強時間が取れない不安、そして仕事。
それは伊織にとってはさらなる負担となるはずだ。
律子『……そうですか』
377 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/08(月) 00:19:45.75 ID:o/NxUuXd0
最初から仕事を減らすことは考えていた。
しかし伊織ならばもしかして、と言う気持ちもあって今までは行動していなかった。
そうして様子を見ていたら今回伊織が体調を崩したわけだ。
完全に後手に回ってしまった。
ただ、今回のことでこのままではいけないことが確実となった。
律子や社長、そして一番手ごわい伊織を説得するのは今のタイミングしかない。
律子や社長はともかく……
『……冗談じゃないわ!それじゃ結局お父様が言った通りにするのと同じじゃない!!絶対休みなんかしないんだから!!』
伊織の顔が浮かぶ。
説得するのは……まあ俺だろう。
378 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/08(月) 00:20:14.78 ID:o/NxUuXd0
律子『わかりました』
P『……うん?』
律子『伊織の仕事は調整します。急には無理ですが、徐々に減らしていく方向でいいですか?』
P『いけるのか?』
律子『おそらく』
律子『……私だって何も考えてないわけじゃないですよ』
P『あ、そ、そうか』
いやにあっさり。
もう少し難航するものかと思っていたが。
379 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/08(月) 00:20:52.25 ID:o/NxUuXd0
P『じゃあ伊織の方には俺が……』
律子『いえ、私の方でやります。社長にも話を通しておきますので』
P『そうか?』
律子『……ふぅ。あなたは他の子たちのプロデュースもあるんですから』
律子『伊織のことを考えすぎて今度はプロデューサー殿が、なんてことはないようにお願いしますよ?』
P『あ、ああ』
律子『じゃあそういうことで』
P『ああ。悪いが頼んだ』
律子『いいえー』
380 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/08(月) 00:22:11.56 ID:o/NxUuXd0
律子『……』
律子『……やっぱりこうなりましたか』
律子『すごいですね、プロデューサー殿は……』
律子『ううん、プロデューサーたちは、か……』
381 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/08(月) 00:24:16.90 ID:o/NxUuXd0
その後はスムーズに話が進んだ。
後期中間テストの前には仕事が半分くらいになり、テスト中はなし。
テスト空けは多少仕事をしたが、一週間後くらいには正式に活動休止が各所に通達された。
来年の2月、受験終了まで。
トントン拍子に話が進んで正直少しだけ違和感を感じていた。
一番意外だったのは伊織が何も言ってこないことだ。
律子がうまく話したのか。
少なくともそのことで俺に抗議が来ることはなかった。
十月も終わり、十一月になろうとしている。
入試本番まであと三か月と半月。
382 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/08(月) 00:25:43.74 ID:o/NxUuXd0
芸能活動を控えて負担は減ったはずだが、伊織の様子に変化はなかった。
相変わらず調子の悪そうな日の方が多い。
仕事でも負担が減れば改善されるかと思っていたが、どうやらそういうことでもないらしい。
伊織は表面上はしっかりしているし、聞いても特に何も話さない。
俺の思い違いだと言われればそうなのだろう。
しかし、どうもすっきりしない。
やはりプレッシャーを感じているのだろうか?
単純に見守っていればいい一過性の変化だろうか?
それとも仕事がなくなったことで逆にリズムがつかめないのだろうか?
もうしばらくすれば安定してくるのだろうか?
最近いつも考えている。
が、答えは出ない。
結局、受験とはこういうものとも戦わなければならないものだったことを俺は思い出していた。
つづく
387 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:13:47.41 ID:2GAwufDw0
11月初め。
いい知らせと悪い知らせが一つずつあった。
いい知らせの方は、伊織の後期の仮内申が出たこと。
これでついに内申が決定したわけだ。
伊織「どう?」
久々に伊織の自信に満ちた顔を見た。
P「むむむ……さすがとしか言いようがないな」
伊織「ふふん、やっぱり私は天才ね」
388 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:14:29.08 ID:2GAwufDw0
三年生後期仮内申
国語…5 技術家庭科…5
数学…5 保健体育…4
英語…5 美術…5
理科…5 音楽…5
社会…5
計 44
ちなみに二年生の前期は
国語…5 技術家庭科…4
数学…4 保健体育…3
英語…5 美術…5
理科…4 音楽…5
社会…4
計 39
389 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:15:23.97 ID:2GAwufDw0
つまり44×2+39=127
これが伊織の最終内申だ。
伊織「ふふ、これじゃ合格は決まったようなものね」
P「調子のんな」
伊織「わかってますよーだ」
最近あまりなかったが、珍しく軽口も言う。
しかし俺も久々に気分が上がっていた。
135点満点中の127点とは恐れ入る。
まあ受験に関係する内申だから教師側で多少色を付けたというのもあるだろう。
それを考えてもやはりすごいと思う。
しかし、ここで気を引き締めさせるのが俺の役目。
390 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:16:16.29 ID:2GAwufDw0
P「まあ内申に関してはよくやったな」
P「でもほんとに油断できないぞ」
P「例えば伊織より内申が低い……そうだな、117。伊織より10内申が低い子がいたとするだろ?」
伊織「うん」
P「その子が伊織を逆転するには何点分伊織より点を取ればいいと思う?」
伊織「さあ?100点ぐらい?」
P「40点だ」
伊織「40点……」
P「ああ。つまり一教科8点ずつ負けてればそれで伊織とその子は同じ点数になるってことだ」
391 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:17:21.78 ID:2GAwufDw0
最近は受験の点数を重視して合格判定する高校が増えてきている。
入試の点数と内申、そして面接の考慮割合は各高校によって決まっているが、伊織の受ける小出高校の場合『入試:内申:面接=5:3:2』となっている。
ちなみに面接の割合も最近変わった受験制度のおかげで(せいで?)最低2割は考慮しなければならなくなっている。
それの影響もあり入試:内申で見ると入試の点数が内申より1.5倍程度の価値を持つようになっている。
つまり、
P「……最近の傾向として、入試での逆転劇が起こりやすいってことだ」
P「それに小出高校の去年の合格者平均の内申は124.4」
偏差値67は伊達じゃないと言ったところか。
P「伊織の内申は127だから、決して楽勝な勝負じゃないからな」
伊織「ふーん」
P「だから油断するなよ」
392 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:18:08.09 ID:2GAwufDw0
伊織「アンタの知ってる伊織ちゃんは、そんなにツメの甘い子なのかしら?」
回想。
P「……確かライブ後、ステージからはけるときに大こけしたことが……」
伊織「うっさい!」
……
393 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:18:49.09 ID:2GAwufDw0
内申が出てから数日後。
以前に受けた模試の結果が返却されてきた。
P「な?」
伊織「……」
P「油断大敵」
伊織の合格判定は『C』だった。前回は『B』。
まあ正直なところこの判定はそんなにあてにはならない。
内申については2年の後期の分しか判断材料に入ってないからだ。
おそらく最新の内申も考慮すれば判定は上がるだろうが、あえて言わなかった。
ある程度の危機感は持っていた方がいい。
394 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:19:45.15 ID:2GAwufDw0
伊織「……前と点数はそんなに変わってないのに」
意外と冷静だった。
以前なら『なんで点数が変わってないのに判定が落ちてるの!?おかしいわよ!?』と騒いでいるだろう。
P「周りの点数が徐々に上がってきてるってことだ」
伊織「……そうね」
P「ま、伊織も活動休止中だしこれからだな」
言ってからぎくりとしたが、幸い伊織が特に何も言ってくることはなかった。
未だに俺に対してそのことでは何も言ってこない。
伊織「次の模試はいつだっけ?」
P「あー……再来週の日曜だな」
伊織「その時にリベンジしてやるんだから、見てなさい」
P「そうだな」
395 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:20:41.16 ID:2GAwufDw0
伊織は毎月模試を受けている。
以前俺が仕事をしていた塾の外部生として模試だけ受けているのだ。
この時期の受験生は毎月のように模試がある。
それに塾に通っている生徒は、土日は文字通り朝から晩まで勉強漬けだ。
夏ごろから行っている全学年の総復習も大体ひと段落し、今の時期は難易度の高い単元の再復習と、入試形式の総合問題をがりがり解いている時期だ。
この段階でまた心が折れる生徒も出てくる。
ちなみに伊織はまだ1、2年生の復習を行っている段階だ。
平日は学校が終わり次第事務所に来て俺が帰るまで勉強。
これはもうほとんど習慣化した。
帰りの車の中での一問一答が追加されたくらいだ。
土日も朝から事務所で勉強。
俺も仕事の合間を縫って問題を解説したり、プリントを作ったりしているがほとんどは一人で勉強している。
396 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:21:51.38 ID:2GAwufDw0
ちなみに、以前事務所に帰ってくると同時に音無さんが泣きついてきたことがあった。
小鳥『ぷ、ぷろでゅーさーさ~ん……』
P『は?な、どうしたんですか?』
小鳥『わ、わたし社会人失格かもしれません~』
伊織『こ、小鳥、私が悪かったから……』
小鳥『謝らないで~!』
どうやらどうしても納得いかないことがあって、俺が戻るまで待てなかったらしい。
それで、事務所にいた音無さんに質問したら
P『お、おれだって専門教科以外は答えられないですし……』
小鳥『……しくしく』
答えられなかったらしい。
397 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:22:32.17 ID:2GAwufDw0
他にも
雪歩「伊織ちゃん、お茶どうぞ」
真「伊織ー、見て見て!うカルビーってのかあったから買ってきたよ!……な、なんだよその顔!」
響「いっおりー!脳の活動にはブドウ糖がいいって聞いたから買ってきたぞー!」
貴音「受験生応援らーめんと言うのがあったので買ってきました」
そんなこともありつつ、新しいリズムで伊織の勉強生活は進んでいた。
P「とりあえず近いところの目標は次の模試。それと11月中には全範囲復習終わらせるぞ」
伊織「わかった」
……
398 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:23:04.78 ID:2GAwufDw0
P「じゃあな」
伊織「ええ」
P「……伊織」
伊織「『ちゃんと休め』でしょ?わかってるわよ」
P「……ならいい。今日も夕方ぐらいからぶっ続けでやってたんだからな」
伊織「大丈夫よ。すぐに休むから」
伊織「おつかれさま」
P「……ああ。おやすみ」
――――
399 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:23:49.41 ID:2GAwufDw0
―水瀬邸
伊織「今日も合間に少し寝ちゃったわ」
新堂「……そうでございますか」
伊織「だからいつものやつ、お願いね」
新堂「かしこまりました」
新堂「……」
新堂「……お嬢様、差し出がましいとは思いますが」
伊織「このやり取りも定番になってきたわね」
400 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/10(水) 20:24:23.11 ID:2GAwufDw0
新堂「それでもあえて言わせていただきます……どうかご自愛ください」
伊織「ありがとう。でも、大丈夫よ」
新堂「……左様でございますか」
伊織「ええ。自分の体のことくらい、わかってるから」
新堂「……かしこまりました。それではお夜食の方はすぐお持ちいたしますので」
つづく
404 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:19:26.08 ID:CES/Yeij0
AD「はーいオッケーでーす!」
雪歩「ありがとうございましたぁ」
都内スタジオ。雪歩のイメージ写真撮影が終わった。
P「お疲れさん。立派にポーズ取れるようになったな」
雪歩「えへへ、慣れてきました!あ、ちょ、ちょっとはですけど……」
関係者にあいさつを済ませたあと、次の現場に移動するため地下駐車場に向かう。
雪歩とともに車に乗り込み、スタジオを出た。
405 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:20:55.05 ID:CES/Yeij0
P「やっぱり冬っていうと雪歩って感じがするな」
雪歩「そうですか?」
P「ああ、イメージ的に」
P「それに『秋は夜を目一杯乗り越え 冬は雪歩目一杯抱きしめ』って……」
雪歩「はい?」
P「……いやなんでもない」
雪歩「もうすぐ今年も終わっちゃいますねぇ」
P「そうだな。雪歩は今年アイドルランクが2つも上がったし、もうトップが見えてきたな」
雪歩「わ、私なんかまだまだですよ……」
406 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:21:31.72 ID:CES/Yeij0
P「ははは、謙遜しなくてもいいだろ。今年はがんばったからなあ」
雪歩「ありがとうございます。でも、今年は本当に時間が過ぎるのが早かったです。この前お正月だったのにまたお正月が来ちゃうみたいな……」
P「はは、そうか。でもお正月の前に……っと」
雪歩「?」
P「……年末まで仕事があるからなあ。大変だけど頑張ろうな」
危ない危ない。
危うくクリスマスのことを話題に出すところだった。
クリスマスは雪歩の誕生日。
それに向けて事務所のみんなはクリスマスパーティといいつつ、雪歩のサプライズ誕生会を計画中だ。
なのでなるべくそのことを話題に出さないように、というお達しが出ていた。
407 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:22:06.66 ID:CES/Yeij0
雪歩「でも、みんな去年と比べると本当に忙しくなりましたよね」
P「……そうだな」
クリスマスはみんな集まれるんだろうか。
律子と俺である程度は調整しているが、全員と言うのは厳しいかもしれない。
それに――
アイツはどうするんだろうか。
雪歩「プ、プロデューサー?」
P「ん?」
雪歩「な、何か考え事ですか?お顔が怖いですぅ……」
408 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:23:03.46 ID:CES/Yeij0
P「はは、この顔は生まれつきなんだ……なんてな」
軽口を叩いたつもりだったが、雪歩はぎこちなく笑っただけだった。
……担当アイドルに気を使わせるなんて、プロデューサー失格だな。
季節は12月の中旬。
まだ雪は振っていないが冷え込みはだいぶ厳しくなり、コートが手放せない。
年末に向けてアイドルたちの仕事も忙しくなり、俺も仕事に追われる日々が続いていた。
より気を張って仕事をしなければならない時期だが、俺はいまいち調子が悪い。
伊織の顔を思い浮かべる。
伊織が事務所に来なくなって数日が経っていた。
409 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:24:03.00 ID:CES/Yeij0
12月の初め、11月の模試結果が届いたあたりから少しずつ何かがずれ始めた。
P「ここはこのあいだやった問題の応用だろう?気づかなかったか?」
伊織「……」
P「まあ気づかなかったならしょうがないが……でもこっちの規則性のところなんかはせめて一つは解けたはずだ。ただ地道に数えていけばな」
俺と伊織は模試の見直しをしていた。
11月の模試の判定は『C』。
前回と変わらず、合格率は40~60%となっていた。
410 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:24:39.45 ID:CES/Yeij0
11月の模試は内申が決定してから初めての模試だったので、俺も伊織も判定が上がることを期待していた。
伊織の三年生後期の仮内申はなかなかのもので、そのおかげで小出高校の合格者の平均内申は上回っている。
内申が出ているため今回は純粋に点数勝負、点数が良ければいい判定が出る。
判定の信頼度が高くなってきている時期の模試だったのだ。
それで出た判定が『C』。
俺も意外だった。
伊織も気落ちしているだろうとは思ったが、早急に原因を調べなければならない。
いつもであれば伊織が自分で解き直しをやり、俺がその解説をしつつ模試の状況について話す。
ただ今回に関しては返却されてきた解答を持ってきてもらい、すぐに俺も交えて見直しをした。
411 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:25:29.99 ID:CES/Yeij0
その結果わかったことは――
P「……ここもだな。単純なケアレスミスだ」
らしくないケアレスミスが今回点数が伸びなかった原因だった。
伊織「……」
伊織は椅子の上で自分の解答を凝視している。
単純な計算ミス、問題の意味の取り違え、理科や社会での漢字ミスなんてものもあった。
俺も解答を眺めつつ思案する。
この時期の生徒対応は非常に難しい。
勉強をしていないから点数が伸びない、という単純な構図ではないからだ。
点数が伸びないなら原因は何なのか、原因がわかったらなぜそうなってしまったのか、しっかり大元に対してアドバイスをしなければいけない。
生徒自身、勉強に多くの時間を割いているのに点数が上がらないと悩んでいるケース。
実は見えないところでは勉強をしていないケース。
もうとっくに心が折れてしまっているケースなど、枚挙に暇がない。
412 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:26:15.77 ID:CES/Yeij0
また、原因がわかったとしても対応をどうするか?
発破をかけるのか、あえて突き放すのか、励ますのか、褒めるのか。
対応を一手間違えると、取り返しがつかなくなるなんてこともある。
悩んだ。大いに悩んだ。
そして、今回に関しては理論的に諭すのがいいという結論に達した。
点数に関して言えば今回の失点の多くはケアレスミスだし、ミスが減れば自然と点数も伸びる。そこまではいい。
問題は、今回なぜミスが異常に多いのかだ。それの原因をしっかり把握し、次への対策を考える。
その心当たりについては伊織に直接聞くしかない。
そういえば、今日は解答を持ってきた時から伊織の口数がやけに少ない。
というか最近ずっとこんな感じである。
ストレスか、はたまた違う原因か。
413 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:26:46.22 ID:CES/Yeij0
P「伊織さ……」
返事はない。
答案用紙から顔を上げる。
P「伊織?」
伊織は顔を俯けている。先ほどまで見ていた解答用紙も今は手に持たれているだけで、だらりと膝のあたりに下げられていた。
左手で口元を押さえている。
……泣いてるのか?
よく見ると、わずかにだが肩が震えている。
手を伸ばしかけて、止まる。
414 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:27:35.56 ID:CES/Yeij0
伊織の呼吸が荒い。
震えも大きくなってきている。
伊織の手から用紙が落ちる。
ぐらりと体が横に傾いだ。
P「……伊織!」
伊織が倒れる前に何とか体を抱きとめる。
伊織は、はあっ、はあっと大きく呼吸し、自らの体を守るように抱きしめていた。
顔が苦しさにゆがみ、額に汗をかいている。
P「――過呼吸か」
小鳥「プロデューサーさ……伊織ちゃん!」
会議室のドアから音無さんが入ってきた。先ほどの声を聴きつけたのだろう。
415 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:29:41.41 ID:CES/Yeij0
P「すいません音無さん、何か紙袋、なければビニール袋でも構いませんから小さめのものを持ってきてもらえませんか?」
小鳥「ふ、ふくろですか!?ちょっと待っててください!」
音無さんが会議室を出て行く。
腕の中の伊織に目をやる。
熱い。
体が熱を持っている。
P「伊織。聞こえるか?伊織!」
呼びかけてみるが返事はない。瞳は苦しさからかぎゅっと閉じられたままだ。
P「大丈夫だから心配するな。聞こえてるか?」
416 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:30:14.97 ID:CES/Yeij0
小鳥「プロデューサーさん!こ、これでいいですか!?」
P「ありがとうございます」
音無さんが持ってきてくれたのはちょうどハンバーガーが入ってくるくらいの紙袋だった。
それを伊織の口元にあてる。
P「伊織聞こえてるか?きついかもしれんが呼吸を落ち着けるんだ」
うっすらとだが瞳が開けられた。荒い呼吸を繰り返してはいるが、声は聞こえているらしい。
P「いいか?俺の声に合わせて呼吸をしろ。大変だとは思うが、がんばれ」
P「はい、吸ってー……吐いてー……吸ってー……吐いてー……」
普通に呼吸をするよりもかなりゆっくり呼吸のリズムを作る。
伊織は苦しそうにしながら呼吸を合わせようとしている。
417 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:41:51.67 ID:CES/Yeij0
P「がんばれ。吸ってー……吐いてー……吸ってー……吐いてー……」
何回か繰り返していると、徐々に呼吸が落ち着いてくる。
荒く大きい呼吸から、ゆったりとしたリズムの深呼吸に近くなる。
P「吸ってー……吐くー……大丈夫か?そのままゆっくり呼吸しろ」
顔からも苦痛の色がだいぶ消えてきた。
小鳥「あ、あの、伊織ちゃんは……?」
P「過呼吸です。……もともとそんな傾向があるとか知りませんよね?」
小鳥「は、はい。伊織ちゃんについてそういう話は聞いたことは……」
P「ですよね……伊織、自分で袋を支えれるか?もうしばらく口元にあててるんだ」
だいぶ落ち着いてきたのでそのまま伊織を抱えてソファまで連れて行く。
ソファに体を横たえる。
今はすぅすぅとした浅い呼吸になっていた。
体は汗ばんで熱を残していたが、苦しそうな状態ではないのでひとまず大丈夫だろう。
418 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:42:44.87 ID:CES/Yeij0
P「ふう……」
小鳥「……おつかれさまです。大丈夫ですか?」
P「ひとまずは。あ、なんか濡らしてもいいタオルかなんかありましたっけ?」
小鳥「あ、持ってきます」
音無さんから受け取った濡れタオルで伊織の額を拭ってやる。
そのままおでこにのせた。
小鳥「びっくりしましたね……何かあったんですか?」
P「いえ、普通に模試の話をしていたら急に」
小鳥「過呼吸?って言ってましたっけ。私言葉くらいしか聞いたことないですけど……」
P「そうですね。たまになる人もいるらしいですけど」
今回のことは何か原因があったのだろうか?
P「……ひとまず落ち着いたと思いますが、できれば病院に連れて行きたいんですが」
小鳥「大事を取ってそうしたいですね。あ、でも……プロデューサーさんはこの後仕事ですよね?」
P「そうですね……なんとか調整かけられれば……」
419 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:43:41.42 ID:CES/Yeij0
伊織「……だ、いじょうぶ……」
伊織が力ない声をだす。気が付くと目も開いていた。
小鳥「……伊織ちゃん、だいじょうぶ?具合は悪くない?」
伊織「……うん。体はだるいし、ちょっと気持ち悪い……」
伊織「でも、だいじょうぶ、だから……」
P「……全然声が大丈夫じゃないだろ。いいから横になってろ。音無さん、伊織の家に連絡してもらっていいですか?」
P「親御さんがいらっしゃったら病院に連れて行ってもらいます。新堂さんしかいらっしゃらなかった場合、こちらで病院に連れて行ってもいいか聞いてください」
小鳥「わかりました」
音無さんがデスクに戻り、受話器を取り上げる。
それを見ていると、下から小さな声が聞こえてきた。
伊織「……だいじょうぶだって、いってるじゃない」
P「寝てろ」
420 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:44:23.86 ID:CES/Yeij0
病院の駐車場で電話をかける。
律子『……もしもし?プロデューサー殿?』
P「ああ。今ひとまず診察が終わったよ。悪かったな」
律子『何言ってるんですか。それより伊織はどうでした?』
P「あーっと……とりあえず心配はいらない。詳細は事務所で話してもいいか?とりあえず伊織を送って休ませたいんだ」
律子『大事がないならよかったです。それで構いません』
421 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:45:13.70 ID:CES/Yeij0
P「すまんな。そっちは大丈夫だったか?」
律子『ええ。一人でこなしてくれた子たちも多かったですし』
P「そうか。助かったよ」
律子『それじゃあ、事務所で待ってますね。伊織のことよろしくお願いします』
P「ああ」
電話を切って、車に乗り込む。
後部座席には伊織が横になっている。
P「車出すぞ。気分が悪かったらすぐ言ってくれよ」
返事はなかった。
俺は普段よりなるべくゆっくりとアクセルを踏み、車を発進させた。
……
422 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/12(金) 20:46:13.68 ID:CES/Yeij0
伊織の家に着くと、伊織は頼りない足取りながら自分で歩いて玄関に入っていった。
もちろんその両サイドには御付きの人間がいたが。
新堂「――この度は真にありがとうございます。お手数をおかけしました」
P「いえ。こちらこそ伊織さんの体調に関して気配りが足りなかったようです。申し訳ございません」
新堂「いえ」
新堂「それで、重ね重ね申し訳ございませんが、旦那様と奥様へ今回の出来事について御報告しなければなりませんので、少しだけお話しを聞かせていただいてよろしいでしょうか?」
P「もちろんです――私も少し伺いたいことがございましたので」
つづく
427 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:16:20.13 ID:TAypXHCZ0
事務所に戻ってきたころには時刻は10時を過ぎていた。
律子「お帰りなさい」
小鳥「お帰りなさい、大変でしたね」
軽く返事をして、どっかりと椅子に腰を下ろす。
座った瞬間に腰を中心にじんわりとした疲労が全身に広がっていく感覚がした。
どうやらだいぶ疲れているらしい。精神的なものもあるだろうが。
小鳥「お疲れ様でした。どうぞ」
音無さんがお茶を持ってきてくれる。
一口飲んだ後、軽く肩の周りや腕、首を回す。
428 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:16:48.70 ID:TAypXHCZ0
律子「それで……話を聞いてもいいですか?」
ああ、と返事をし今日の話を大雑把に、時系列順に話す。
伊織と模試の見直しをしていたこと。
伊織が急に過呼吸になったこと。
俺自身は原因について思い当たる節がないこと。
伊織の両親が不在だったため許可を得て病院に連れて行ったこと。
P「『過呼吸だと思うんですが』って言ったらとりあえず呼吸器内科に回されてな」
P「状況を話したらおそらくそうだって言われたよ」
律子「原因については?」
P「……心因性のものだろうと」
429 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:17:24.39 ID:TAypXHCZ0
身体的な要因だと激しい運動の後に過呼吸になることがあるが、今回は関係ない。
そうすると考えられるのは精神的なものしかないだろう。
小鳥「やっぱりストレスが溜まってたってことですかね?」
P「まあそう考えるのが普通ですが……」
律子「何か?」
P「……伊織のやつが何も話さなくてな」
律子「何も話さない?」
体調はある程度回復していたはずだが、伊織は医者の問いかけに対して何も答えなかった。
俺が話を促しても口を開かず、結局そのまま診察は終わりになった。
P「まあショックもあるだろうからって先生は言ってたがな……」
律子「そうですか……」
430 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:18:10.40 ID:TAypXHCZ0
P「ただ、本人の話を聞けなかったのはちょっとな。伊織の体のことは伊織しかわからないし」
P「場合によっては軽度のパニック障害の可能性もあるらしいからな」
小鳥「パニック障害……?」
医者から聞いた話を話す。
パニック障害、PDは強い、又は慢性的なストレスによって発症することが多い精神疾患の一つである。
その症状は動悸、めまい、頭痛、異常な発汗などに始まり、強い恐怖感、閉塞感などを感じる。
その症状の一つに過呼吸が含まれることもある。
P「一応本人の話とかも聞かないと判断できないだろ?けど伊織が話さなかったからはっきりとは先生も判断できないらしい」
律子の顔がこわばる。
律子「じゃあ、もしかしたら……」
P「……ただ、パニック障害は人の多いところや公共の場なんかで症状が出ることが多いらしいから、今回はおそらくただの過呼吸だろうということだ。断定はできないがおそらく大丈夫だろうって言ってたぞ」
律子「……そうですか」
律子はあからさまにほっとした表情を浮かべる。
431 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:18:45.14 ID:TAypXHCZ0
小鳥「びっくりしました……でも、やっぱりショックだったんでしょうね」
律子「……」
会話が一度途切れる。
ただ、俺には話しておかなければならないことがもう一つあった。
気乗りしないまま口を開く。
P「……病院の診察とは別に報告がある」
律子「……あまりいい報告じゃなさそうですね」
P「どうもアイツ、家に帰ってから相当遅くまで起きてるらしい」
律子「……勉強してるってことですか?」
P「ああ。たぶんな」
これは伊織を送った後、新堂さんから聞いたことだ。
少し話しにくそうにしていたが、特に伊織から口止めされているというわけでもないらしく教えてくれた。
432 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:19:22.94 ID:TAypXHCZ0
小鳥「それは……あまりよろしくない?」
P「ただでさえアイツここで10時過ぎまで勉強してますからね」
P「休日なんか8時か9時くらいに来て、10時過ぎまでやってるってなると」
律子「……その時点で10時間以上は勉強してますね。ご飯や休憩を抜いたとしても」
小鳥「じゅ、10時間……」
律子「……確かにちょっと」
P「それに……」
律子「それに?」
P「ああ、いや……」
新堂さんから聞いた話を思い出す。
新堂『どうやらお薬を服用されているようで……』
433 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:21:40.39 ID:TAypXHCZ0
何の薬かまではわからないらしいが、使用人などが薬を手に入れるよう頼まれた事実はないらしいのでおそらく頭痛薬か何かだろうと言っていた。
……遅くまで起きているのに睡眠薬ということはないだろう。
とにかく、伊織はそこまで体を騙しながら勉強時間を作っていたということだ。
一瞬話の流れで口を突きかけたが、おそらく話してもどうなるものでもないだろうと思い、余計な心配をかけないため口をつぐんだ。
……ただ、あとで本人には確認をしておく必要はある。
話すとしても事実がはっきりしてからでいいだろう。
P「……実は勉強の時間自体はそんなに問題視してないんですよ」
小鳥「え?そ、そうなんですか?」
P「はい。この時期になると時間的には珍しくないというか……」
小鳥「……私絶対無理です」
P「いやまあ大変なのはそうなんですよ?ただ時間よりも気になるのは」
P「……追い詰められたように勉強してるのがちょっと」
律子「……」
434 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:22:18.44 ID:TAypXHCZ0
P「アイツ、根は真面目なやつですから」
律子「……確かにそうですね。最近は声をかけるのもためらわれるというか」
以前までは事務所のみんなも激励の声をかけたり、伊織もそれに答えたりしていたが、最近はそんな光景もあまり見なくなった。
伊織は事務所に来ても自習用のデスクに張り付いて黙々と勉強している。
そんな鬼気迫る様子に他の子たちも気軽には声をかけれないようだった。
P「もちろん質問に来たりはするんですがね。思い返すとそれ以外は最近まともな会話もしてないような」
P「模試の思ったような結果が出なかったりして……」
律子「……焦ってるというか……それこそ追い詰められてるって印象ですね」
P「ああ。それだけが引っかかる。今回のこともそういう精神的なものの積み重ねじゃないかと思ってな」
小鳥「……」
場が再び沈黙する。
435 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:22:55.90 ID:TAypXHCZ0
P「……明日はとりあえず1日休むように新堂さんに言付けてきました」
P「あとは俺が何とかします」
小鳥「何か対策があるんですか?」
P「……」
律子「……プロデューサー殿?」
P「……考える」
律子「考えるって……」
P「どうすれば最善か、少し考えてみる」
P「……俺の責任だしな」
小鳥「プロデューサーさん……」
436 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:23:31.15 ID:TAypXHCZ0
律子「……はあ」
律子がため息をつく。心配しているのだろう。
担当アイドルを預かっている身として申し訳なく思う。
今は活動休止中とはいえ、今後の伊織の活動についてはこの受験が運命を握っていると言っても過言ではないのだ。
律子「プロデューサー殿」
P「ん?」
律子「……ちょっといいですか?」
P「……?」
――――
437 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:24:05.69 ID:TAypXHCZ0
12月24日。
(……きたよ!きたきた!)
雪歩「はぅぅ、も、もどり……」
一同『雪歩、誕生日おめでとー!!』
盛大にクラッカーが鳴らされ、拍手の音が重なった。
雪歩「……」
春香「ゆーきほ!ささ、主役はこっち……に?」
ぱたりこ
真「わぁぁぁぁぁあ!?ゆ、雪歩!?」
真美「うーむ、やはり20連発はやりすぎでしたかなぁ?」
P「……ま、お約束だな」
――――
438 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:24:48.25 ID:TAypXHCZ0
P「おめでとう、雪歩」
雪歩「あ、ぷ、プロデューサー……ありがとうございます」
P「回復したか?」
雪歩「は、はい……うぅ、私ってば相変わらずで……」
P「まあ気にすることないさ。それより今日は主役なんだから肉食べろ、肉」
雪歩「あ、は、はい、いただきます」
――――
439 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:25:34.66 ID:TAypXHCZ0
亜美「さーて、それでは決勝戦は兄ちゃん対……まこちーん!!」
真「よろしくお願いします、プロデューサー!」
P「ふ……男として負けるわけにはいかないな」
真美「解説の律子さん、この勝負はどう見ますか!?」
律子「まあ、普通に考えたらプロデューサー殿でしょうね……というか腕相撲で真が勝ったらアカンでしょう」
真美「なるほど、極めて普通の解説ありがとうございます!」
響「まことー!自分に勝ったんだから優勝しなきゃ許さないぞー!」
美希「うー、ハニーに勝ってほしいけど、真くんにも負けてほしくないの!」
春香「両者力を抜いてー……レディー……」
春香「GO!……と言ったら始めてくださいね!」
「……」
のヮの「あれ!?」
――――
440 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:26:06.25 ID:TAypXHCZ0
P「……」
あずさ「ぷろでゅーさーさん?」
P「あ、あずささん。食べてますか?」
あずさ「はい~、頂いてますよ~。プロデューサーさんこそ食べてますか?」
P「ええ」
あずさ「ふふ~、額に皺を寄せてるからなにか考え事でもしてるのかと思って~」
あずさ「……伊織ちゃんのことですか?」
P「……眉間ですよね?」
あずさ「あら?そうとも言いますね~」
あずさ「うふふ、でもきっとこのパーティーの後に……」
P「……はい?」
あずさ「いえいえ~、ささ、飲んでください~」
P「はあ……」
P「……って、あずささん飲んでるんですか!?」
――――
441 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:26:32.49 ID:TAypXHCZ0
真美「うへ~い……」
律子「ちょっと亜美真美~、ちゃんと働きなさいよ」
亜美「燃え尽きちまったぜ……真っ白にな……」
P「お前らな……片付けの時はいっつも死んでるよな」
真美「真美たちの辞書に片付けの文字はないからね~」
亜美「一瞬でもいい!一瞬でも輝けたら……俺たちは満足なのさ……」
P「さっさと動け」
――――
442 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:27:17.86 ID:TAypXHCZ0
そして、片付けも大方済んだ頃。
律子「はいはい、じゃみんなちょっと注目~!」
律子が手を叩きながら話し出す。
律子「みんなが集まってるいい機会だし、ちょっと相談があるの」
――――
443 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:27:46.95 ID:TAypXHCZ0
――水瀬邸
12月24日。クリスマスイブ。
去年の今頃は何をしていただろう。
確かクリスマスイベントをこなした後、ミニライブをやって、その後事務所に戻って。
事務所ではパーティの準備がされていて――
パーティ、か。
444 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:28:22.93 ID:TAypXHCZ0
事務所に行かなくなって2週間ぐらい。
みんなの顔を見ていなかった。
でもしょうがない。
これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
……アイツにも。
何度か携帯の留守電にはメッセージが入っていた。
パーティの誘いだった。
結局、行くのはやめた。
こんな辛気臭い顔を見せるわけにはいかない。
それに、みんな気を遣っちゃうでしょう?
私は受験生なんだから、クリスマスもお正月もないの。
一人で孤独に勉強してるのがお似合いってもんね。
目の前のテキストを見る。
事務所に行かずに勉強をした方が気を使わせることもなく、集中できると自分に言い聞かせたが、気持ち的には全く乗らない。
今日は特に。
445 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:28:58.45 ID:TAypXHCZ0
なんだか糸が切れてしまったよう。
何のために勉強しているんだっけ?
何のために試験を受けるんだっけ?
何のために――
コンコン
ノックの音が意識を現実に引き戻す。
誰何すると、ゆっくりと扉が開き新堂が一礼して話し始める。
新堂「お嬢様、お勉強中に失礼致します」
新堂「――ご友人がお見えになられておりますが」
伊織「――は?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。
446 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:29:57.79 ID:TAypXHCZ0
「いっおり~!」
「伊織ちゃ~ん!うわぁ、なんか久しぶりだねぇ!」
「伊織ー!元気だった!?」
「こんばんは」
伊織「――はぁ!?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。たぶん、さっきよりも。
つづく
447 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/15(月) 01:30:26.66 ID:TAypXHCZ0
今回は以上。
449 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/07/15(月) 11:50:58.70 ID:NGDDXn2Ko
乙!
450 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/07/16(火) 11:46:11.91 ID:B1q7y/h40
乙ー
中間の顛末読んでたら泣きそうになった
周りで支えてくれてる人に対してすごく申し訳なくなるよな……
あの頃の気持ちはどこに行ったんだか……
451 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:43:08.32 ID:1+dgx88A0
始まりは私が欠席したクリスマスパーティの日、24日。
春香と真、雪歩が泊まりに来た。
伊織『今日はパーティだったんじゃないの?』
春香『そうだよー。はいケーキ!』
伊織『ありがと……じゃなくて!』
伊織『どうしてウチに来るわけ!?』
雪歩『う……よ、用事がないと来ちゃいけないかなぁ?』
伊織『そ、そんなことないけど……』
……
452 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:44:10.54 ID:1+dgx88A0
伊織『あんたたち、もう11時よ?』
真『大丈夫、今日は泊まってくから』
伊織『はあ!?何言ってんのよ!』
雪歩『まあまあ』
伊織『まあまあの意味が分からないわ……』
千早『迷惑かしら?』
伊織『……その質問は卑怯だと思うわ』
伊織『そもそもなんでよ?』
春香『私、終電なくなっちゃったー』
雪歩『た、誕生日だしー……』
真『うーん、なんとなく』
千早『特に理由はないけれど』
伊織『まともな理由があるの、春香だけじゃない……』
……
453 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:44:36.67 ID:1+dgx88A0
雪歩『真ちゃん惜しかったんだよねー』
真『うーん、でもなんかまだ余裕そうだったからなぁ』
伊織『っていうか、17歳の仮にも女の子が成人男性に腕相撲で勝っちゃダメでしょ』
真『仮にもってなんだよ!?』
春香『まあまあ』
……
454 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:45:11.24 ID:1+dgx88A0
伊織『なんでここで寝るのよ!?』
雪歩『まあまあ』
伊織『ちゃんと来客用の寝室があるからそっちで……』
真『まあまあ』
伊織『……アンタたちね』
のヮの『まあまあ』
……
455 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:45:41.85 ID:1+dgx88A0
真『……伊織、もう寝た?』
伊織『……起きてるわよ』
雪歩『伊織ちゃん、早く寝ないとだめだよ?』
伊織『そうね』
千早『……今日以外の日もね』
伊織『……え?』
千早『ううん、なんでも……』
456 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:46:26.87 ID:1+dgx88A0
春香『……試験、がんばってね』
伊織『……』
雪歩『応援してるよ』
真『ボクも』
伊織『……ありがと』
……
457 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:46:55.45 ID:1+dgx88A0
次の日。
やよい『伊織ちゃん!』
亜美『めりー!』
真美『くりすまーす!!』
あずさ『まーす。ふふふ、来ちゃった~』
伊織『……』
……
458 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:47:27.47 ID:1+dgx88A0
真美『ほいいおりん、ケーキだよー!』
伊織『……昨日も食べたわよ』
亜美『なにぃ!?亜美たちのケーキが食えないだとぅ!?』
伊織『昨日春香たちが来たからその時に食べたわ』
真美『ふーむ、それは初耳ですなぁ』
亜美『駆け落ちってやつですなぁ』
伊織『……抜け駆け?』
亜美『そうそれ!』
……
459 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:47:59.75 ID:1+dgx88A0
伊織『アンタたちも泊まってくわけ?』
真美『もち!』
亜美『ろん!』
あずさ『めいわくかしら~?』
伊織『……予想はついてたから』
伊織『でもやよいは家の方は大丈夫なの?』
やよい『うん!今日は長介にちゃんと頼んできたから!』
……
460 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:48:43.00 ID:1+dgx88A0
あずさ『うふふ、伊織ちゃん一緒に寝る?』
伊織『なに言って……』
亜美『寝る~!』
真美『真美も~!』
あずさ『あらあら~』
伊織『アンタたちね……』
やよい『私も一緒にいいですかー?』
あずさ『もちろんよ~』
伊織『やよいまで……』
461 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:49:09.08 ID:1+dgx88A0
亜美『いおり~ん、あずさお姉ちゃんすっごくやわらかいよ~』
真美『それにすっごくいい匂いがするよ~』
伊織『……』
真美『むう……亜美隊員、敵はなかなか粘り強いぞ!』
亜美『作戦の変更が必要であります、真美隊長!』
真美『んっふっふ~』
亜美『とつげきぃ!』
伊織『きゃあ!?』
……
462 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:49:58.61 ID:1+dgx88A0
伊織『……なんで五人で一つのベッドで寝なきゃならないのよ』
あずさ『うふふ~、たまにはいいじゃない』
亜美真美『zzz』
やよい『…………ウッウー……』
あずさ『ねえ伊織ちゃん?』
伊織『なに?』
あずさ『……私たち、伊織ちゃんのことが大好きよ』
伊織『……なによ、急に』
あずさ『ふふ、なんとなく言いたくなったの』
伊織『……』
あずさ『がんばってね、伊織ちゃん』
伊織『……うん』
……
463 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:50:31.14 ID:1+dgx88A0
さらに次の日。
美希『家出したから泊めてなの』
響『迷子になったから泊めてほしいぞ!』
貴音『今日は満月なので泊めていただきたいのですが』
伊織『……もうなんでもいいわ』
……
464 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:50:58.28 ID:1+dgx88A0
響『そういえば美希は受験はいいのか?』
美希『うん、適当なトコに行くの。パパとママは私立でもいいって言ってたし』
伊織『気楽でいいわね』
美希『でも、でこちゃんと一緒に勉強してみるのも良かったかも』
伊織『え?』
美希『うーん、ミキ勉強は嫌いだけどでこちゃんと一緒ならちょっとは頑張れたかもしれないなって』
伊織『……意味が分かんないわよ』
美希『ミキもよくわかんないけどね。あはっ』
貴音『ふふ』
……
465 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:51:46.02 ID:1+dgx88A0
美希『……ナノ……』
響『……zzz』
伊織『……』
貴音『……これは寝言ですが』
伊織『……』
貴音『……忘れないでください。あなたには事務所のみんながついていることを』
伊織『……』
伊織『……わかってるわ』
貴音『ふふ、そうですね。貴女は頭がいいですから』
伊織『……ありがとう』
貴音『どういたしまして』
……
466 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:53:36.73 ID:1+dgx88A0
そして12月27日。
新堂から話を聞いて玄関に行くと――
伊織「……律子も来るのね」
律子「久しぶり」
律子が立っていた。
仕事終わりらしくスーツ姿。
伊織「昨日が最終日かと思ってたわ。それで、今日の理由はなにかしら?」
律子「いやー、終電逃しちゃってねー、私としたことが」
伊織「……まあ、どうぞ」
律子「お邪魔します」
467 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:54:13.82 ID:1+dgx88A0
伊織「てっきり昨日が最終日かと思ってたわ」
律子「なんのことかしら?私は『偶然』終電逃しちゃっただけだけど」
伊織「……まあいいわ」
律子「そ。今日は何時ぐらいに寝るの?」
伊織「……12時くらいかしら」
律子「わかった」
伊織「律子も私の部屋で寝るわけ?」
律子「当然」
伊織「ま、いいけどね」
……
468 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:54:48.07 ID:1+dgx88A0
伊織「じゃあ電気消すわよ」
律子「ええ」
律子「おやすみ伊織」
伊織「おやすみ」
パチン
律子「……」
伊織「……」
伊織「……ねえ」
律子「うん?」
伊織「……アンタたちの差し金?」
律子「差し金ってひどいわね。それにアンタたちって?」
伊織「律子と……アイツよ」
469 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:55:16.91 ID:1+dgx88A0
律子「さあどうかしら?」
伊織「……」
律子「……気になるなら本人に聞いてみたら?」
伊織「だから聞いてるんでしょ」
律子「もう片方よ。それとも連絡できない理由でもあるわけ?」
伊織「……」
伊織「……こんな遅い時間に連絡したら迷惑でしょ」
律子「プロデューサー殿がこの時間に寝てるかどうかなんて」
律子「伊織が一番わかってるでしょ?」
伊織「……」
……
470 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/07/19(金) 21:56:15.56 ID:1+dgx88A0
<カガヤイターステージニタテバー
P「ん……」
家に持ち帰った仕事を処理していると電話が鳴った。
気づくともう日付が変わっている。
こんな遅い時間に連絡してくるのは――
P「もしもし」
『……久しぶりね』
P「……ああ、そうだな」
伊織だった。
今日は律子が泊まりに行っているはずだからな。
なんとなく予想はしていた。
471 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:56:44.46 ID:1+dgx88A0
P「元気か?」
伊織『ええ』
P「そうか」
伊織『……』
P「……」
伊織『……あの』
P「ん?」
伊織『……』
P「どうした?」
伊織『……今日律子が泊まりに来てる』
P「ああ」
472 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:57:10.68 ID:1+dgx88A0
伊織『それと、クリスマスの日からかわるがわるみんなが泊まりに来てるんだけど』
P「そうみたいだな」
伊織『そうみたいだなって……』
P「言っとくが俺が言いだしっぺじゃないぞ」
伊織『……そう』
話し方から嘘は言ってないとわかったのだろう。
……長い付き合いになるのも考え物だな。
P「それだけか」
伊織『……うん』
P「そうか」
473 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:57:39.79 ID:1+dgx88A0
P「じゃあ俺の方も言いたいことがあるんだが」
伊織『……』
P「お前、嘘ついてたな?」
P「いつも送った後、俺はちゃんと休めって言ってたよな?」
伊織『……』
P「でも、お前は遅くまで起きて勉強していたらしいな。体調にも影響が出るほど」
伊織『……ごめんなさい』
P「……今回のことは俺が言ったんじゃない。律子の話を聞いてみんなが自主的に考えて行動したことだ」
P「律子の、伊織が心配だって話を聞いてな」
伊織『……』
474 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:58:08.71 ID:1+dgx88A0
P「……みんなも心配してた」
伊織『……』
P「俺からはそれだけだ」
伊織『……』
P「……」
伊織『……ごめんなさい』
P「いいさ。俺のほうも反省点はいっぱいある」
P「ただ今はそんなことを言ってても始まらない」
P「……受験まであと少しだ」
P「この一年間の……努力が試される受験までな」
伊織『……うん』
475 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 21:58:55.05 ID:1+dgx88A0
P「だからあとちょっとだけがんばろう」
P「そして、受験が終わったら『ほんとにきつかった、いろんなことがあった』って話そう」
P「……もちろん笑ってな」
伊織『……うん』
P「……おし、じゃあもう休め」
伊織『……うん』
P「なんだ、返事してばっかだな。大丈夫か?」
伊織『……大丈夫よ』
P「伊織ちゃんなんだから?」
伊織『……馬鹿ね』
P「はは、それでいい」
476 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:01:13.48 ID:1+dgx88A0
P「じゃあ、切るぞ」
伊織『……うん、おやすみ』
P「ああ、おやすみ」
電話を切る。
最後の方は少しは元気になったかな。
……結局、俺が頭の中でぐちゃぐちゃ考えていてもいい考えは浮かばなかった。
伊織が過呼吸で倒れた。
伊織がだいぶ無理をしていたことがわかった。
話し合おうにも、それ以前に伊織が事務所に来なくなった。
その後一人で考えてみたが、どうするのが一番なのかわからなかった。
俺が何とかするべきだと思っていた。
それが責任だと思っていた。
477 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:01:40.07 ID:1+dgx88A0
その結果。
……律子に説教された。
……
478 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:04:21.54 ID:1+dgx88A0
伊織が倒れた日。
律子『プロデューサー殿』
P『ん?』
律子『……ちょっといいですか?』
P『……ああ』
律子『正座』
P『……は?』
律子『正座!』
P『は、はい!』
479 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:05:01.98 ID:1+dgx88A0
律子『……言いたいことは二つ』
律子『まず一つ目』
律子『なんでも一人でやろうとするなんて、あなたは完璧超人ですか? ってことです』
P『……り、律子さん?』
律子『なんですか?俺の責任って』
律子『アイドルに対しての責任は会社全体のものでしょう?』
律子『プロデューサー殿まで倒れたりしたらどうするんです?』
P『いやそ……』
律子『そうならないようにする、ってのは却下』
480 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:05:29.13 ID:1+dgx88A0
律子『社長が以前言ってたでしょう?ストレスとは気が付かないうちに溜まってるものだ、って』
律子『それともパーフェクト超人のプロデューサー殿は、俺だけは大丈夫とか言い出すつもりですか?』
P『……』
律子『二つ目は……』
律子『……私たちだって伊織のことを心配してるんですよ?』
P『……律子』
律子『亜美やあずささんはもちろん、事務所のみんな、音無さん、社長……』
P『……』
律子『……私もです』
律子『なにか協力できることがあるなら喜んでやります』
481 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:08:09.22 ID:1+dgx88A0
律子『だから……もっと相談してくださいよ』
律子『仲間の二人が大変な思いをしているのに』
律子『何もできないっていうのが一番……つらいです』
P『律子……』
P『……そうだな。悪かった』
律子『わかればよろしい』
P『……はは、一応俺の方が先輩のはずなんだけどな』
律子『そうですね。でも』
P『ん?』
律子『プロデューサー殿とは違う立場だからこそ、わかることもあると思います』
P『……伊織のことで、なにか心当たりが?』
律子『……まあ、あくまでこれは私の考えですけど』
律子『きっとあの子は――』
……
482 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:08:47.44 ID:1+dgx88A0
律子「――かっこよく見せたい人が変わったのね」
伊織「……」
暗闇の中、律子の声だけが聞こえる。
カーテンの隙間からわずかな光が差し込んでいるので天井がぼんやりと見える。
見慣れた天井を見ながら律子の声を聴いていた。
律子「以前の伊織はお父さんやお兄さんに認めてもらおうと、『スーパーアイドル』な伊織ちゃんを見せてたけどね」
律子「その分、事務所ではわがまま言い放題だったけど」
伊織「……そんなでも……なかったでしょ?」
律子「さあ?それを知ってるのはプロデューサー殿だけだから」
483 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:09:46.68 ID:1+dgx88A0
律子「でも人気が出てきて、知名度が出てきて、トップと呼ばれるようになって……」
律子「かっこよく見せたい人が、変わったんじゃない?」
かっこよく見せたい人。
律子「事務所のみんなにはトップとして輝いている姿を」
律子「亜美やあずささんにはリーダーとして強くなきゃいけない」
律子「そしてあの人には……」
律子「……」
律子「……まあそれはいいとして」
律子「そういうプレッシャーも、感じちゃったんじゃない?」
伊織「……」
伊織「そんなこと……」
律子「ふう……ほんとに、意地っ張りなんだから」
484 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:10:14.19 ID:1+dgx88A0
律子「こっちきなさい」
伊織「え?」
律子「プロデューサー命令」
伊織「……なんか、一緒に寝るの流行ってるの?」
ベッドを出て、律子の布団に近づく。
薄暗いので変なところを踏まないように気を付ける。
律子「えい」
伊織「……苦しい」
律子「いいじゃない、たまには」
伊織「……」
485 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:11:08.15 ID:1+dgx88A0
律子に抱きしめられていた。
頭上からと、体を通して2方向から声が聞こえる。
律子「……いいのよ、大変な時は大変って言えば」
律子「いつもいつも、強くいられるわけじゃないんだから」
伊織「……」
伊織「ちょっと……話してもいい?」
律子「もちろん」
伊織「……最初は、なんてことないと思ったの」
伊織「もともと勉強はできる方だったし、アイドルも二年目で大体要領もつかめてきたし」
4月。元々はお父様が来たのがきっかけだった。
……アイツから『ほんとに大変だぞ』って何回も念を押されたっけ。
486 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:11:38.35 ID:1+dgx88A0
律子「……うん」
伊織「でも、思ったように成績は変化しなかった」
伊織「ただ勉強をするんじゃなくて、いろんなテストに向けての対策なんかもしなきゃなかったし」
伊織「それに、昔の復習なんかもしなきゃなかったし……まあ3年間の内容が全部出るんだから当たり前なんだけど」
律子「そうね」
伊織「それでも、なんとかなると思ってた」
伊織「テスト勉強もあいつが教えてくれたし、テストを失敗してもあいつが励ましてくれたし」
花火、キレイだった。
487 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:12:37.70 ID:1+dgx88A0
伊織「模試に連れてってくれたり、質問に答えてくれたり……」
律子「……」
伊織「それに……みんなも」
伊織「私が勉強してるとがんばれって励ましてくれたり、差し入れをしてくれたり……」
伊織「……律子にも、スケジュールを調整してもらったり」
律子「……そんなこともあったわね」
社長に話を通した上で、律子にスケジュールを調整してもらった。
ただし、条件が一つ。
『プロデューサーがスケジュールについて相談してきたら、活動を停止する』
アイツが判断して、スケジュールを減らすべきと判断したらそれに従うため。
自分の意見がすんなり通ったことにプロデューサーは不思議がっていたようだった。
ちゃんと考えてくれていたことはうれしかった。
488 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:14:10.65 ID:1+dgx88A0
うれしかったけど――
伊織「けど……だんだん」
伊織「……こわく、なっ、てきて」
律子「……」
声が詰まる。
目元がじんわりと熱くなる。
伊織「みんなに……っ」
伊織「助けてもらって……るのに」
アイツに。
一杯迷惑をかけてるのに。
伊織「そ……れに……」
伊織「ファ、ンの……みんな……にも……めいわ、くっ……!」
自分の都合で活動を休止してしまった。
今までさんざん支えてきてもらったのに。
そんなにいろいろな人に迷惑をかけて。
489 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:15:04.59 ID:1+dgx88A0
伊織「……ひっ…………もし……」
伊織「……だめ、だったら、って、考えると……」
堪えてきた。
一人で堪えてきたつもりだった。
私はできると思い続けた。
けど。
顔を合わせることはできなかった。
できなくなっていった。
伊織「……ごめ……ちょ、っと……」
律子にしがみつく。
律子はそっと抱きしめてくれた。
律子「……」
伊織「……ひっ……ぅう……」
律子「……だいじょうぶ、だいじょうぶよ」
490 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:15:51.67 ID:1+dgx88A0
あたたかい。
なんだかとても安心する。
ずっとこうしてもらいたかったのかもしれない。
ああ、私は――
律子「――よくがんばったね」
認めてもらいたかったんだ――
……
491 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:16:20.41 ID:1+dgx88A0
伊織「……」
律子「……」
伊織「……ごめんね」
律子「……いいのよ。プロデューサーなんだし」
伊織「ふふ」
伊織「あーあ。それにしても、私もまだまだお子様みたい」
律子「どうしたのよ、急に」
492 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:16:52.48 ID:1+dgx88A0
伊織「律子に『がんばったね』って言われたとき、うれしかったもの」
伊織「……まだ目的も達成してないのに、褒められることを望んでたみたい」
伊織「まだまだね」
律子「ふふ、それが普通なのよ」
律子「人間には承認に対する欲求ってのがあってねえ……」
伊織「あー、はいはい。もういいわ」
律子「説明してあげようと思ったのに」
伊織「……でも、ほんとありがとね」
律子「……協力してくれたみんなにも、あとで言っときなさい」
伊織「……わかってる」
493 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:17:28.44 ID:1+dgx88A0
伊織「……あのね」
律子「うん?」
伊織「さっきはその……ちょっと、泣い……ちゃったけど」
伊織「実はだいぶ気持ち的には楽になってるの」
律子「……うん」
伊織「みんなの顔を見て……話してるうちに……」
伊織「……」
伊織「うまく言えない。とにかく、今はそんなにつらくないってこと」
律子「……ふふ、みんなのおかげ?」
伊織「……たぶんね」
494 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:18:16.14 ID:1+dgx88A0
伊織「ほんと、お人好しばっかりよ。うちの事務所は」
律子「お人好しだから困ってる人を見ると助けたくなるのよ、みんなね」
伊織「……うん」
律子「……ただ一つ、お説教」
伊織「う……な、なに?」
律子「みんな迷惑だなんて思ってない」
伊織「……それは」
律子「思ってない」
伊織「……わかった。ごめん」
律子「謝罪もいらない」
伊織「……」
伊織「……ありがと、律子」
495 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:29:40.11 ID:1+dgx88A0
目の前で、律子が笑っている。
薄暗くてわからないけど。
絶対に、いつもの笑顔で笑ってるに決まってる。
今日だけはいいよねと自分に言い訳しつつ、私は律子の胸に顔をうずめた。
――――
496 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:30:19.11 ID:1+dgx88A0
律子が伊織の状況を話すと、みんなは即決で伊織に会いに行くということを選択した。
実際に伊織に会って。
伊織と話して。
心配していること、無理をしないでほしい、ということを直接伝えて。
――大丈夫、と伝えることで。
さっきの電話の様子からすると、もう心配はいらないと思う。
きっと今頃は律子が上手くやってくれているだろう。
497 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:30:49.85 ID:1+dgx88A0
結局俺はほとんど何もできなかった。
正直、「俺が」解決したいという気持ちがあったのだと思う。
まったく、独りよがりな考えだ。
俺が何とかしてやりたかった。
プロデューサーなのだから、と。
結果、今の俺にできることは受験が終わるまでプロデューサー兼先生という役割をきっちり演じることぐらいだ。
ただすべてが終わったら。
その時は、今回のことをきっちり謝ろう。
498 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:32:41.39 ID:1+dgx88A0
思いっきり褒めて、思いっきりねぎらって、思いっきり謝ろう。
その後伊織にお礼を言って。
……文句を言われても甘んじて受けよう。
そして。
思いっきり二人で笑うんだ。
つづく
499 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/19(金) 22:33:41.13 ID:1+dgx88A0
今回は以上。読んでくれた方ありがとうございました。
500 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/07/19(金) 23:22:21.94 ID:1q/OwekXo
いい話だな乙
501 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/07/20(土) 16:30:35.67 ID:oeEKlviro
乙
プロローグの場面が12月初頭だからと考えると時系列がよくわからないぞ
502 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] :2013/07/21(日) 02:45:10.09 ID:siiGIk3t0
いおりつこってええなぁ…
ひとつ気になったところ
>>451で「春香と真、雪歩が泊まりに来た。」ってあるけど
>>452で千早がひょっこり出てきちゃってるなぁと
504 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] :2013/07/21(日) 23:05:38.60 ID:ShRRr6oP0
>>501 時系列について
プロローグが12月頭。そのすぐあと模試返却&病院送り。伊織が来なくなり約2週間でクリスマス。って感じかな。
ちなみにプロローグでPが「伊織を送るようになって3、4か月」とか言ってますが、本文では10月中旬以降から伊織を送るようになっています。それは「あっ……(察し)」でお願いします。Pだって疲れてるんです。……ごめんなさい。
>>502 単純にミスった。後悔はしている。
でもミスを指摘してくれるのはありがたい。やっぱり自分だと読み返しても気づかないミスもあるし。
ということで言い訳が済んだところで投下。
続き→P「受験か」伊織「そうよ」.Part3
転載元:P「受験か」伊織「そうよ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371233865/
スポンサーリンク
主な最新記事及び関連記事
AFTER モバP「あっち向いてホイだ」 荒木比奈「マジっスか」
BEFORE P「受験か」伊織「そうよ」.Part1
※リンクを貼って頂ける方は、URLをttp://にしてください